ビジネスの場では、顧客や取引先からの依頼、注文、予約、意見などを「聞く」「引き受ける」機会がたくさんあります。そんなとき、相手に自分がしっかり内容を受け止めたことを伝える敬語として、「承りました」がとても重要です。
「承りました」は、単に「聞きました」という意味だけでなく、相手に対する敬意や、きちんと対応するプロとしての姿勢も含まれています。電話やメールでのやり取りでは、相手に安心感や信頼感を与える大切な言葉になります。
ただし、「承りました」を使う際には、使う場面や類義語との違い、過剰な表現にならないように注意することが大切です。最近よく使われる「承知いたしました」や「了解しました」との違いを正しく理解することも、ビジネスマナーで差をつけるポイントになります。
この記事では、「承りました」の基本的な意味や敬語としての使い方から、電話・メールでの具体的な実践例、さらに類義語との使い分けまで、豊富な例文と注意点を交えて丁寧に解説します。この記事を読めば、あなたのビジネスでのコミュニケーションがより丁寧で信頼できるものになるはずです。
第1章:「承る」の敬語的定義と「聞く・引き受ける」の統合
「承りました」は、動詞「承る」(うけたまわる)の丁寧な過去形です。「承る」は、日本語の基礎動詞である「聞く」「受ける」「引き受ける」の三つの意味を持つ謙譲語が融合した、非常に機能的な言葉です。
1. 「承る」が持つ三つの意味
「承る」は、自分の行為をへりくだらせる謙譲語であり、主に以下の三つの行為を包括的に表現できます。
- 聞く(傾聴): 相手の意見、話、用件などを謹んで聞くこと。
- 受ける(受領): 相手からの注文、依頼、申し出などを受け取ること。
- 引き受ける(承諾): 相手の要求や依頼を快く引き受けること。
「承りました」と言うだけで、「お客様の用件を謹んで聞き、そして確かに引き受けました」という一連のプロセスを、最大限の敬意をもって伝えることができます。
2. 「承りました」は「最上級の謙譲語」
「承る」は、自分の行為を極めて低くすることで、相手を高める「謙譲語I(丁重語)」に分類されます。そのため、社外の顧客や取引先に対しては、依頼や用件を受け付けた際の返答として最もふさわしい表現です。
- 主体: 自分(話し手・身内)
- 敬意の方向: 話し相手(外部の相手)に対して
第2章:「承知いたしました」との使い分け:機能と使用範囲
「承りました」と同様に「わかった」ことを伝える敬語に「承知いたしました」があります。この二つには、機能的な違いがあり、使い分けの原則が存在します。
1. 「承知いたしました」の機能:理解の表明
「承知いたしました」は、「承知する」(知る、わかっている)の謙譲表現です。これは、主に「内容を理解した」という知的な行為に焦点を当てた言葉です。
- 機能: 相手の話や指示を「理解し、知った」ことを伝える。
- 適用範囲: 自分の頭の中で処理が完了した段階。
2. 「承りました」の機能:行動の約束
「承りました」は、「聞く」「受ける」「引き受ける」という、より行動を伴う行為に焦点を当てた言葉です。
- 機能: 相手の依頼や注文を「確かに引き受けた」ことを伝える。
- 適用範囲: 物理的な受付や、今後の行動への約束が含まれる段階。
3. 使い分けの鉄則
場面 | 適切な敬語 | 理由 |
---|---|---|
注文・予約の受付 | 承りました | 「受け付けた」という行為を伴うため。 |
伝言・用件を預かる | 承りました | 「用件を聞いた」「伝言を引き受けた」という行為のため。 |
上司からの指示 | 承知いたしました | 「指示内容を理解した」という知的な理解の表明のため。 |
会議で話を聞いた後 | 承知いたしました | 「内容を理解した」ことを伝えるため。 |
一般的に、電話応対で相手の用件を受け付ける際には、「承りました」がより丁寧で包括的です。
第3章:電話・メールでの実践的な使いこなし術
「承りました」は、特にその使用頻度が高い電話応対やメールで、どのように使うべきかを見ていきましょう。
1. 電話応対での「承りました」
電話応対では、相手の用件を復唱確認した後、結びに「承りました」を使います。相手に「自分の依頼は確かに受け付けられた」という安心感を与えます。
- (注文・予約)「ご注文の品は〇〇で、お届け希望日は明日ですね。確かに承りました。」
- (伝言)「かしこまりました。〇〇には戻り次第、私からその旨承りましたと申し伝えます。」
- (依頼)「その件につきまして、担当者が対応いたします。ご依頼、確かに承りました。」
【NG表現】
- (誤)「わかりました。」 解説: 丁寧さが欠落しており、論外です。
- (誤)「了解しました。」 解説: 社外の相手には失礼にあたる場合があります。「了」は目下に使われる言葉です。
2. ビジネスメールでの「承りました」
メールでは、「承りました」は、相手からの情報や依頼を受信し、対応を開始することを伝える際に使われます。
- (資料請求に対して)「〇〇様よりの資料請求、確かに承りました。本日中に発送手続きをいたします。」
- (メールの受信に対して)「ご丁寧なメール、拝見いたしました。ご依頼の内容、確かに承りました。」
【注意点】
メールでは「承知いたしました」も頻繁に使われますが、相手の依頼や質問に対する返答メールでは、「拝見し、内容を理解しました」という意味で「承知いたしました」を使うのが自然です。
第4章:類義語と応用表現:敬語力の底上げ
「承りました」を核として、周辺の敬語表現を正しく使い分けることで、敬語力を底上げできます。
1. 「承知いたしました」と「了解いたしました」の最終確認
「了解」は「わかる」という意味ですが、謙譲表現ではないため、社外の相手や上司には不適切です。
- (NG)「〇〇様、ご要望了解いたしました。」
- (推奨)「〇〇様、ご要望承知いたしました。」
社内においても、上司からの指示に対しては「承知いたしました」を使うのが一般的です。
2. 「拝受いたしました」との使い分け
「拝受いたしました」は、「受け取る」の最上級の謙譲語です。これは主に、メール、FAX、書類などの物品やデータを謹んで受け取ったという行為を指します。
- (物品・データ)「ご送付いただきました資料、確かに拝受いたしました。」
- (依頼・用件)「お電話でのご用件、確かに承りました。」
「依頼や用件」のような非物質的なものには「承る」、「書類やメール」のような物質・データには「拝受する」を使うと、より使い分けが明確になります。
3. 伝言を依頼された時の「申し伝える」との併用
相手の伝言を聞き、それを社内の人に伝えることを約束する際は、「承る」と「伝える」の謙譲語を併用します。
- (正)「かしこまりました。用件を承りました。戻り次第、私から〇〇に申し伝えます。」
4. 過剰表現「承りいたしました」の回避
「承る」はそれ自体が謙譲語であるため、「承りいたしました」とすると、「いたす」(するの謙譲語)が重複し、過剰敬語になります。
- (誤)「ご注文、承りいたしました。」
- (正)「ご注文、承りました。」
結び:言葉で伝える安心感と信頼感
「承りました」という言葉には、ただ依頼を聞いたというだけでなく、「あなたのお願いをしっかり受け止めて、きちんと対応しますね」という気持ちが込められています。電話の向こうの相手やメールの相手も、この一言でほっと安心できるのです。
一方で「承知いたしました」は、内容を理解したことを伝える言葉。「承りました」は、理解だけでなく、行動への約束も含まれています。この違いを意識して、状況に合った言葉を使うことが、
ビジネスでのコミュニケーションをより丁寧で信頼できるものにしてくれます。
この記事を読んでいただきありがとうございました。