ビジネスの現場において、新しい取引先との関係は「一通のメール」から始まることがほとんどです。
名刺交換をした翌朝、あるいはWebサイトからの問い合わせ、知人の紹介など、シチュエーションは様々ですが、共通して言えることが一つあります。
それは、「最初の一通が、あなたの(そして会社の)評価を決定づける」ということです。
「たかがメールで大げさな」と思われるかもしれません。しかし、顔が見えないデジタルコミュニケーションにおいて、文章の礼儀正しさ、分かりやすさ、そしてスピードは、そのまま「仕事の能力」として判断されます。
- 件名が分かりにくく、開封すらされないメール
- 敬語が間違っていて、違和感を与えるメール
- 定型文のコピペで、冷たさを感じるメール
これでは、せっかくのビジネスチャンスを自ら捨てているようなものです。
この記事では、初めての相手に送る挨拶メールの「鉄則」から、開封率を上げる件名のテクニック、そしてそのまま使えるシチュエーション別・文例集までを徹底解説します。これを読めば、もうメール作成画面の前でフリーズすることはありません。
1. 初回メールの勝負は「件名」で9割決まる
本文を書き始める前に、最も重要な要素について触れなければなりません。それは「件名(タイトル)」です。
多忙なビジネスパーソンは、受信トレイに並ぶ大量のメールを「件名だけ」見て、開封するか、後回しにするか、あるいはゴミ箱に入れるかを瞬時に判断しています。その時間はわずか「1秒」とも言われます。
開封される件名の「3要素」
確実に開封してもらうためには、以下の3つの要素を件名に盛り込む必要があります。
- 【用件】何のためのメールか
- 【社名】どこの会社か
- 【氏名】誰からか
悪い例:
×「ご挨拶」
×「はじめまして」
×「先日はありがとうございました」
これでは、スパムメールと間違われたり、「重要度が低い」と判断されたりします。
良い例:
○「【ご挨拶】新規お取引のお願い(株式会社〇〇 佐藤)」
○「【名刺交換の御礼】本日の交流会にて(株式会社〇〇 佐藤)」
○「【お見積もりの件】先ほどお電話いたしました株式会社〇〇の佐藤です」
ポイントは、「カッコ【 】を使って目立たせること」と、「スマホで見た時に最初の15文字で意味が伝わること」です。
2. 構成の基本:ビジネスメールの「解剖図」
件名をクリアしたら、次は本文です。好印象を与えるビジネスメールには、美しい「型」があります。この型を崩さなければ、大きく失敗することはありません。
① 宛名(Recipient)
会社名、部署名、役職名、氏名(敬称)の順に書きます。
(例)株式会社△△ 営業部 部長 鈴木 一郎 様
※初めての場合は、会社名や部署名を省略せず、正式名称で書くのがマナーです。
② 挨拶・名乗り(Greeting & Introduction)
「誰だっけ?」と思わせないよう、自分が何者かを明確にします。
(例)初めてご連絡いたします。株式会社〇〇の佐藤と申します。
③ 「きっかけ」の提示(Hook)
なぜこのメールを送ったのか、その経緯を伝えます。
(例)先日の展示会にて名刺交換をさせていただき、ご連絡いたしました。
(例)貴社Webサイトの「〇〇事業」を拝見し、ご連絡いたしました。
④ 本文・用件(Body)
結論ファーストで簡潔に書きます。長文になる場合は箇条書きを活用します。
⑤ 結びの挨拶(Closing)
相手への配慮や今後の期待を込めます。
(例)ご多忙の折、大変恐縮ですが、ご検討のほどよろしくお願いいたします。
⑥ 署名(Signature)
会社名、住所、電話番号、URLなどを記載した署名を必ず最下部に付けます。
3. 【シチュエーション別】そのまま使える!挨拶メール文例集
それでは、ここから具体的な文例をご紹介します。状況に合わせてアレンジしてご使用ください。
ケースA:名刺交換をした後のお礼メール
最も一般的なパターンです。当日中、遅くとも翌日の午前中までに送るのが鉄則です。「具体的な会話の内容」を一言添えるのがポイントです。
件名:【名刺交換の御礼】本日の交流会にて(株式会社〇〇 佐藤)
株式会社△△
営業部 鈴木 一郎 様
平素より大変お世話になっております。
本日、〇〇交流会にて名刺交換をさせていただきました、
株式会社〇〇の佐藤 健太(さとう けんた)と申します。
本日は貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございました。
鈴木様より伺いました「〇〇業界の今後の展望」についてのお話、
