「齢八十にして、親父の云うことようやく心得たり」
戦国の波瀾万丈な時代を、足利義昭、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康という四人の天下人に仕え抜き、肥後五十二万石の礎を築いた細川忠興。武勇に優れるだけでなく、父・幽斎譲りの豊かな教養と茶の湯への深い造詣を持つ文化人としても知られています。彼の晩年のこの一言には、長きにわたる経験と、父からの教えに対する深い理解が凝縮されています。
若い頃、歌道に励むことを父・幽斎に勧められた際、忠興は「しょせん私のような者が歌を学んでも、歌人である父上の名を落とすだけでしょう」と謙遜しました。しかし、幽斎は「お前のような不出来な子が何人いても、私の歌人としての名を落とすようなことはない。安心しろ」と、息子の才能を信じ、励ましました。
このエピソードこそ、忠興が晩年にようやく理解した「親父の教え」の核心であり、現代のリーダーシップ、特に人材育成において重要なヒントを与えてくれるのではないでしょうか。
失敗を恐れず、可能性を信じる育成
幽斎の言葉には、「失敗を恐れるな。挑戦こそが成長の糧となる」という強いメッセージが込められています。忠興は、自身の才能に自信を持てずにいましたが、父は息子の可能性を否定せず、むしろその背中を力強く押しました。
現代のビジネスシーンにおいても、リーダーは部下の潜在能力をいち早く見抜き、積極的に挑戦させる環境を作ることが重要です。「失敗したらどうしよう…」と萎縮してしまう部下に対して、「恐れるな、まずはやってみろ。失敗から学ぶことは多い」と励ますことで、彼らは安心して新しいことに取り組むことができるでしょう。
また、幽斎の「お前のような不出来な子が何人いても、私の名を落とすようなことはない」という言葉は、リーダーが部下の失敗を恐れるあまり、挑戦の機会を奪ってはならないという戒めにも聞こえます。部下の成長を信じ、多少の失敗には目をつむり、そこから得られる学びを重視する姿勢こそ、組織全体の成長に繋がるのです。
経験を通して理解する教えの深み
忠興が父の言葉の真意を理解するまでに、八十年という歳月を要しました。これは、教えられたことを頭で理解するだけでなく、自らの経験を通して体で感じ、深く咀嚼することの重要性を示唆しています。
現代のリーダーは、一方的に知識やスキルを教え込むのではなく、部下が自ら経験し、失敗や成功を通して学びを深める機会を提供する必要があります。OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)はもちろんのこと、新しいプロジェクトへの積極的な参加、メンター制度の導入など、多様な経験を通じて成長を促す仕組みづくりが求められます。
また、リーダー自身も、自身の経験を振り返り、過去の指導者やメンターの言葉の意味を改めて考えることで、新たな気づきを得られるかもしれません。
文化的な素養が育む多角的な視点
武将でありながら、歌道や茶の湯にも深く通じた幽斎の影響を受け、忠興もまた千利休に師事し、茶人としても一流の腕前を持ちました。このような文化的な素養は、彼らに多角的な視点と豊かな感性をもたらし、武将としての判断力にも良い影響を与えたと考えられます。
現代のビジネスリーダーも、自身の専門分野だけでなく、幅広い知識や教養を身につけることで、より柔軟な発想や問題解決能力を高めることができます。歴史、文学、芸術、哲学など、様々な分野に触れることで、固定観念にとらわれない新しい視点を得ることができるでしょう。
まとめ:現代のリーダーが「親父の教え」から学ぶこと
細川忠興が晩年に気づいた「親父の教え」は、現代のリーダーにとって以下の重要な示唆を与えてくれます。
- 部下の可能性を信じ、失敗を恐れずに挑戦できる環境を提供する。
- 頭ごなしに教えるのではなく、経験を通して学びを深める機会を与える。
- リーダー自身も常に学び続け、多角的な視点を持つように努める。
「齢八十にして、親父の云うことようやく心得たり」。この言葉は、私たちに、世代を超えて受け継がれる教えの深さと、それを真に理解するためには、自身の経験と深い内省が必要であることを教えてくれます。現代のリーダーは、この言葉を胸に刻み、部下の成長を力強く後押しする育成者となるべきでしょう。
この記事を読んでいただきありがとうございました。
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