伝言で使う「申し伝えます」と「お伝えください」の正しい使い方【例文・NG表現あり】

備えあれば憂いなし

ビジネスの現場では、相手が不在の場合や、自分と別の上司・同僚との間を取り持つ形で「伝言」を扱う場面が頻繁に発生します。この「伝える」という行為に関する敬語の中でも、「申し伝えます」と「お伝えください」は、特に誤用が多く、プロフェッショナルとしての能力を問われやすい表現です。これらの言葉の使い分けは、単なるマナーではなく、「誰を立て、誰をへりくだらせるのか」という敬意の方向性を明確に示す、重要なスキルです。

本稿では、この二つの伝言敬語の根本的な違いを詳しく解説し、電話応対やメール、社内での報告など、具体的なシーンごとの正しい使い方を、豊富な例文と間違えやすいNG表現とともに深掘りします。本稿で紹介するスキルを身につければ、あなたの伝え方はぐっと洗練され、信頼される印象を与えられるようになります。

第1章:「伝える」行為の敬語分類と敬意の方向性

まず、伝言で使う「伝える」という動詞の敬語表現が、日本語の敬語体系のどこに位置づけられるのかを明確にします。

1. 「伝える」の尊敬語と謙譲語

「伝える」という動詞は、以下のように尊敬語と謙譲語に変化します。

敬語の種類 表現 適用主体 機能
尊敬語 お伝えになる 相手(目上の人) 相手の行動を高める。
謙譲語I 申し伝える 自分(話し手・社内) 自分の行動をへりくだらせ、相手を高める。
謙譲語II(丁寧語) お伝えする 自分(話し手・社内) 自分の行動を丁寧に述べる。

2. 「申し伝えます」の役割:謙譲の表明

「申し伝えます」は、「伝える」の謙譲語「申し伝える」に丁寧語「ます」を付けた表現です。自分の行為をへりくだることで、話を聞いている相手(顧客や取引先など)に敬意を示します。

  • 使用シーン: 相手の依頼を受け、自分が社内の上司・同僚に伝言する時。
  • 敬意の方向: 話し相手(外部の相手)

これは、相手(外部)からのメッセージを、社内という「身内」の者に「伝える」行為を、外部の相手に対してへりくだって述べるという構造です。

3. 「お伝えください」の役割:相手への依頼と尊敬

「お伝えください」は、「伝える」の尊敬語「お伝えになる」の命令形ではありません。「伝える」に尊敬の接頭語「お」と、依頼・軽い命令を示す「ください」を組み合わせた、相手に動作を促すための表現です。

  • 使用シーン: 目上の人や社外の相手に対し、第三者への伝言を「依頼」する時。
  • 敬意の方向: 伝言を頼む相手(話し相手)

この表現は、相手に動作を依頼する際の丁寧な言い方として広く使われます。

第2章:伝言場面での主体別・正確な使い分け

伝言が関わるシーンは、「外部から社内への伝言」「社内から外部への伝言」「社内での伝言依頼」の3つに分けられ、それぞれ敬語の使い方が異なります。

1. 外部の相手から依頼された伝言を受ける時(自分が主体)

この場面では、相手の要望を受け入れる「自分の行為」に謙譲語を使います。相手に「承知した」という丁寧さを示す必要があります。

パターン 適切な敬語 例文
伝言を預かる時 申し伝えます 「かしこまりました。戻り次第、〇〇には私からその旨、申し伝えます。」
上司に代わって話す時 お伝えします 「担当者が外出中のため、私が代わって詳細をお伝えします。」(謙譲語II)

【NG表現】
* (誤)「〇〇様には、お伝えになります。」
* 解説: 自分の行為(伝える)に尊敬語を使っており、不適切です。
* (誤)「伝言、承知いたしました。」
* 解説: 丁寧さに欠け、ビジネスの電話応対としては不十分です。

2. 目上の人・社外の相手に伝言を「依頼」する時(相手が主体)

この場面では、伝言を頼む相手(話し相手)の行為に尊敬の念を込める必要があります。「伝える」動作を相手に依頼するため、「お伝えください」が最も適切です。

パターン 適切な敬語 例文
相手に伝言を頼む時 お伝えください 「恐れ入りますが、田中様にご確認の上、ご回答をお伝えください。」

【NG表現】
* (誤)「お伝えしますか?」
* 解説: 依頼の形になっておらず、失礼にあたります。
* (誤)「伝えてください。」
* 解説: 丁寧さが不足しています。

3. 社内での伝言・報告(社外への敬意優先)

