上司から新しいプロジェクトへの参加を打診された時。
食事に誘われた時。
あるいは、重要なアドバイスをもらった時。
あなたは、どんな言葉で「YES」を伝えていますか?
「はい、ぜひお願いします!」
「ぜひやらせてください!」
この「ぜひ」という言葉。熱意や前向きな姿勢が伝わる、非常にパワフルで良い言葉です。新入社員や若手のうちは、この一言を元気に言えるだけで「可愛げがある」「やる気がある」と評価されるでしょう。
しかし、もしあなたが中堅社員であったり、これからリーダーや管理職を目指していこうとしていたりするならば、「ぜひ」一本槍(やり)では、少々頼りなさを感じさせてしまうかもしれません。
上司が求めているのは、単なる「勢い」だけではなく、「任せて安心な信頼感」や「立場をわきまえた知性」だからです。
「ぜひ」は便利な言葉ですが、使い方によっては「子供っぽい」「軽い」「何も考えていなさそう」という印象を与えかねない諸刃の剣でもあります。
この記事では、いつもの「ぜひお願いします」を卒業し、場面や相手との関係性に合わせて、知的で上品な印象を与える「大人の承諾フレーズ」10選と、その活用術を徹底解説します。
なぜ「ぜひお願いします」だけでは物足りないのか?
具体的なフレーズのご紹介に入る前に、なぜ言葉のアップデートが必要なのか、その背景にある「上司心理」を紐解いてみましょう。
1. 「勢い」と「責任感」は別物
「ぜひやりたいです!」という言葉には、「(面白そうだから)やりたい」「(チャンスだから)やりたい」という、自分の欲求や願望が強く反映されています。
もちろん意欲は大切ですが、ビジネスにおいて仕事を任せる上司が一番気にしているのは、「最後まで責任を持って完遂できるか」という点です。ただの願望ではなく、「覚悟」や「責任感」を言葉の端々に滲ませることで、初めて「こいつになら任せられる」という信頼が生まれます。
2. 語彙力(ごいりょく)は「思考力」の証明
ビジネスシーンにおいて、TPOに合わせた言葉選びができるかどうかは、その人の「思考の深さ」を測るバロメーターになります。
重要な商談への同行を誘われた時に「ぜひ行きたいです!」と答えるのと、「貴重な機会ですので、勉強させていただきます」と答えるのとでは、後者の方が「この同行から何を学ぼうとしているか」という目的意識を感じさせます。
語彙の引き出しを増やすことは、単にマナーを良くするだけでなく、あなたの「ビジネスパーソンとしての格」を上げることと同義なのです。
信頼を勝ち取る「承諾」の3要素
上品な承諾フレーズには、共通する3つの要素が含まれています。これらを意識するだけで、どんな言葉を選んでも失敗しなくなります。
要素1:確実な「受諾」の意思
まずは曖昧にせず、はっきりと「受け入れる」ことを伝えます。「やれたらやります」ではなく、「やります」と言い切る潔さが大切です。
要素2:謙虚さと敬意(へりくだり)
「やらせてやる」ではなく、「機会をいただく」という謙虚な姿勢です。特に上司に対しては、自分を一段下げ、相手を立てる表現を入れることで、人間関係が円滑になります。
要素3:プラスアルファの「付加価値」
ただ引き受けるだけでなく、「精一杯努める」「学びにする」といった、その仕事に対する姿勢や意気込みを添えます。これが「プロの一言」となります。
【シーン別】上司を唸らせる「上品な承諾フレーズ」10選
それでは、具体的なシチュエーションに合わせて、明日からすぐに使える「脱・ぜひお願いします」のフレーズをご紹介します。
シーン1:重要な仕事を任された時
プロジェクトリーダーへの抜擢や、難易度の高い案件を打診された時。「ぜひやります!」だけでは軽すぎると感じる場面での、覚悟を示すフレーズです。
1. 「謹んでお引き受けいたします」
【ニュアンス:覚悟・格式・責任】
非常にフォーマルで、重みのある言葉です。「謹んで(つくしんで)」には、相手への敬意と、身を引き締めるという意味が込められています。
