日々の行動の積み重ねが、私たちの人生や組織の未来を形作ります。意識して身につけた「良い習慣」は、着実に私たちを望む方向へと導いてくれるでしょう。しかし、一方で、なかなかやめられない「悪い習慣」が、せっかくの努力を無駄にしてしまうことも少なくありません。自己改善や組織の成長を目指す上で、この「習慣」という存在とどう向き合うかは、現代ビジネスパーソンにとって避けて通れないテーマです。九州の雄として、激動の戦国時代を生き抜き、巧みな統治手腕を発揮した島津義久もまた、人間の習慣や性質の奥深さを洞察していました。彼の残した言葉には、私たち自身の、そして組織の「悪いこと」と向き合うための重要な示唆が込められています。
島津四兄弟の長男として家督を継いだ島津義久は、武勇に優れた弟たちの力を結集し、一時は九州の大半を支配する勢力を築きました。豊臣秀吉による九州平定後も、巧みな外交手腕で家を存続させ、江戸時代に入ってからも薩摩藩の礎を築くなど、その生涯は戦だけでなく、内政や人心掌握にも長けていたことを示しています。そんな彼が、人間の本質、特に習慣について感じていたこととは何だったのでしょうか。
島津義久が看破した人間の習性と習慣の力
島津義久が、長年の経験を通じて得た人間の性質に関する洞察を表現した名言があります。
名言の背景と意味
「良いことの五つは真似しやすく、悪いことの一つはなかなかやめられない」
この言葉は、人間が良い習慣や優れた行いを模倣することは比較的容易である一方で、一度身についてしまった悪い習慣や性質は、たとえそれが一つであっても、断ち切ることが極めて難しいという、人間の本質を鋭く突いています。
「良いことの五つ」とは、例えば表面的な礼儀作法、流行を取り入れること、あるいは他者の成功事例を真似ることなど、比較的容易に形だけを真似できる行いを指していると考えられます。これらは努力すれば誰でもある程度は身につけることが可能です。
しかし、「悪いことの一つ」とは、怠惰、油断、慢心、先延ばし癖、あるいは感情的な反応など、人間の内面に根付いた悪癖や性質、そして組織に染み付いた非効率なプロセスやネガティブな文化などを指しているでしょう。これらは、頭では「悪いこと」だと分かっていても、長年の習慣になっているため、意識して変えようとしても強力な抵抗に遭い、なかなか克服できないものです。
島津義久が生きた時代、武士や組織の規律は極めて重要でした。少しの油断や規律の緩みが、命取りになることもあったのです。島津家には独自の家訓や「いろは歌」といった行動規範がありましたが、それでも人間の内なる弱さ、つまり「悪いこと」に繋がる性質とどう向き合うかは、リーダーとして常に課題でした。義久は、九州統一の過程で経験した成功や失敗、あるいは関ヶ原の戦い後の厳しい状況下での立て直しを通じて、人間が持つ「悪いこと」の根深さと、それを克服することの困難さを痛感していたのでしょう。
この名言は、表面的な改善や模倣に満足せず、自分自身や組織の「悪いこと」、つまり本質的な課題に目を向け、それを粘り強く改善していくことの重要性を、私たちに厳しくも優しく語りかけているのです。
島津義久の教えを現代ビジネスの自己改善と組織改革に活かす
島津義久の「良いことの五つは真似しやすく、悪いことの一つはなかなかやめられない」という言葉は、現代ビジネスにおける自己改善や組織改革において、多くの示唆を与えてくれます。彼の洞察を、私たちのビジネスシーンにどのように応用できるかを探ってみましょう。
個人の悪い習慣を認識し、断ち切る努力
ビジネスパーソン一人ひとりにとって、島津義久の言葉は自己管理の重要性を改めて教えてくれます。遅刻癖、報連相の遅延、タスクの先延ばし、健康を害する生活習慣など、私たちには多かれ少なかれ「悪いこと」が存在します。これらの悪い習慣は、日々のパフォーマンスを低下させ、長期的なキャリア形成にも悪影響を及ぼします。
良い習慣(早起き、計画的なタスク管理、定期的な運動など)を始めることは比較的容易に感じるかもしれません。しかし、本当に難しいのは、長年染み付いた悪い習慣を断ち切ることです。これには強い意志と継続的な努力が必要です。まずは自身の「悪いこと」を正直に認識し、その習慣がもたらす悪影響を理解することから始めましょう。そして、小さなステップで改善に取り組み、達成感を積み重ねることが、困難な「悪いこと」を克服するための鍵となります。
組織に根付いた悪習に立ち向かう勇気
島津義久の言葉は、組織文化や風土にも当てはまります。形式的な会議、非効率な承認プロセス、部署間の壁、事なかれ主義、あるいはハラスメント体質など、組織には成長を阻害する様々な「悪いこと」が存在する可能性があります。これらの悪習は、個人の悪い習慣と同様に、一度根付くとなかなかやめられません。
新しいツールを導入したり、最新のマネジメント理論を取り入れたりする「良いこと」は比較的容易に実行できます。しかし、組織の「悪いこと」を改善するには、リーダーの強いリーダーシップと、メンバー全体の意識改革が不可欠です。問題から目を背けず、根本原因を分析し、痛みを伴う改革にも立ち向かう勇気が求められます。島津義久が、家臣の規律を重んじ、組織を引き締めたように、現代のリーダーも組織の「悪いこと」と真摯に向き合い、改善に向けた粘り強い努力を続ける必要があります。
習慣の力を理解し、戦略的に活用する
「良いことの五つ」と「悪いことの一つ」という対比は、量の多少に関わらず、悪い習慣一つが与える悪影響がいかに大きいかを示唆しています。一つの悪い習慣が、せっかく積み上げた多くの良い習慣の成果を台無しにしてしまう可能性があるのです。
このことは、習慣が持つ力の大きさを物語っています。良い習慣を戦略的に身につけることは、長期的に大きな成果を生み出す複利のような効果をもたらします。一方で、悪い習慣を放置することは、組織や個人の破滅に繋がるリスクを孕んでいます。島津義久の言葉は、習慣の持つ力を正しく理解し、良い習慣を定着させる努力と共に、悪い習慣を徹底的に排除することの重要性を教えています。
悪い習慣を断ち切り、成長への道を切り拓く
島津義久が「良いことの五つは真似しやすく、悪いことの一つはなかなかやめられない」と語ったのは、人間の性質に関する深い洞察に基づいています。良い習慣を身につけること以上に、根深い悪い習慣を断ち切ることがいかに困難であるかを、彼は経験から知っていたのです。この言葉は、私たち一人ひとりに対し、そして現代の組織に対し、「悪いこと」から目を背けず、それを克服するための粘り強い努力を促しています。
自己改善も、組織改革も、容易な道のりではありません。しかし、自分自身の、そして組織の「悪いこと」と真摯に向き合い、それを断ち切る覚悟を持つこと。これこそが、持続的な成長への道を切り拓くための鍵となります。島津義久の言葉を胸に、悪い習慣を克服し、より良い未来を築くための第一歩を踏み出しましょう。
この記事を読んでいただきありがとうございました。
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