大変興味深く、勉強になりました。
弊社でも、〇〇に関するソリューションを展開しており、
鈴木様のお考えに貢献できる部分があるのではないかと感じております。
もしよろしければ、一度情報交換のお時間をいただけますと幸いです。
会社案内を添付いたしましたので、お手すきの際にご覧いただければと存じます。
略儀ながら、まずはメールにて、本日の御礼を申し上げます。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
————————————————–
(署名)
————————————————–
ケースB:全く面識がない相手への営業メール(コールドメール)
難易度が高いのが、面識のない相手への初回アプローチです。売り込み色を出しすぎず、「あなたにとってメリットがあります」という視点で書くことが重要です。
件名:【ご提案】貴社Webサイトの集客改善につきまして(株式会社〇〇)
株式会社△△
マーケティング担当者様
(※担当者名が不明な場合は「ご担当者様」とします)
突然のご連絡にて大変恐縮です。
株式会社〇〇の佐藤と申します。
この度、貴社のWebサイト(ニュースリリース)を拝見し、
〇〇という先進的な取り組みに大変感銘を受け、ご連絡いたしました。
弊社は、IT業界を中心にWeb集客の支援を行っている企業です。
現在、貴社と同様の業界で、CV率を150%改善した事例などがございまして、
貴社の事業拡大の一助となれるのではないかと考えております。
突然のお願いで恐縮ですが、もしご興味をお持ちいただけましたら、
一度オンラインにて、弊社の事例をご紹介させていただけないでしょうか。
(15分〜30分程度で簡潔にお話しいたします)
ご多忙の折、お手数をかけいたしますが、
ご検討のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
————————————————–
(署名)
————————————————–
ケースC:知人からの紹介で連絡する場合
「紹介」は最強の武器です。誰の紹介かを冒頭で明確にすることで、信頼を一気に勝ち取ることができます。
件名:【ご挨拶】〇〇様よりご紹介いただきました、株式会社〇〇の佐藤です
株式会社△△
代表取締役社長 鈴木 一郎 様
初めてご連絡いたします。
株式会社〇〇の佐藤 健太と申します。
この度、株式会社□□の田中様より、
鈴木様が「〇〇のシステム導入」をご検討中であると伺い、
ご紹介をいただきましてご連絡いたしました。
田中様からは、鈴木様の卓越した経営手腕について以前より伺っており、
ぜひ一度、ご挨拶の機会を頂戴できればと考えております。
弊社にてお役に立てそうな資料をご用意いたしました。
来週以降で、ご都合の良い日時はございますでしょうか。
私の空き日程を以下に記載いたします。
・〇月〇日(月)13:00〜17:00
・〇月〇日(火)10:00〜15:00
・〇月〇日(水)終日可
上記以外でも、鈴木様のご都合に合わせさせていただきます。
ご検討のほど、よろしくお願い申し上げます。
————————————————–
(署名)
————————————————–
ケースD:担当者変更(引き継ぎ)の挨拶
前任者からの引き継ぎで初めて連絡する場合です。「安心感」を与えることが最大の目的です。
件名:【着任のご挨拶】後任担当の佐藤です(株式会社〇〇)
株式会社△△
営業部 鈴木 様
平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
この度、前任の高橋に代わりまして、
貴社の担当を仰せつかりました、株式会社〇〇の佐藤と申します。
高橋からは、鈴木様の仕事に対する真摯な姿勢や、
これまでのプロジェクトの経緯について詳しく引き継ぎを受けております。
不慣れな点もあり、当初はご迷惑をおかけすることもあるかと存じますが、
一日も早く鈴木様のお役に立てるよう、誠心誠意努めてまいります。
前任者同様、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。
なお、近日中に改めて、前任の高橋とお電話(またはご訪問)にて
ご挨拶させていただければと存じます。
まずはメールにて恐縮ながら、着任のご挨拶とさせていただきます。
————————————————–
(署名)
————————————————–
ケースE:問い合わせへの返信(ファーストコンタクト)