大きな辞令を受けた時や、役員クラスからの依頼に対して使うと、「この仕事の重みを理解しています」というメッセージが伝わります。
- 「大役をご指名いただき光栄です。謹んでお引き受けいたします。」
2. 「ご期待に添えるよう、尽力いたします」
【ニュアンス:努力・貢献・誠実】
「やります」という承諾に加え、「結果を出すために力を尽くす」というプロセスへの約束を含んだ表現です。
「頑張ります」と言うよりも「尽力(じんりょく)いたします」と言う方が、大人のビジネスパーソンとしての知性を感じさせます。
- 「私には過分な評価ですが、ご期待に添えるよう、尽力いたします。」
3. 「微力ながら、精一杯努めさせていただきます」
【ニュアンス:謙虚・ひたむきさ】
「微力ながら」というクッション言葉がポイントです。「自分の力は小さいかもしれませんが」と謙遜しつつ、「全力でやります」と伝えることで、日本人が好む「謙虚なやる気」を演出できます。
自信満々に「任せてください」と言うと危なっかしく見える場面でも、この言葉なら好感を持って受け入れられます。
- 「チームのために、微力ながら精一杯努めさせていただきます。」
シーン2:チャンスや機会をもらった時
商談への同行、研修への参加、新しい役割への挑戦など、自分にとって「学び」や「利益」になるオファーを受けた時。
4. 「喜んでお受けいたします」
【ニュアンス:前向き・感謝・素直さ】
「ぜひ!」のポジティブなニュアンスを保ちつつ、丁寧語として完成された表現です。「嫌々やるわけではない」「声をかけてくれて嬉しい」という感情を素直に伝えることができます。
比較的親しい上司や、日常的な業務依頼に対して最適です。
- 「そのような機会をいただけるのであれば、喜んでお受けいたします。」
5. 「勉強させていただきます」
【ニュアンス:成長意欲・吸収】
同行や手伝いなど、自分のスキルアップにつながる場面で使います。
ただし、注意点として「ただ教えてもらうのを待つ(受け身)」という意味で使うのはNGです。「その場から学び取って、会社に貢献します」という能動的なニュアンスを込めて使いましょう。
- 「部長の商談術を、隣で勉強させていただきます。」
6. 「拝命(はいめい)いたしました」
【ニュアンス:絶対的な服従・重責】
「命令を拝んで受ける」と書く通り、公的な役職や、プロジェクトの責任者に任命された時の決まり文句です。日常会話では使いませんが、昇進の辞令交付の場などでサラッと言えると、「できる人」のオーラが出ます。
- 「プロジェクトマネージャーの件、拝命いたしました。身の引き締まる思いです。」
シーン3:食事やイベントに誘われた時
「飲みに行かないか?」「ゴルフに行こう」など、業務外の誘いを受けた時。「ぜひ行きます!」も良いですが、もう少し品のある言葉を選んでみましょう。
7. 「ご一緒させていただきます」
【ニュアンス:同行の許可・光栄】
「連れて行ってください」とお願いするのではなく、「あなたと同じ時間を過ごす許可をいただく」というへりくだった表現です。
- 「ありがとうございます。ぜひご一緒させていただきます。」
8. 「お供(とも)させていただきます」
【ニュアンス:追随・サポート】
さらに相手を立てる表現です。上司や取引先の接待など、「私はあくまで脇役(従者)として参加します」という控えめな姿勢を示すことができます。ゴルフや出張の同行などに適しています。
- 「出張の件、お供させていただきます。」
シーン4:資料や物品を受け取る時
「これ読んでおいて」「これあげるよ」と言われた時。「ぜひ欲しいです」では子供っぽくなります。
9. 「拝借(はいしゃく)いたします」
【ニュアンス:一時的な借り受け・丁寧】
資料や本などを「借りる」場合に使います。「借ります」よりも格段に丁寧です。
- 「貴重な資料を、拝借いたします。後ほど必ずお返しします。」
10. 「ありがたく頂戴(ちょうだい)いたします」
