土佐勤王党の代表であり、土佐藩きっての逸材でした。その名声、人望は西郷隆盛をも凌ぐとも言われたほどでした。
活躍を始めるまで
1829年に生まれました。武市家は五世代前に土佐藩の白札格に取り立てられていました。階級差別の強かった土佐藩において、白札というのは被差別階級であった下士の最上格、上士に準じる格として敬意を払われていました。
剣術の才能にも恵まれ、小野派一刀流を学んで皆伝を受け、剣術道場を営みました。この道場の門下には歴史に名を表す中岡慎太郎、岡田以蔵などもおり、後に結成する土佐勤王党の母体ともなりました。
土佐勤王党
1858年の安政の大獄によって土佐藩主であった山内容堂が隠居に追い込まれました。程なくして大老井伊直弼が暗殺され、過激な尊皇攘夷の気運が高まっていました。しかし、当時の土佐藩は隠居の身とはいえ実権を掌握していた容堂、藩政を任されていた吉田東洋共に公武合体派であり、幕府支持の立場を取っていました。半平太は尊皇攘夷の思想を持っていましたので、これを打破し、藩論を勤王でまとめ上げるために土佐勤王党を結成しました。
最終的に半平太は吉田東洋の暗殺に踏み切ったようですが、当初は暗殺には否定的で、より穏健な方法で失脚させて藩政を掌握すべきであると主張していたようです。東洋暗殺の後、一時的に藩庁に追われる立場になったものの、藩内部の有力者の協力により、半平太が土佐藩の実権を掌握するに至りました。
こうして藩政は勤王派の半平太がとりながら、実質的藩主は公武合体派の容堂といういびつな形になったのです。
穏健な過激派
矛盾した表現かもしれませんが、武市半平太は過激派でありながら穏健派でした。たとえばある時期、天誅が横行しました。「天誅」というのは、尊皇に反する人物を殺害することを正当化した表現です。半平太もまた刺客を送り込んで天誅を行わせていましたが、ある日関白から天誅を控えるように諭されて以降は慎んだようです。また、幕府に通じ、尊皇に反すると見なされていた前関白や公卿などの暗殺依頼については、これを断って諫めています。
同志となった長州藩の久坂玄瑞から横浜異人館襲撃に誘われた際も、それを阻止しています。
容堂と半平太
容堂と半平太は、思想の違う両者ではありましたが、決して険悪な間柄だったわけではありません。容堂が江戸にいた時期、半平太も側に仕え、七度拝謁した感激を手紙に残しています。身に危険が迫ったときも、玄瑞から脱藩を勧められましたが、藩士として筋を通して容堂に進言する道を選んでいます。
容堂もまた、最後には半平太を切腹させることになりますが、それはしばらく先のことであり、他の勤王党の志士たちを切腹させたりはしながらも、半平太は罰せずにおきました。その才能は認めており、幕末において土佐藩の発言力のなさを嘆いた容堂は、半平太がいればと無念だったようです。
中岡慎太郎によれば西郷隆盛は半平太のように優れている、という評価ですし、玄瑞によれば隆盛よりも上にあると言われるほど。周囲のもの皆、先生をつけて呼ばねばいられない中、唯一「あぎ(顎のこと。半平太は顎が大きかったのです)」と気さくに呼びかけたのは坂本龍馬だけでした。
もし半平太が幕末に生きていれば、歴史に名を残したのは間違いないのではないかと思われますが、1863年の9月、会津藩と薩摩藩の共闘で尊王攘夷派が京から閉め出された影響で、尊王攘夷派の勢いが落ちていた頃、半平太らは投獄されることになりました。
勤王党のメンバーのうち四名が自白をしたものの、半平太らの罪状は立証されることはなく、二年間の投獄を経たものの、死罪となったのは盟主であった半平太と、自白をしたもの達だけにとどまりました。処分理由は「主君への不敬」というものであったため、容堂にさえその気があれば半平太を温存することはできたはずでした。
剛のものであった半平太は切腹の作法も豪快で、三度腹を切り裂いたといいます。このときまだ三十七歳であった半平太は大変惜しまれました。
辞世の句です。
ふたゝひと 返らぬ歳を はかなくも 今は惜しまぬ 身となりにけり
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