職場で、先輩、これどうやるんですか?、この資料どこにありますか?と、頻繁に質問攻めにされて仕事が手につかない。そんな経験はないでしょうか。
もちろん、困っている仲間を助けるのは素晴らしいことです。しかし、少し調べればすぐに分かることまで全て聞いてくる、いわゆる教えてちゃん状態になってしまうと、あなたの時間は奪われ続け、相手もいつまでたっても成長しません。
かといって、突き放すように自分で調べてくださいと言ってしまうと、冷たい人だと思われたり、職場の空気が悪くなったりするのが心配で、つい答えてしまう。このジレンマに悩むリーダーや先輩社員は非常に多いのです。
大切なのは、教えるのを拒否することではなく、調べ方を教えることへのシフトチェンジです。
この記事では、相手の意欲を削ぐことなく、むしろありがとうと言われながら自走(自立)を促すための、魔法の言い換えフレーズとコミュニケーション術を徹底解説します。
なぜ、彼らはすぐに聞いてしまうのか?その心理を知る
具体的なフレーズを見る前に、まず相手の心理を理解しておきましょう。なぜ彼らは調べる前に聞いてしまうのでしょうか。実は、単にラクをしたいだけではないケースも多いのです。
失敗することへの過度な不安
自分で調べて進めた結果、もし間違っていたらどうしようという恐怖心が強いタイプです。彼らにとって質問は、情報を得る手段というより、正解のお墨付きをもらって安心するための儀式のようなものです。
聞くことが最短ルートだという思い込み
ビジネスではタイパ(タイムパフォーマンス)が重視されますが、それを誤解しているケースです。自分で30分調べるより、知っている人に1分で聞いたほうが会社としても効率的だろうと考えています。しかし、それでは相手の時間を奪っているというコスト意識が抜け落ちています。
調べ方が本当に分からない
検索スキルや、社内サーバーのどこに何があるかという地図が頭にないため、調べるという行為そのもののハードルが高い状態です。この場合、自分で調べてと言い放つのは、泳ぎ方を知らない人を海に突き落とすのと同じになってしまいます。
「冷たい」と思われないための3つのクッション話法
いきなりURLだけを送りつけたり、ググってと言ったりするのはNGです。相手に自走を促す際は、以下の3つのステップを意識した言葉選びが重要です。
- 受容:まずは質問してくれたこと自体を受け止める。
- 誘導:答えそのものではなく、答えのありかを示す。
- 委譲:最後のアウトプットは相手に任せる。
このステップを踏むことで、あなたは突き放したのではなく、導いてくれたという印象に変わります。
【レベル別】そのまま使える自走促進フレーズ集
それでは、具体的なシチュエーションに応じた言い換えフレーズをご紹介します。
レベル1:社内ルールやマニュアルを見れば分かる質問
最も多いのが、どこにファイルがありますか?、申請方法はどうでしたっけ?といった質問です。ここで答えを教えてしまうと、相手は次もまたあなたに聞けばいいと学習してしまいます。
ファイルの場所を聞かれたとき
NG:チャットでファイルを直接送る
OK:ファイルの格納場所(パス)を教える
言い換えフレーズ:
その資料なら、共有フォルダの〇〇の中に格納してあります。今後も使う頻度が高いと思うので、ショートカットを作っておくと便利ですよ。今回はこちらのパスから入ってみてください。
解説:
単に場所を教えるだけでなく、今後も使うからという理由を添えることで、あなたの為を思って場所を教えているというニュアンスになります。
マニュアルに書いてあることを聞かれたとき
NG:口頭で手順を説明する
OK:マニュアルの該当ページを案内する
言い換えフレーズ:
その手順については、マニュアルの5ページ目に図解付きで詳しく載っています。口で説明するより、そちらを見ながら進めたほうが確実ですので、一度目を通してみていただけますか?