相手から問い合わせがあった場合の最初の返信です。何よりも「スピード」が命です。
件名:お問い合わせありがとうございます(株式会社〇〇 佐藤)
株式会社△△
鈴木 様
この度は、弊社Webサイトよりお問い合わせいただき、
誠にありがとうございます。
株式会社〇〇、営業部の佐藤と申します。
お問い合わせいただきました「新サービスの資料請求」の件、
心より御礼申し上げます。
早速ではございますが、本メールに最新の資料(PDF)を添付いたしました。
ご確認いただけますと幸いです。
また、導入に関するご不明点や、より詳細なお見積もりなどが必要でしたら、
私、佐藤までお気軽にお申し付けください。
Zoomなどでのご説明も可能です。
貴社のご検討のお役に立てれば幸いです。
引き続き、よろしくお願いいたします。
————————————————–
(署名)
————————————————–
4. これだけはNG!初回メールでやってはいけない失敗
どんなに丁寧な文面でも、一つのマナー違反で信頼は崩れ去ります。特に初回でやってしまいがちなNG行動を確認しましょう。
① 会社名・氏名の漢字間違い
これは「致命傷」です。
「渡辺」か「渡邊」か、「斉藤」か「齋藤」か。
「キヤノン」か「キャノン」か(正しくは大文字のヤ)。
相手のWebサイトや名刺を必ず指差し確認してください。コピペ元のデータが間違っている可能性もあるため、必ず一次情報を確認しましょう。
② 添付ファイルの容量が大きすぎる
初めての相手に、いきなり10MBを超えるような重いファイルを送るのはマナー違反です。相手のメールサーバーを圧迫したり、受信エラーになったりする可能性があります。
3MBを超える場合は、Zip圧縮をするか、クラウドストレージ(GoogleドライブやDropboxなど)のURL共有を利用しましょう。
③ 機種依存文字や過度な装飾
丸数字(①②)やローマ数字(ⅠⅡ)、絵文字などは、相手の環境によっては文字化けする可能性があります。
また、赤字や太字を多用しすぎると、「押し売り感」が出てしまい、警戒されます。初回はプレーンテキストで、清潔感のある構成を心がけましょう。
④ 敬語の「二重敬語」や誤用
丁寧にしようとするあまり、敬語がおかしくなるケースです。
- ×「〇〇様はおられますでしょうか」 → ○「いらっしゃいますでしょうか」
- ×「拝見させていただきました」 → ○「拝見しました」
- ×「お体をご自愛ください」 → ○「ご自愛ください」(「ご自愛」に体の意味が含まれるため)
5. ライバルと差をつける「プラスワン」のテクニック
最後に、ただ「失礼がない」だけでなく、「この人はデキる」と思わせるための高等テクニックをご紹介します。
追伸(P.S.)で人間味を出す
本文は礼儀正しく書くべきですが、最後に「追伸」として少しだけ個人的な内容を添えると、相手との距離がグッと縮まります。
- 「追伸:名刺交換の際にお話しした〇〇、早速調べてみました。とても面白そうですね!」
- 「追伸:季節の変わり目ですので、くれぐれもご自愛くださいませ。」
マーケティングの世界では、「追伸は本文よりも読まれやすい」と言われています。ここを活用しない手はありません。
「クッション言葉」で柔らかく
初めての相手に何かを依頼したり、時間を取ってもらったりする場合は、クッション言葉を挟むことで、厚かましさを消すことができます。
- 「お忙しいところ大変恐縮ですが」
- 「突然のお願いで失礼とは存じますが」
- 「もし可能であれば」
この一言があるだけで、メール全体の品格が上がります。
まとめ:初回メールは「ラブレター」ではなく「履歴書」である
初めての取引先へのメールについて解説してきました。
多くの人が勘違いしていますが、初回メールで相手を感動させたり、一発で契約を取ったりする必要はありません。初回メールの目的は、「私は基本的なマナーを備えた、安心できるビジネスパートナー候補です」と証明することです。
つまり、熱烈なラブレターを書くのではなく、ミスのない綺麗な履歴書を提示するイメージに近いでしょう。
- 分かりやすい件名をつける
- 型(フォーマット)を守る
- 相手へのメリットやきっかけを明確にする
- 誤字脱字を徹底チェックする
この基本を徹底するだけで、あなたのメールはその他大勢のメールから頭一つ抜け出します。
ぜひ、今回ご紹介したテンプレートを辞書登録やメモ帳に保存し、日々の業務に活用してください。その一通が、将来の大きなビジネスチャンスを連れてくるはずです。
この記事を読んでいただきありがとうございました。