黒田官兵衛・長政父子に仕え、「大身槍の又兵衛」と恐れられた猛将、後藤又兵衛基次。その武勇で名を馳せる一方で、黒田家での不遇や浪人生活、そして大坂夏の陣での壮絶な最期まで、波乱に満ちた生涯を送りました。
又兵衛が残したとされる言葉に、彼の苦労人としての側面と不屈の精神を示す名言があります。「軍に負ける度毎に天窓を剃らば、髪の長きことは永代有間敷」。これは、度重なる困難や敗北を経験してきた彼の自嘲とも、あるいはそれでも諦めない覚悟とも取れる言葉です。
現代ビジネスにおいても、私たちは様々な「負け」や失敗を経験します。新しいプロジェクトの失敗、営業目標の未達、キャリア上の挫折など、心折れそうになる瞬間は少なくありません。しかし、又兵衛のこの言葉は、そのような時でも立ち止まらず、何度でも立ち上がる勇気を与えてくれます。
本稿では、後藤又兵衛の生涯における困難と、この名言に込められた真意を掘り下げます。そして、現代ビジネスにおける失敗や逆境への向き合い方、そして「何度でも立ち上がる」ための実践的なヒントを探求します。
又兵衛が吐露した「度重なる敗北」の重み
不遇の猛将・又兵衛の生涯
後藤又兵衛は、黒田官兵衛に見出され、その嫡男・長政に仕えました。武勇に優れ、数々の戦で功績を挙げた又兵衛でしたが、次第に長政との関係が悪化し、黒田家を追われることとなります。
その後は浪人として各地を転々としますが、その高い能力と武勇は多くの大名から乞われました。しかし、自身の信念を曲げず、容易に仕官することはありませんでした。
晩年には豊臣秀頼に仕え、大坂夏の陣において徳川方の大軍を相手に奮戦。八艘飛びの伝説を残すほどの活躍を見せますが、力及ばず壮烈な最期を遂げました。
武将としての高い能力を持ちながらも、人間関係の難しさや時代の流れによって度重なる困難に見舞われた又兵衛の生涯は、まさに「七転び八起き」を体現していると言えるでしょう。
「天窓を剃らば…」に込めた自嘲と覚悟
「軍に負ける度毎に天窓を剃らば、髪の長きことは永代有間敷」
この名言は、彼の経験した「負け」がいかに多かったかを、額の髪を剃るという比喩を用いて表現しています。もし戦に負けるたびに額の髪を剃っていたら、すぐに髪がなくなってしまい、永遠に髪が伸びることはないだろう、という意味です。
これは、彼が経験した数多くの敗北や不遇に対する、ある種の自嘲やユーモアを含んだ表現かもしれません。しかし、その言葉の裏には、これほど多くの苦難を経験してもなお、戦い続けることを諦めなかった彼の強い意志と覚悟が秘められています。
「これだけ負けても、まだ立ち上がっている」という、自身の不屈の精神を、逆説的なユーモアを交えて表現した言葉と言えるでしょう。この名言は、単なる弱音ではなく、度重なる失敗を経験してもなお、目標に向かって粘り強く挑戦し続けることの重要性を示唆しています。
ビジネスにおける「失敗」への向き合い方
失敗を恐れずに挑戦する勇気
後藤又兵衛の言葉は、現代ビジネスにおける失敗への向き合い方について重要な示唆を与えてくれます。
新しい事業を立ち上げる、未経験の業務に挑戦する、困難な目標を設定するなど、ビジネスにおいて成功を目指す上では、失敗のリスクはつきものです。しかし、失敗を過度に恐れて挑戦を避けていては、自身の成長も、組織の発展もありません。
又兵衛が度重なる敗北を経験しながらも戦い続けたように、私たちも失敗を恐れずに、勇気を持って挑戦することが重要です。失敗は成功の対義語ではなく、成功へのプロセスの一部であると捉える視点が大切です。
挑戦しなければ、成功も失敗もありません。しかし、挑戦から得られる経験や学びは、たとえ失敗に終わったとしても、必ず次の機会に活かすことができます。又兵衛の言葉は、私たちに挑戦する勇気を与えてくれます。
挫折から立ち直るレジリエンス
又兵衛の生涯は、まさに挫折からの立ち直りの連続でした。黒田家を追われ浪人となった後も、再び戦場へと舞い戻り、最期まで勇猛に戦いました。
ビジネスにおいても、予期せぬトラブル、困難な状況、あるいはキャリア上の挫折など、私たちは様々な形で「負け」を経験します。そのような時に、落ち込み、意欲を失ってしまうこともあるでしょう。しかし、そこから立ち直り、再び前を向く力、つまりレジリエンスが重要です。
又兵衛が「天窓を剃らば…」と自嘲しつつも戦い続けたように、失敗や挫折を経験しても、それを悲観的に捉えすぎず、現実を受け入れ、次にどうすべきかを考える建設的な姿勢が大切です。
