ビジネスメールの最後、あなたはいつもどのように締めくくっていますか?
「……何卒よろしくお願いいたします。」
おそらく、99%の人がこのフレーズを使っているはずです。もちろん、これは間違いではありません。日本のビジネス慣習において不可欠な、礼儀正しい定型句です。
しかし、もしあなたが「初対面の相手」にメールを送る場合、あるいは「ここ一番の勝負メール」を送る場合、この定型句だけで終わらせてしまうのは、あまりにも勿体無いと言わざるを得ません。
なぜなら、メールの最後の一文は、心理学における「親近効果(Recency Effect)」が働き、相手の記憶に最も強く残る部分だからです。
みんなが同じ「よろしくお願いいたします」を使っている中で、あなただけが相手を気遣う一言や、温かい余韻を残すフレーズを添えていたらどうでしょうか。
「この人は、なんだか丁寧だな」
「会うのが楽しみになってきた」
「他の営業マンとは違う気がする」
たった一行の工夫が、あなたの第一印象を劇的に変え、その後の信頼関係構築を驚くほどスムーズにします。
この記事では、誰でも明日から使える、初対面メールで「よろしくお願いいたします」に添えるべき”プラスワン”の好印象フレーズを、シチュエーション別に徹底解説します。
1. なぜ「よろしく」だけでは足りないのか?
具体的なフレーズの紹介に入る前に、なぜ「プラスワン」の一言が必要なのか、その理由を少し深掘りしておきましょう。
定型句は「透明人間」と同じ
「お世話になっております」「よろしくお願いいたします」。これらはビジネスメールの基本マナーですが、あまりにも繰り返されすぎているため、読み手の脳はこれを「意味のある言葉」として処理しません。単なる「記号」や「区切り線」として認識され、読み飛ばされてしまいます。
つまり、定型句だけで終わるメールは、「感情の乗っていない事務的な連絡」として処理されるリスクがあるのです。
「去り際」が評価を決める
対面のコミュニケーションでも、別れ際に振り返ってお辞儀をする人や、エレベーターが閉まるまで見送ってくれる人には好感を持ちますよね。
メールも同じです。用件を伝えて「以上、よろしく」と終わるのは、用件だけ伝えてガチャ切りする電話のようなもの。最後に添える一言は、別れ際の「笑顔」や「お辞儀」に相当します。ここを丁寧にすることで、メール全体の印象が「冷たいデジタル文字」から「温かい対話」へと変わるのです。
2. 【基本編】「会うのが楽しみ」を伝えるフレーズ
初対面の相手、あるいはアポイントが決まった後のメールで最も効果的なのが、「期待感(ワクワク)」を伝えることです。
「よろしくお願いいたします」は「私のことを頼みます(受け入れてください)」という一方的なお願いになりがちですが、期待感を添えることで「あなたに関心があります」という肯定のメッセージになります。
これから商談・面談をする相手へ
- 「当日は、〇〇様にお目にかかれますことを、心より楽しみにしております。」
- 「〇〇様のお話を伺えますこと、チーム一同大変楽しみにしております。」
- 「当日は、ぜひ〇〇について詳しくお聞かせいただければ幸いです。」
【ポイント】
単に「楽しみにしています」だけでなく、「お話を聞けるのが」「お会いできるのが」と具体的に何を楽しみにしているかを添えると、より本気度が伝わります。
Web会議(Zoomなど)の場合
- 「画面越しではございますが、〇〇様にお会いできるのを楽しみにしております。」
- 「オンラインではございますが、熱量をお伝えできればと思っております。」
【ポイント】
対面でないことの物足りなさをカバーするように、「画面越しですが」と添える配慮がスマートです。
3. 【気遣い編】相手の負担を減らす「魔法の一言」
多忙な役職者や、返信が遅れがちな相手に対して効果絶大なのが、「相手の時間を奪わない」という配慮を示すフレーズです。
「よろしくお願いいたします(=返事をください)」という無言の圧力を消し去り、「この人は自分の忙しさを分かってくれている」という安心感を与えます。
返信不要であることを伝える
- 「なお、ご多忙の折かと存じますので、ご返信のお気遣いは無用です。」
- 「ご確認いただくだけで結構ですので、ご返信には及びません。」
