過剰な「でございます」にご用心!丁寧語の正しい使い方と自然な言い換え方

間違いやすい敬語シリーズ

私たちは、お客様や目上の方に対し、最大限の敬意を払おうとするとき、つい「でございます」という言葉を多用してしまいがちです。「でございます」は、「です」の丁寧語である「であります」をさらに丁重にした言葉であり、非常に格式の高い、洗練された印象を与えます。

しかし、この非常に丁寧な表現を安易に多用したり、不適切な文脈で使ったりすると、かえって「過剰敬語(過剰丁寧)」となり、不自然で回りくどい、時には慇懃無礼な印象を与えてしまうことがあります。丁寧さが行き過ぎた結果、肝心なメッセージが伝わりにくくなるのは、非常にもったいないことです。

本記事では、「でございます」という言葉の基本的な構造と、なぜ「過剰」になってしまうのかを深く掘り下げます。そして、この言葉を本当に使うべき場面、避けるべき場面を明確にし、さらに、より自然で心遣いが伝わる「です」「でございます」の代わりとなる表現や言い換え方を、具体的な例文とともに徹底的に解説します。この記事を通じて、皆様のビジネスコミュニケーションがより洗練されたものになることを目指します。

「でございます」の基本的な構造と「過剰敬語」になる理由

まず、「でございます」という表現が、日本語の敬語の中でどのように位置づけられているのか、その基本から確認しましょう。

「でございます」を構成する要素と意味

「でございます」は、断定の助動詞「だ・である」の丁寧語である「です」や「であります」から派生した表現です。

  • 「である」の丁寧形

    もともと、「〜でございます」は、「〜である」の丁寧語「〜であります」をさらに丁重にした、謙譲の意を込めた丁寧語とされています。非常に格式が高く、相手への敬意を強く示す効果があります。

  • 極めてフォーマルな表現

    この表現は、ホテルや百貨店など、特に高いレベルの接客が求められる場所や、公的な文書、あるいは重要な発表の場など、最大限の丁重さが必要とされる場面で使用するために発展しました。

「過剰敬語」になってしまう典型的なパターン

「でございます」が不自然になってしまうのは、以下の二つのパターンが原因であることが多いです。

  • 断定の反復と過剰な付加

    一つの文の中で、断定の言葉を過剰に繰り返したり、本来「です」で十分なところに無理やり置き換えたりする場合に、過剰な印象を与えます。

    (誤った例)「こちらが、弊社の商品でございます。」 → 必要以上に仰々しい印象になります。

  • 二重敬語(丁寧語の重ねすぎ)

    尊敬語や謙譲語と組み合わせてしまうことで、二重敬語のようになってしまうケースです。「でございます」自体は二重敬語ではありませんが、他の丁寧な表現と連続すると、不自然さが増します。

    (誤った例)「〇〇様も、そのようにご覧になっていらっしゃいますでございますか?」 → 敬意が複雑になりすぎて意味が通りにくくなります。

「でございます」を「使うべき場面」と「避けるべき場面」

「でございます」を効果的に使うためには、その言葉の持つ「格式の高さ」が、その場の状況や相手との関係性に合致しているかを見極めることが重要です。

「でございます」を使うべき場面(効果的な使用)

最大限の丁重さが必要とされる、以下のような場面で効果的に使用できます。

  • 格式の高い接客やアナウンス

    百貨店、高級ホテル、美術館など、非日常的な空間で、不特定多数の顧客に対し、最高水準の丁寧さが求められる場面で適切です。

    (例)「本日、当館は午後6時まで営業中でございます。」

  • 公的な発表や儀礼的な挨拶

    株主総会、政府の公式発表、非常に重要な取引先への挨拶など、言葉の一つ一つに重みが求められる場で使用されます。

    (例)「本日の説明は以上でございます。誠にありがとうございました。」

「でございます」を避けるべき場面(不自然になる使用)

