ビジネスシーンで日常的に使われている「了解いたしました」という言葉。しかし、近年ではこの表現が上司や取引先に対して失礼にあたるというマナーが定着しつつあります。中には「了解は軍隊用語だから不適切だ」という説を耳にしたことがある方もいるかもしれません。本記事では、了解という言葉のルーツから、なぜビジネスで避けるべきとされるのか、そして相手に信頼される正しい言い換え術までを詳しく解説します。
「了解」の語源と軍隊用語説の真実
まず、多くの人が疑問に思う「了解は軍隊用語なのか」という点について掘り下げていきましょう。
了解という言葉の本来の意味
了解とは、物事の内容や事情を理解し、それを承認することを指す言葉です。辞書的な意味においては、単にわかったことを示すニュアンスであり、それ自体に攻撃的な意味や失礼な意味は含まれていません。
軍隊や警察での使用実態
確かに、軍隊や警察、無線通信などの現場では、命令を受諾したことを示す合図として「了解(ラジャー)」が多用されます。これは、ノイズが多い環境でも聞き取りやすく、簡潔に意思を伝える必要があるためです。この「命令に対する受諾」という力強いイメージが、現代のビジネスシーンにおいて「上の者が下の者の報告を聞き入れる」というニュアンスとして定着した一因と考えられます。
マナーとして定着した背景
了解という言葉がマナー違反とされるようになったのは、比較的最近のことだと言われています。本来は対等な関係や日常会話で使われていた言葉ですが、丁寧語の「いたしました」を付けたとしても、「了解」という動作そのものが「評価して承認する」という上から目線のニュアンスを内包していると解釈されるようになったためです。
なぜ上司や取引先に「了解いたしました」はNGなのか
ビジネス敬語において、なぜ了解いたしましたという表現が不適切とされるのか、具体的な理由を整理します。
1. 承認のニュアンスが含まれるため
了解には、相手の言い分を認め、許可するという意味合いがあります。ビジネスの上下関係において、部下が上司の言葉を許可するという構図は不自然であり、傲慢な印象を与えてしまう可能性があります。
2. 丁寧語であって尊敬語・謙譲語ではないため
了解いたしましたは、丁寧語の「いたす」を使っているため、形式上は敬語の形をとっています。しかし、言葉の核となる了解の部分に相手を敬う意味が含まれていないため、目上の人に対して使うには敬意が不足しているとみなされます。
3. 相手によっては強い不快感を抱くため
特に年配のビジネスパーソンや、言葉遣いに厳しい取引先の場合、了解という言葉を聞いた瞬間に「教養がない」「敬意が足りない」と判断されてしまうリスクがあります。たとえ悪意がなくても、相手の受け取り方次第で信頼関係にひびが入る可能性があるのです。
ビジネスシーン別・敬語の使い分けマップ
言葉の使い分けを理解するために、相手との関係性と適切な表現の相関図を確認しましょう。
- 同僚・部下:了解、了解です(カジュアルな承認)
- 直属の近い先輩:了解いたしました(やや丁寧だが、親密な場合に限る)
- 上司・役員:承知いたしました、かしこまりました(標準的な敬語)
- 取引先・顧客:承知いたしました、左様でございます(最上級の敬語)
「了解いたしました」の正しい言い換え術
状況や相手に合わせて、どのような言葉を使うのが正解なのでしょうか。代表的な言い換え表現をマスターしましょう。
1. 最も汎用性が高い「承知いたしました」
ビジネスシーンで最も間違いがないのが「承知いたしました」です。承知には、事情を知る、引き受けるという意味があり、自分を低くして相手を敬うニュアンスが含まれます。上司に対しても、メールの返信でも、電話応対でも使える万能な表現です。
2. より丁寧で誠実な「かしこまりました」
承知いたしましたよりもさらに丁寧で、相手の言葉を謹んで受けるという姿勢を示すのが「かしこまりました」です。接客業や、重要な取引先からの依頼を受けた際など、より深い敬意を示したい場合に最適です。
3. 状況を理解したことを伝える「拝承いたしました」
主にメールや書面で使われる謙譲表現です。「拝」という字が入ることで、謹んで承るという意味になります。やや堅苦しい表現ですが、格式高い場や、公式な報告の返信などで使われることがあります。
4. 納得したことを示す「左様でございますか」
相手の説明に対して「わかりました」と同調する場合、了解いたしましたの代わりに「左様でございますか(左様でございますね)」を使うと、非常にスマートです。相手の言葉をそのまま肯定する響きがあるため、角が立ちません。
シチュエーション別・言い換え具体例
現場でそのまま使えるフレーズ集です。
ケースA:上司から会議の時間を変更されたとき
- NG:了解いたしました。その時間で大丈夫です。
- OK:承知いたしました。スケジュールを変更して対応いたします。
ケースB:取引先から資料の修正依頼が来たとき
- NG:修正の件、了解いたしました。
- OK:かしこまりました。ただちに修正し、改めてお送りいたします。
ケースC:指示の内容が明確に理解できたことを伝えるとき
- NG:内容について了解いたしました。
- OK:指示の内容、過不足なく拝承いたしました。不明点があれば改めてご相談させてください。
言葉遣いひとつで変わるビジネスの評価
了解いたしましたを承知いたしましたに変えることは、非常に些細なことのように思えるかもしれません。しかし、こうした細かい言葉の選択が、あなたのプロ意識や相手への配慮として蓄積されていきます。
マナーの形骸化を嘆くよりも適応を
「了解でも意味は通じるはずだ」と反発を感じる人もいるでしょう。しかし、ビジネスは相手があって成立するものです。相手がマナーとして不快に思う可能性があるならば、それを避けるのが賢明な判断です。正しい言葉遣いは、自分を守るための鎧でもあります。
メールでの注意点
特にテキストコミュニケーションであるメールやチャットでは、表情が見えない分、言葉の冷たさが強調されがちです。了解いたしましたという短文は、突き放したような印象を与えることがあります。承知いたしましたという柔らかい表現を使うことで、円滑なコミュニケーションを促進しましょう。
まとめ:信頼を築くための第一歩
本記事の内容を整理します。
- 了解は軍隊や無線でも使われる簡潔な言葉だが、ビジネスの目上の人には不向き。
- 理由は、了解という言葉に承認や許可という上から目線の意味が含まれるため。
- 上司や外部に対しては承知いたしましたを使うのが基本。
- より丁寧な対応が必要な場面ではかしこまりましたを選択する。
- 言葉の使い分けは、相手への敬意を可視化する重要なスキルである。
明日からの業務では、つい口癖になっている了解いたしましたを、意識的に承知いたしましたに置き換えてみてください。その一歩が、周囲からの信頼を高める大きなきっかけになるはずです。
この記事を読んでいただきありがとうございました。