解説:
見ろと命令するのではなく、そのほうが確実、分かりやすいとメリットを提示します。
レベル2:ネットで調べれば分かる専門用語や技術的な質問
これってどういう意味ですか?、Excelの関数が動きませんといった、検索すれば数秒で解決する質問への対応です。
用語の意味を聞かれたとき
NG:辞書のように意味を教える
OK:検索ワードをプレゼントする
言い換えフレーズ:
その件ですね。〇〇や△△というキーワードで検索すると、非常に分かりやすい解説記事がたくさん出てきますよ。私なりに説明するより、そちらの図解を見たほうがイメージが湧きやすいと思います。
解説:
自分でググれと言う代わりに、検索キーワードを教えます。これは魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える第一歩です。
PC操作やエラー解決方法を聞かれたとき
NG:代わりに操作して直してあげる
OK:参考になるURLを送り、自力解決を促す
言い換えフレーズ:
そのエラー、よく出ますよね。解決方法が載っている参考サイトを見つけたので共有しますね。こちらの手順1から3を試してみてもらえますか? もしそれでも解決しなければ、また声をかけてください。
解説:
ポイントは、それでも解決しなければ声をかけてというセーフティネットを張ることです。これがあるだけで、相手は突き放された孤独感を感じずに、安心してトライできます。
レベル3:答えのない相談・丸投げの質問
これ、どう思いますか?、どうすればいいですか?という、思考停止状態の質問です。これに答えてしまうと、指示待ち人間を量産してしまいます。
自分の意見を持たずに聞いてきたとき
NG:すぐに自分の正解や指示を出す
OK:相手の仮説を引き出す
言い換えフレーズ:
なるほど、その点について迷っているんですね。ちなみに、〇〇さんご自身としては、現時点ではA案とB案、どちらが良さそうだという感覚はありますか? まずは〇〇さんの考えを聞かせてもらえれば、そこから一緒にブラッシュアップしましょう。
解説:
教えてくださいというスタンスから、壁打ち(相談)させてくださいというスタンスへ引き上げます。一緒にブラッシュアップという言葉を使うことで、協力姿勢を示せます。
作業の途中で頻繁に確認を求められたとき
NG:その都度チェックしてあげる
OK:まとめて確認するルールを作る
言い換えフレーズ:
慎重に進めてくれてありがとうございます。ただ、都度確認だと作業効率が落ちてしまうともったいないので、まずは〇〇さんの判断で一通り最後まで作ってみてもらえますか? 最後にまとめてフィードバックする時間を取りますので、その方が全体の流れも見えて良いアドバイスができると思います。
解説:
不安だから細かく聞く相手に対して、最後までやったほうが良いアドバイスができると伝え、自走する時間を強制的に作ります。
相手を傷つけずに断るためのクッション言葉(枕詞)
フレーズを使う際、文頭に添えるだけで印象が劇的に柔らかくなるクッション言葉を活用しましょう。
- 意地悪で言っているわけではないのですが
- 今後の〇〇さんのためにもお伝えしたいのですが
- もし私が不在の時でも、〇〇さんが困らないように共有しておきますと
- より正確な情報をお伝えするために
- 一緒に確認したいので、まずは
特に私が不在の時でも困らないようにという言い回しは、あなたのためという大義名分が立つため、非常に使い勝手が良い魔法の言葉です。
自走を促した後のアフターフォローが最も重要
自分で調べてみてと促した後、相手が実際に自分で調べて解決できたとします。この時のあなたの反応が、今後彼らが自走し続けるか、また聞いてくるかに戻るかの分かれ道です。
解決できたことを全力で承認する
相手から調べて分かりました!、解決しました!と報告が来たら、単に了解ですで終わらせてはいけません。
言い換えフレーズ:
解決できてよかったです! 自分でその情報にたどり着けたのは素晴らしいですね。その検索力があれば、他のトラブルの時も安心ですね。
自分で調べたら褒められたという成功体験を作ることが重要です。人は承認されると、次もその行動を繰り返そうという心理が働きます。これを繰り返すことで、自分で調べる=良いことという意識が刷り込まれていきます。
そもそも聞かなくても済む環境を作れているか?
最後に、少し視点を変えて自分自身やチームの環境についても振り返ってみましょう。部下が聞いてくるのは、もしかしたら情報環境に問題があるからかもしれません。
情報は検索可能な状態になっているか
マニュアルが古い、ファイル名がバラバラで検索に引っかからない、チャットの過去ログに重要事項が流れている。このような状態では、聞くほうが早いと思われても仕方ありません。
よくある質問をQ&Aシートにまとめる、ファイルの命名規則を統一するなど、調べるコストを下げる努力も上司や先輩の役割です。
聞くべきことと、調べるべきことの線引きを示す
新人のうちは、何を調べてよくて、何を勝手に判断してはいけないのかの区別がつかないものです。
5分調べて分からなければ聞いていいよ、過去の経緯や判断基準などの暗黙知についてはすぐに聞いてね、といったガイドラインを最初に示しておくと、お互いにストレスが減ります。
まとめ:冷たい対応ではなく、温かい育成へ
自分で調べてと伝えることは、決して冷たい対応ではありません。それは、相手が将来一人で困難に立ち向かえるようにするための、愛のあるトレーニングです。
大切なのは、調べなさいと突き放すことではなく、調べ方を教え、自分でできたことを共に喜ぶ姿勢です。
今回ご紹介したフレーズは、今日からすぐに使えるものばかりです。まずは一つ、部下や後輩からの質問に対して、答えそのものではなく、答えへの地図を渡すような返答を試してみてください。
最初は少し時間がかかるかもしれませんが、徐々にチーム全体に自分で考える文化が根付き、結果としてあなた自身の時間も、チームの生産性も大きく向上していくはずです。
この記事を読んでいただきありがとうございました。