- 「特に不都合がなければ、このまま進めさせていただきます。」
【ポイント】
「返信不要です」とぶっきらぼうに書くのではなく、「お気遣い無用です」「及びません」といったクッション言葉を使うことで、上質な気遣いになります。
検討に時間がかかる場合
- 「お忙しいところ恐縮ですが、お手すきの際にご確認いただければ幸いです。」
- 「急ぎの案件ではございませんので、〇〇様のペースでご一読いただければと存じます。」
【ポイント】
相手にボールを投げつつも、「急かしていませんよ」と伝えることで、相手の心理的負担を軽くします。結果的に、プレッシャーを与えない人の方が、返信が早く来ることが多いのです。
4. 【熱意編】「私が動きます」という頼もしさを添える
仕事を依頼された時や、トラブル対応、あるいは自分を売り込む場面では、丁寧さよりも「主体性」や「誠意」を見せることが重要です。
「よろしくお願いいたします」だけだと「あとはそちらで判断してね」という他力本願に見えることがありますが、最後に決意を添えることで信頼感が生まれます。
仕事を任された時
- 「ご期待に添えるよう、精一杯努めさせていただきます。」
- 「〇〇様のプロジェクトに貢献できるよう、全力を尽くします。」
- 「まずは速やかに〇〇の準備に取り掛からせていただきます。」
【ポイント】
「頑張ります」という精神論だけでなく、「貢献できるように」「準備に取り掛かる」といった具体的なアクションや方向性を示すと、プロフェッショナルな印象になります。
無理なお願いをしている時
- 「こちらの都合ばかり申し上げ大変恐縮ですが、お力添えいただけますと幸いです。」
- 「無理を承知でのお願いとなりますが、ご検討のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。」
【ポイント】
ここは「へりくだり」の極みを見せる場面です。「恐縮ですが」「無理を承知で」と、相手への負担を理解していることを強調し、「それでもあなたにお願いしたいのです」という熱意を最後の「よろしく~」に乗せます。
5. 【季節・天候編】人間味を感じさせる「大和言葉」の余韻
ビジネスライクになりがちなメールにおいて、ふと季節や天候に触れる一文があると、書き手の「人柄」や「優しさ」が伝わります。
定型の時候の挨拶(「拝啓、新緑の候~」など)は冒頭に書きますが、結びの言葉として添える季節の挨拶は、もっと口語的で、相手の体調を気遣うものがベストです。
春(3月~5月)
- 「新年度でお忙しい時期かと存じますが、ご自愛くださいませ。」
- 「春暖の候、〇〇様のますますのご活躍をお祈り申し上げます。」
- 「花粉の多い日が続きますが、体調など崩されませんよう。」
夏(6月~8月)
- 「暑さ厳しき折、くれぐれもご自愛ください。」
- 「急な雨が続いておりますので、お足元にはお気をつけくださいませ。」
- 「冷房で体調を崩されぬよう、お体おいといください。」
秋(9月~11月)
- 「季節の変わり目ですので、風邪など召されませぬようご留意ください。」
- 「秋の夜長、〇〇様にとって実り多き時間となりますように。」
- 「朝晩は冷え込むようになってまいりました。暖かくしてお過ごしください。」
冬(12月~2月)
- 「年末ご多忙の折ではございますが、心安らかな時間をお過ごしください。」
- 「寒さも本格的になってまいりました。どうぞご自愛専一(せんいつ)に。」
- 「インフルエンザが流行っておりますので、くれぐれもお気をつけください。」
【ポイント】
「ご自愛ください」は鉄板ですが、「花粉」「冷房」「インフルエンザ」など、その時期特有の具体的なキーワードを入れると、「コピペではない、あなたへのメッセージ」として響きます。
6. 【追伸(P.S.)活用術】実は一番読まれる「秘密の場所」
結びの言葉とは少し違いますが、メールの最後に「追伸(P.S.)」を使うのも、第一印象を強める高等テクニックです。
マーケティングの世界では、「人は本文を読み飛ばしても、追伸だけは読む」と言われています。本文は業務連絡、追伸は私信(プライベート)。この使い分けが、相手との距離を一気に縮めます。
共通の話題や雑談を入れる
