脇坂安治の辞世の句|豊臣に忠を尽くした武将が詠んだ静かな別れ

戦国武将 辞世の句

豊臣秀吉が天下人となる道を切り開いた戦いの一つ、賤ヶ岳の戦いで、めざましい武功を立て、「賤ヶ岳の七本槍」に数えられた猛将がいます。脇坂安治(わきざかやすはる)です。秀吉の子飼いとして大名に出世し、文禄・慶長の役では水軍を率いて活躍。そして天下分け目の関ヶ原の戦いでは、豊臣恩顧でありながら東軍に寝返るという大胆な行動で、戦後の生き残りを果たしました。武勇に優れながらも、時勢を見抜く shrewd(シュルード)な感覚で乱世を渡り歩いた安治。彼に口伝として伝わる句は、戦国の世を生き抜いた武将が感じた、命のはかなさへの思いを示しています。(この句が脇坂安治の辞世であるかは確定していませんが、口伝として伝えられています。)

波乱の生涯を生き抜く

脇坂安治は天文19年(1550年)、近江国の浅井家の家臣の子として生まれました。浅井家が滅亡した後、羽柴秀吉(豊臣秀吉)に仕えるようになります。天正11年(1583年)の賤ヶ岳の戦いでは、福島正則や加藤清正らと共に特に武功を挙げ、「賤ヶ岳の七本槍」の一人に数えられ、播磨国龍野三万石の大名に取り立てられました。秀吉の天下統一の過程で活躍し、文禄・慶長の役では藤堂高虎らと共に水軍を率いて重要な役割を果たしました。

豊臣秀吉の死後、天下が徳川家康と石田三成の間で二分されると、安治は当初、石田三成率いる西軍に属しました。しかし、関ヶ原の戦いの本戦において、小早川秀秋の寝返りに呼応し、同じ七本槍の面々と共に西軍を攻撃するという行動に出ます。この寝返りによって、安治は戦後、徳川家康からその功績を認められ、大名として存続することを許されました。賤ヶ岳で命を懸けて秀吉に忠誠を誓った武将が、時を経て関ヶ原で寝返り、生き残るという、波乱に富んだ生涯でした。多くの戦場で生死を見てきた安治は、命のはかなさを身をもって感じていたことでしょう。

風に舞い散る、命の無常

戦国の世を巧みに生き抜き、多くの戦場を見てきた脇坂安治には、彼が感じていたであろう命のはかなさへの思いを示す句が、口伝として伝わっています。これは辞世の句として確定した史実ではありませんが、安治という人物の死生観を表していると考えられています。

伝承される句:

「命とは 風に舞い散る 木の葉かな」

(この句は脇坂安治の辞世であるかは確定していませんが、口伝として伝えられています。)

人間の「命」というものは、まるで秋になって「風」に吹かれてはかなく「舞い散る」「木の葉」のようなものだなあ、と詠んでいます。いつどこで散るか分からない、はかない命への深い実感と、人生の無常観が込められています。

句(口伝)に込められた、達観

この口伝として伝わる句からは、脇坂安治という武将が抱いていた、命に対する率直な思いが伝わってきます。

  • 命のはかなさへの強い実感: 「風に舞い散る 木の葉」という比喩は、命が自身の意思とは関係なく、時代の大きな流れや偶然によって、いつ、どのように失われるか分からないという、戦国時代の命のはかなさを端的に表しています。数々の戦場で多くの人の死を見てきた安治にとって、これは皮膚感覚として感じていた真理だったでしょう。
  • 人生の無常観: 賤ヶ岳での栄光、そして関ヶ原での寝返りという、波乱の生涯を送った安治は、人生の浮き沈みを身をもって経験しました。栄華も一瞬のうちに失われる可能性があることを知っていたからこそ、命そのものの無常さを強く感じていたと考えられます。
  • 自然への投影: 自身の命や人生を、自然の情景(風に舞い散る木の葉)に重ね合わせることで、ある種の諦めや達観を示しています。抗うことのできない自然の摂理のように、自身の運命もまた、大きな流れの中で決定づけられるものである、という受容の念がうかがえます。

脇坂安治に伝わるこの句は、武勇で名を馳せ、時勢を見抜いて生き残った智将が、最期(あるいは晩年)に感じたであろう、命のはかなさへの率直な思いと、人生に対する達観を物語っています。

脇坂安治の生涯

脇坂安治の生涯と、口伝として伝わるこの句は、現代を生きる私たちにどのような示唆を与えてくれるでしょうか。

  • 命のはかなさへの意識: 私たちは普段、自身の命がいつか終わるということを強く意識せずに生きています。しかし、安治の句は、命が「風に舞い散る木の葉」のように予測不能で、はかないものであることを再認識させてくれます。命の有限さを意識することで、今という瞬間をより大切に生きようという気持ちになれるでしょう。
  • 変化の中でしなやかに生きる: 安治は時代の大きな「風」の中で、自身の判断で生き残る道を選びました。「風に舞い散る木の葉」のように、人生には自身の力ではどうにもならない変化や出来事が訪れます。そうした状況に抗うだけでなく、受け入れ、その中で自身の居場所を見つけ、しなやかに生きていくことの重要性を示唆しています(ただし、信念を曲げないこととのバランスも大切です)。
  • 人生における無常観と受容: 人生には良い時もあれば悪い時もあります。安治の句に込められた無常観は、人生の浮き沈みを冷静に受け止め、達観することの重要性を教えてくれます。すべては移り変わるものであるという認識を持つことで、困難な状況でも必要以上に悲観せず、心穏やかでいられる可能性があります。

脇坂安治に口伝として伝わる「命とは 風に舞い散る 木の葉かな」という句は、戦国の世を生き抜いた武将が感じた、命のはかなさへの率直な思いを今に伝えています。それは、現代に生きる私たちが、自身の命と向き合い、人生の無常さを受け入れ、変化の中でしなやかに生きるための勇気と示唆を与えてくれる、時代を超えるメッセージなのです。

この記事を読んでいただきありがとうございました。

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