レジリエンスは、困難な状況でも冷静さを保ち、問題解決に向けて行動する力を育みます。失敗経験を単なるネガティブな出来事として終わらせず、そこから学びを得て、次に活かすことができるビジネスパーソンこそが、最終的に成功を掴むことができます。
失敗から学び、改善を続ける
又兵衛の言葉は、単に失敗を恐れるなということだけでなく、失敗から学びを得ることの重要性も示唆しています。
多くの「負け」を経験したからこそ、又兵衛はその経験から学び、自身の戦い方を磨いていったはずです。同じ過ちを繰り返さないためには、失敗の原因を冷静に分析し、改善策を実行することが不可欠です。
プロジェクトが失敗した原因は何か、なぜ目標を達成できなかったのか、自身の判断のどこに問題があったのか。感情論ではなく、客観的に事実を把握し、具体的に何を改善すべきかを検討します。
そして、導き出された改善策を実行に移し、次の挑戦に活かします。失敗から学び、それを次に繋げるというサイクルを回し続けることで、私たちはビジネスパーソンとして成長し、「天窓」がなくなるほど多くの経験を積み重ねたとしても、その経験を力に変えることができるのです。
「何度でも立ち上がる」ビジネス実践論
小さな成功体験を積み重ねる
度重なる失敗に直面しても「何度でも立ち上がる」ためには、自信を失わないことが重要です。
大きな目標だけでなく、日々の業務の中で小さな目標を設定し、それを達成していくことで、成功体験を積み重ね、自信を養うことができます。小さな成功体験は、たとえ大きな失敗を経験したとしても、「自分にはできる」という自己肯定感を保つ助けとなります。
また、困難な課題に取り組む際には、それを一度に全て解決しようとするのではなく、いくつかの小さなステップに分解し、一つずつクリアしていくというアプローチも有効です。それぞれのステップをクリアする度に達成感を得ることができ、モチベーションを維持しやすくなります。
信頼できる仲間の存在
山中鹿介の項でも触れましたが、困難な状況に直面した時、一人で抱え込むのではなく、信頼できる仲間の存在は大きな支えとなります。
チームメンバーや上司、あるいは社外のメンターなど、困難な時に相談できる、あるいは共に課題に取り組める関係性を築いておくことが重要です。自分の悩みや不安を共有することで、気持ちが楽になるだけでなく、他の人からの視点やアイデアを得ることができ、問題解決の糸口が見つかることもあります。
又兵衛が大坂の陣で多くの兵を率いて戦ったように、ビジネスにおける挑戦もまた、一人で行うものではありません。困難な時こそチームワークの力が問われます。
目標を見失わない粘り強さ
後藤又兵衛は、黒田家での不遇や浪人という逆境にあっても、武将として再び戦場に立つという目標を見失いませんでした。
ビジネスにおいても、失敗や挫折を経験した際に、当初の目標を見失わない粘り強さが重要です。なぜこの仕事をしているのか、何を目指しているのかを常に心に留めておくことで、困難な状況でも諦めずに努力を続けることができます。
目標が明確であれば、一時的な失敗は単なる通過点として捉えることができ、再び立ち上がるためのモチベーションを維持することができます。又兵衛の不屈の精神は、私たちに目標達成に向けた粘り強さの重要性を教えてくれます。
又兵衛の言葉が励ます不屈のビジネスパーソン
後藤又兵衛の「軍に負ける度毎に天窓を剃らば、髪の長きことは永代有間敷」という言葉は、ビジネスにおける失敗や逆境は避けられないものであるという現実を示しつつも、そこから逃げずに立ち向かう勇気を与えてくれます。
失敗を恐れずに挑戦すること、たとえ失敗してもそこから学びを得て、何度でも立ち上がること。そして、困難な状況でも目標を見失わず、粘り強く努力を続けること。これらの又兵衛から学ぶ不屈の精神は、変化の激しい現代ビジネスを生き抜き、キャリアを切り拓いていく上で不可欠です。
あなたのビジネスにおける「負け」は、「天窓を剃る」ほど多くなることがあるかもしれません。しかし、その一つ一つがあなたを強くし、成長させる糧となります。又兵衛の言葉を胸に、困難を乗り越え、何度でも立ち上がり、あなた自身の道を切り拓いていってください。
この記事を読んでいただきありがとうございました。
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