日常的なビジネスシーンや、親密なコミュニケーションにおいては、避けた方が無難です。

  • 社内での会話やメール

    上司や同僚への連絡で多用すると、必要以上に他人行儀で、冷たい印象を与えます。社内では、基本的に「です・ます調」で十分な丁寧さが伝わります。

  • 多用による情報の伝達阻害

    一つの文の中に何度も使用したり、簡単な説明の間に挟んだりすると、かえって話が途切れ途切れになり、聞き手が内容を理解するのを妨げます。

  • 親しい取引先や長期的な関係性

    長期的な取引関係にある顧客など、信頼関係が構築されている相手に対して、過剰な丁寧語を使うと、距離を感じさせ、「水くさい」印象を与えかねません。

自然で心遣いが伝わる「です・でございます」の言い換え方

「でございます」の過剰な使用を避けつつ、丁寧な姿勢を保ち、相手への配慮を伝えるためには、「です」や「でございます」に頼らない、他の表現を習得することが鍵となります。これは、表現の幅を広げることにも繋がります。

1. 状況を伝える動詞や形容詞を活用する

断定の「です」や「でございます」を、より具体的で自然な動詞や形容詞の丁寧形(〜ます)に置き換えます。

  • 事実・状態の確認

    (不自然な例)「こちらの色は、黒でございます。」

    (自然な言い換え)「こちらは黒色でございます」 → 「こちらは黒色になります。」(より丁寧な場合)

    (より自然な言い換え)「こちらは黒色でございます」 → 「こちらは黒色を使用しております。」(具体的な動詞で表現)

  • 時間・場所の伝達

    (不自然な例)「会議の開始は、10時でございます。」

    (自然な言い換え)「会議の開始は、10時からでございます。」 → 「会議は10時に開始いたします。」(具体的な動詞で表現)

2. クッション言葉や補助動詞を適切に使う

文末の「です」を過度に丁寧にせずに、文頭や文中に相手への配慮を示すクッション言葉を加えることで、全体の印象を丁寧にします。

  • クッション言葉の活用

    (不自然な例)「それは仕様に含まれておりませんでございます。」

    (自然な言い換え)「それは仕様に含まれておりません。」 → 「恐れ入りますが、そちらは仕様に含まれておりません。」(文頭で配慮を示す)

  • 「〜ございます」を補助動詞として活用

    「〜でございます」ではなく、動詞の補助として使う「〜てございます」は、「〜てあります」の丁寧語であり、まだ丁寧さが保たれます。ただし、これも多用は禁物です。

    (例)「資料は机の上にご用意してございます。」

「です・ます」の丁寧さを保ちつつ、親しみを込める工夫

最高の敬意を表す「でございます」の使用を控えても、「です・ます」調だけで、十分に丁寧さと心遣いを伝えることは可能です。以下の工夫を取り入れましょう。

1. 語尾を言い切らずに優しく結ぶ

断定的な「です」で文を終わらせるのではなく、少しだけ余韻を持たせることで、柔らかな印象を与えます。

  • 語尾を柔らかく結ぶ表現

    「〜と思います。」や「〜と考えております。」、「〜でよろしいでしょうか。」のように、相手に確認を促したり、自分の意見を控えめに伝えたりする表現を意識的に使います。

2. 相手の名前や状況を具体的に述べる

形式的な「です・でございます」に終始するのではなく、「〇〇様にご満足いただくために」や「今週中に完了できますよう」といった、相手や具体的な目標を織り交ぜることで、丁寧さに加えて「あなたのために」という個別性が加わり、心遣いが強く伝わります。

3. 質問やお願いの形に変換する

一方的な断定を避け、相手の意向を尋ねる形に変換することで、会話に双方向性が生まれます。

  • (断定的な例)「提出期限は明日でございます。」
  • (質問形への変換)「提出期限は明日でよろしいでしょうか。」

まとめ:「です・でございます」から一歩進んだ敬語表現へ

「でございます」は、日本語の敬語の中で、極めて高い丁重さを持つ美しい言葉です。しかし、その格式の高さゆえに、使用場面を誤ると、かえって不自然で、慇懃無礼な印象を与えかねません。

過剰な「でございます」を控え、基本的な「です・ます」調を軸に、状況に応じた動詞の丁寧形や、相手への配慮を示すクッション言葉を効果的に活用すること。これこそが、現代のビジネスシーンで求められる、洗練された、心遣いの伝わるコミュニケーションの鍵となります。

「丁寧さ」とは、単に言葉を飾ることではなく、相手の立場や状況を思いやり、最も心地よく、明確に情報が伝わる言葉を選ぶことです。この記事で解説したポイントを実践することで、皆様の敬語表現がさらに磨き上げられ、信頼関係の構築に繋がることを願っております。

この記事を読んでいただきありがとうございました。

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