【ニュアンス:感謝・受領】
お土産や差し入れ、あるいは「お褒めの言葉」をもらった時に使います。「もらう」の謙譲語「いただく」よりも、さらに「頂戴する」を使うことで、ありがたみを強調できます。
- 「お褒めの言葉、ありがたく頂戴いたします。」
さらに差がつく!「クッション言葉」との合わせ技
上記のフレーズを単体で使うだけでも十分丁寧ですが、その前に「クッション言葉」を添えることで、さらに奥ゆかしく、知的な印象を与えることができます。
自信がないけれど引き受ける時
「不束者(ふつつかもの)ですが……」
「経験不足ではございますが……」
「甚(はなは)だ未熟ではございますが……」
- 使用例:「甚だ未熟ではございますが、ご期待に添えるよう尽力いたします。」
自分の未熟さを認めつつ、それでも挑戦するという姿勢は、上司の「応援したい」という気持ちを強く刺激します。
恐縮しながら引き受ける時
「私には分不相応(ぶんふそうおう)なお話ですが……」
「大役を仰せつかり、身の引き締まる思いですが……」
- 使用例:「私には分不相応なお話ですが、謹んでお引き受けいたします。」
「自分なんかがいいのでしょうか」という謙遜を美しく表現する言葉です。
やってしまいがちな「NG承諾」パターン
良かれと思って使っている言葉が、実は上司にとっては「カチン」とくる表現であることもあります。避けるべきNGパターンを確認しておきましょう。
1. 「了解しました」
これは論外とされることが多いですが、いまだに使ってしまう人がいます。「了解」は「理解した」という意味であり、目下の人に対して使う言葉です。
上司に対しては必ず「承知いたしました」や「かしこまりました」を使いましょう。
2. 「大丈夫です」
「この仕事、できるか?」と聞かれて「大丈夫です」と答えるのは危険です。「余裕です」「問題ないです」という意味に取れますが、若者言葉のニュアンスが強く、ビジネスでは軽すぎます。
「問題ございません」や「お任せください」と言い換えましょう。
3. 「やらせていただきます」(多用しすぎ)
「させていただく」は便利な言葉ですが、使いすぎると「慇懃無礼(丁寧すぎて失礼)」になったり、主体性がないように聞こえたりします。
「やらせていただきます」よりは「担当いたします」「引き受けます」と言い切る方が、責任感や自信が伝わり、上司も安心して任せられます。
上司が「No」と言わせない承諾のタイミング
言葉選びと同じくらい大切なのが、「返事のスピード」です。
どんなに素晴らしい敬語を使っても、依頼されてから一日経って「謹んでお引き受けします」と返信しても、上司は「やる気がないのかな?」「嫌々引き受けたのかな?」と疑ってしまいます。
「0.2秒の即答」こそが、最大の承諾フレーズです。
難しい案件であればあるほど、食い気味に「やります!」(その後に丁寧な言葉を続ける)という姿勢を見せる。そのスピード感に、上司は「こいつは信頼できる」と感じるのです。
まとめ:言葉を変えれば、任される仕事が変わる
「ぜひお願いします」という言葉は、決して間違いではありません。しかし、それは「やる気」だけを伝える言葉です。
ビジネスのステージが上がれば上がるほど、求められるのはやる気だけではなく、「責任感」「謙虚さ」「教養」、そして「覚悟」です。
「謹んでお引き受けいたします」
「微力ながら尽力いたします」
「勉強させていただきます」
これらの言葉を状況に合わせて使い分けることができる人は、上司から見て「安心して大きな仕事を任せられる部下」として映ります。
言葉は、あなたの内面を映す鏡であり、同時に未来を切り拓く武器でもあります。
ぜひ、次回のチャンスが巡ってきた時には、いつもの「ぜひ!」をグッと飲み込み、ワンランク上の「大人の承諾フレーズ」を使ってみてください。その一言が、あなたのキャリアを次のステージへと押し上げるきっかけになるはずです。
この記事を読んでいただきありがとうございました。