職場で当たり前のように使っている言葉が、実は若手社員には伝わっていないかもしれない。そんな不安を感じたことはありませんか。特に、かつてのビジネスシーンで多用されてきたカタカナ語や独特の慣用句は、世代交代とともに「おじさんビジネス用語」として敬遠されたり、意味が正しく理解されなかったりするケースが増えています。
例えば「コンセンサスをとる」という表現。ベテラン層にとっては「根回しをして合意を得る」というニュアンスを含んだ便利な言葉ですが、若手世代には「もっと平易な言葉で言ってほしい」と感じさせてしまうこともあるようです。
言葉は時代とともに変化します。大切なのは、自分の意図を相手に正確に伝え、心理的な壁を作らないことです。この記事では、思わず使ってしまいがちな定番ビジネス用語を、若手にも伝わりやすい柔らかい表現に言い換える術を解説します。
なぜ「コンセンサス」は伝わりにくいのか
コンセンサス(Consensus)は、英語で意見の一致や合意を意味します。日本のビジネス文化においては、単なる多数決ではなく、関係者全員が納得できるよう事前に調整を行う、いわゆる根回しのプロセスを含めて使われることが多い言葉です。
若手が感じる違和感の正体
若手世代にとって、この言葉が分かりにくい、あるいは古臭いと感じる理由は、その言葉が持つ「組織の力学」への抵抗感にあります。事前の根回しという文化に馴染みのない世代にとって、コンセンサスという言葉は、何か裏で物事が決まっていくような、不透明な印象を与えてしまうことがあるのです。
丁寧で分かりやすい言い換えフレーズ
相手に余計な警戒心を与えず、スムーズに協力を仰ぎたいときは、以下のような日本語に置き換えてみましょう。
- 関係者の合意を得る
- 事前に賛同をもらっておく
- 意見のすり合わせをする
- 共通認識を持っておく
例えば、「この件、課長のコンセンサスとっておいて」と言うよりも、「この件、事前に課長の賛同を得ておいてもらえますか」と伝えるほうが、何をすべきかが明確になり、若手社員も動きやすくなります。
要注意!若手が困惑する「おじさんビジネス用語」言い換え集
コンセンサス以外にも、世代間でギャップが生じやすい言葉はたくさんあります。シーン別に、より親しみやすく論理的な言い換え例を見ていきましょう。
1. 調整・交渉シーンで使われがちな用語
落とし所(おとしどころ)
意味:互いに妥協できる解決点。
言い換え:双方が納得できる妥協点、最終的な着地点。
解説:落とし所という表現は、どこか強引に話をまとめるような響きがあります。双方の納得感を強調する言葉に変えるのがスマートです。
よしなに
意味:良い具合に。適切に。
言い換え:適切にご対応ください、お任せしますので調整をお願いします。
解説:よしなには非常に便利な言葉ですが、指示が曖昧すぎて若手はパニックになります。具体的に何を任せるのかを添えて伝えましょう。
一丁目一番地(いっちょうめいちばんち)
意味:最優先課題。最も重要なこと。
言い換え:最優先事項、まず取り組むべき課題。
解説:政治の世界でよく使われる比喩ですが、今の若手にはピンときません。直球で優先順位の高さを伝えるのがベストです。
2. 仕事の進め方に関する用語
エイヤで
意味:勢いで。とりあえず形にする。
言い換え:まずは概算で、一旦仮の形で。
解説:気合や勢いを感じさせる言葉ですが、論理性を重視する若手には雑な仕事という印象を与えかねません。仮の数値で良いことを論理的に伝えましょう。
鉛筆なめなめ(えんぴつなめなめ)
意味:帳尻を合わせる。計算を調整する。
言い換え:数字を微調整する、整合性をとる。
解説:語源そのものが古く、不衛生な印象さえ与えてしまう絶滅危惧種的な用語です。現代では数字の調整と表現しましょう。
全員野球(ぜんいんやきゅう)
意味:チーム一丸となって取り組むこと。
言い換え:チーム全体で協力して、一丸となって。
解説:野球に興味がない若手も増えています。スポーツの比喩よりも、協力体制を強調する表現のほうが響きます。
3. IT・カタカナ用語の落とし穴
アグリー(Agree)
意味:賛成する。同意する。
言い換え:賛成です、私もそう思います。
解説:わざわざカタカナで言う必要性が薄い言葉の代表格です。日本語で伝えたほうが、心の距離が縮まります。
バッファ(Buffer)
意味:余裕。予備。
言い換え:スケジュールの予備、少し余裕を持たせた時間。
解説:IT用語由来ですが、若手には物理的な緩衝材を連想させてしまうこともあります。時間のゆとりと言い換えると親切です。
若手との距離を縮めるコミュニケーションの秘訣
単に言葉を言い換えるだけでなく、伝え方のスタンスを少し変えるだけで、世代間の壁は驚くほど低くなります。
比喩を避け、具体的に伝える
おじさん用語の多くは、比喩や独特のニュアンスを含んだ「あうんの呼吸」を前提としています。しかし、バックグラウンドが異なる若手には、具体的かつ論理的に説明するほうが誠実さが伝わります。例えば「たたき台を作って」と言うよりも、「議論のベースとなる素案を、まずは6割程度の完成度で作ってみて」と言うほうが、相手の迷いを消すことができます。
「分からない」を許容する空気を作る
もし若手がポカンとした表情をしていたら、「ごめん、今の言い方古かったね」と自らフォローする余裕を持ちましょう。自分の言葉が通じていないことを笑いに変えたり、新しい言葉を若手に教わったりする姿勢を見せることで、チームの心理的安全性は高まります。
相手の言葉を否定しない
若手が新しいカタカナ語(タイパ、リスキリング、アジャイルなど)を使った際、「そんな言葉使わずに日本語で言え」と否定してはいけません。相手の言葉を尊重しつつ、自分たちの世代の言葉も伝わりやすく翻訳していく。この双方向の歩み寄りが、真のダイバーシティを生みます。
まとめ:言葉をアップデートして信頼を築く
「コンセンサスをとる」という言葉を使わなくても、同じ意図を伝える方法はたくさんあります。むしろ、現代の価値観に合わせた言葉選びをすることで、あなたの指示や考えはよりクリアに若手社員に届くようになります。
ビジネス用語は、時代とともに古びていくものです。しかし、相手を思いやり、円滑に仕事を進めたいという本質的な目的は変わりません。自分の語彙を定期的にアップデートすることは、単に若手に合わせるということではなく、自分自身のコミュニケーション能力を高めることでもあります。
明日からの会話では、あえて使い慣れたカタカナ語を封印し、誰もが理解できる「優しい日本語」で伝えてみませんか。その小さな配慮が、世代を超えた強いチームを作る第一歩になるはずです。
この記事を読んでいただきありがとうございました。