社内でのやり取りでも敬語は使いますが、外部の人との会話では「社外の人への敬意」が最優先されます。身内(上司・同僚)の行動を外部の人に伝える際は、へりくだった表現を使うのが基本です。

  • 外部の相手に、上司の不在を伝える時:(誤)「部長はただ今席におられません。」
    (正)「部長はただ今席を外しております。戻り次第、私から申し伝えます。」
  • 外部の相手に、伝言を完了したことを報告する時:(誤)「〇〇様に、伝えておきました。」
    (正)「〇〇様に、先ほど確かに申し伝えました。」

第3章:伝言敬語にまつわる上級知識と誤用対策

「申し伝えます」と「お伝えください」をマスターした上で、さらに一歩進んだ敬語の使い方と、よくある誤用例を知っておきましょう。

1. 「申し伝える」と「お伝えする」の使い分け

どちらも「伝える」の謙譲表現ですが、ニュアンスが異なります。

  • 申し伝える: 相手からのメッセージを別の人に「口頭で伝える」という、伝達行為そのものに重きを置いた表現。より丁重で、外部との電話応対で多用されます。
  • お伝えする: 伝えるという行為を丁寧にした表現(謙譲語IIまたは丁寧語)。資料などの情報伝達にも使え、比較的フランクな謙譲表現です。

外部との電話応対では、より丁寧な「申し伝える」を使うのが通例です。

2. 二重敬語の回避:伝言依頼の正しい形

「伝える」に関連する敬語で二重敬語になりやすい例を知っておきましょう。

  • 「お伝えになられる」: 「お伝えになる」(尊敬語)+「られる」(尊敬の助動詞)で二重敬語。(誤)「部長がお伝えになられます。」
    (正)「部長がお伝えになります。」
  • 「ご伝言なさる」: 「ご伝言する」がすでに丁寧な行為。「なさる」は尊敬語で過剰。(正)「伝言をお願いできますでしょうか。」

3. 伝言依頼を丁寧に断る・保留する表現

相手の依頼に対して、即座に「申し伝えます」と言えない場合の対応は、プロの対応力が試されます。

  • (保留)「ご要望は承知いたしました。内容が重要ですので、折り返し担当者よりお電話にて詳細をお伝えいたします。」
  • (丁重な確認)「〇〇様へのお伝え事項は、こちらの認識でよろしいでしょうか。」

4. 「伝言を残す」行為の敬語表現

自分が不在の人に対して伝言を残すことを依頼する場合にも、「お伝えください」を使います。

  • 「恐縮ですが、〇〇様へ私のメッセージをお伝えいただけますでしょうか。」

第4章:電話応対とメールでの実践的な使いこなし術

伝言敬語を最も多用する、電話応対とビジネスメールでの具体例を紹介します。

1. 電話応対での「申し伝えます」

電話応対で「担当者が不在」の場合、以下の流れが標準的です。

  1. 相手の不在を丁重に伝える: 「恐れ入ります、ただ今〇〇は席を外しております。」
  2. 用件を伺う: 「差し支えなければ、ご用件をお伺いし、〇〇に戻り次第、私から申し伝えましょうか。」
  3. 伝言を復唱・確認: 「〇〇様より、Aの件で明日折り返しお電話が欲しいと、申し伝えればよろしいでしょうか。」
  4. 感謝を述べる: 「かしこまりました。確かに申し伝えます。お電話ありがとうございました。」

2. ビジネスメールでの「お伝えください」

メールで相手(担当者)に、別の上司やチームメンバーへの伝言を依頼する場合に使います。

  • 「お手数をおかけしますが、本メールの内容を貴社〇〇部長にもお伝えくださいますよう、お願い申し上げます。」
  • 「誠に恐縮ですが、当方の回答が遅れる旨、〇〇様にお伝えください。」

メールでは、「お伝えください」の後に「ますよう、お願い申し上げます」と添えることで、より丁寧な依頼の形になります。

結び:敬語は「責任と配慮」の表明

「申し伝えます」と「お伝えください」は、それぞれ「私は責任を持って伝達します」という自分の行動に対する宣言と、「あなたは責任を持って伝達してください」という相手への丁重な依頼を表しています。

これらの敬語を正確に使い分けることは、単に正しい日本語を使っているというだけでなく、伝達の責任の所在を明確にし、相手の立場と行為に敬意を払っているという、ビジネスパーソンとしての高い配慮と誠実さを示すことにつながります。
この記事を読んでいただきありがとうございました。

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