- 「追伸:先日の打ち合わせで伺ったおすすめの書籍、早速購入しました!週末に読むのが楽しみです。」
- 「追伸:アイコンのお写真、とても素敵ですね。猫好きとして反応せずにはいられませんでした(笑)。」
- 「追伸:〇〇様のご出身が北海道と伺い、親近感を抱いております(私も大学時代を札幌で過ごしました)。」
直前の出来事に触れる
- 「追伸:先ほどのお電話では、突然失礼いたしました。温かいご対応に感謝いたします。」
【注意点】
追伸はあくまで「おまけ」です。長くなりすぎないよう、1~2行でさらっと書くのがスマートです。また、謝罪メールや非常に深刻な相談メールでは、不真面目に見えるため使わないようにしましょう。
7. 【相手別】フレーズ組み合わせ実践例
それでは、これまで紹介したフレーズをどのように組み合わせれば良いか、具体的なメールの「結び部分」の構成例をご紹介します。
【ケース1】憧れの企業の担当者へ(新規営業・アプローチ)
目的:謙虚さを保ちつつ、会ってみたいと思わせる。
(本文略)
ご多忙の折、突然のご連絡となり大変恐縮です。
もしご興味をお持ちいただけましたら、一度お話をさせていただけますと幸いです。
貴社の〇〇というビジョンに、以前より強く惹かれておりました。
〇〇様にお目にかかれますことを、心より楽しみにしております。
何卒よろしくお願い申し上げます。
【ケース2】商談後のお礼メール(関係強化)
目的:感謝を伝え、次のステップへの期待を高める。
(本文略)
本日は貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございました。
ご指摘いただいた点は、次回の提案までにしっかりと詰めさせていただきます。
まだ暑い日が続きますので、くれぐれもご自愛くださいませ。
(追伸:教えていただいたランチのお店、今度行ってみます!)
引き続き、よろしくお願いいたします。
【ケース3】忙しい上司・先輩への報告(配慮)
目的:報告義務を果たしつつ、相手の手間を減らす。
(本文略)
進捗のご報告は以上となります。
特に問題がなければ、引き続きこの方針で進めてまいります。
ご確認いただくだけで結構ですので、ご返信のお気遣いは無用です。
遅い時間のメールとなり失礼いたしました。
よろしくお願いいたします。
8. やってはいけない!「結び」のNGパターン
最後に、良かれと思ってやってしまいがちな失敗例も確認しておきましょう。
×「お返事お待ちしております」の連呼
「よろしくお願いいたします」の前に「お返事お待ちしております」と書くのは一般的ですが、文脈によっては「早く返せ」という催促に見えます。「ご都合のつく際にご連絡いただけますと幸いです」など、柔らかい表現を選びましょう。
× クドすぎる長文
結びの言葉だけで5行も6行もあると、読むのが疲れます。あくまで「添える」程度(1~2行)が最も美しく、余韻を残します。
× 相手との距離感を間違えた「追伸」
まだ会ったこともない、格式高い相手に対して、いきなり「趣味はなんですか?」といった馴れ馴れしい追伸はNGです。相手のキャラクターや関係性を見極めてから使いましょう。
まとめ:たった一行が、あなたの人格を作る
「よろしくお願いいたします」。
この便利な言葉に甘えて思考停止するか、それとも、そこに相手を想う「心」を乗せるか。
ビジネスメールは、顔が見えないコミュニケーションです。だからこそ、画面の向こうにいる相手の状況を想像し、体温の通った言葉を届けることができる人は、それだけで「信頼できるビジネスパートナー」として選ばれるようになります。
- 会う前の「楽しみです」
- 忙しい相手への「返信不要です」
- 季節を共有する「ご自愛ください」
まずは次のメールから、この中の一つで構いません。あなたの言葉で添えてみてください。
送信ボタンを押した後、きっと今までよりも少しだけ、相手からの返信が来るのが楽しみになるはずです。
【次のステップ】
ご自身のメールソフト(OutlookやGmailなど)の「署名設定」を開き、よく使う好印象フレーズをいくつか登録(辞書登録)しておきましょう。いちいち考えなくても、自然と気遣いができる環境を作ってしまうのが、メール美人への近道です。
この記事を読んでいただきありがとうございます。