「~してもよろしいでしょうか」を”スマートに言い換える”上級ビジネス敬語

間違いやすい敬語シリーズ

上司への報告、クライアントへの提案、電話対応など、ビジネスのあらゆる場面で使われる魔法の言葉。

「こちらで進めてもよろしいでしょうか?」

「資料をお送りしてもよろしいでしょうか?」

「お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

「~してもよろしいでしょうか」。

これは、相手に許可を求める丁寧な表現として、新入社員研修でも真っ先に教わる基本のフレーズです。決して間違いではありませんし、相手に不快感を与えることもない「安全な言葉」です。

しかし、中堅社員やリーダー、あるいは信頼される営業担当者を目指すあなたにとって、この言葉を「いつ、どんな時でも」使い続けることは、少しもったいないことかもしれません。

なぜなら、「~してもよろしいでしょうか」は、常に相手に判断を委ねる「受け身」の姿勢に見えてしまうことがあるからです。また、会話のすべてがこのフレーズで終わると、どことなく「自信がなさそう」「言われたことだけをやる人」という幼い印象を与えてしまうリスクもあります。

真のプロフェッショナルは、相手への敬意を保ちながらも、もう少し主体性があり、かつ相手が心地よく感じる「スマートな言い換え」を使いこなしています。

この記事では、脱・ワンパターンを目指し、「~してもよろしいでしょうか」を状況に応じて使い分けるための、ワンランク上の敬語テクニックをご紹介します。

「よろしいでしょうか」が抱える3つの弱点

具体的な言い換え術に入る前に、なぜこの言葉からの卒業が必要なのか、その理由を少し深掘りしてみましょう。言葉の持つニュアンスを理解することが、適切な使い分けへの第一歩です。

1. 「許可を請う」姿勢が、頼りなく見える

「~してもよろしいでしょうか」は、構造上「私が~することを、あなたは許してくれますか?」という、許可を求める形になります。

もちろん、謙虚さは大切です。しかし、プロとして仕事を任されている以上、些細なことまで「やっていいですか?」と聞き続けると、相手は「プロなんだから、それくらい自分で判断してリードしてほしい」と感じてしまいます。特に提案や進行の場面では、この過度な下出(したで)の姿勢が、信頼感を損なう原因になることもあります。

2. 相手に「No」と言わせる余地を与える

「よろしいでしょうか?」という問いかけは、文法的に「Yes(よろしい)」か「No(だめ)」の二択を迫るものです。

ビジネスをスムーズに進めるためには、相手に「No」と言わせる隙を与えず、自然な流れで合意形成(Yes)へと導く会話術が求められます。許可を求める聞き方は、無意識のうちに相手に「拒否権」を意識させてしまうことがあるのです。

3. 会話のリズムが単調になる

「確認してもよろしいでしょうか」「説明してもよろしいでしょうか」「座ってもよろしいでしょうか」。

会話の語尾がすべて同じだと、どうしても機械的でマニュアル通りの対応に聞こえてしまいます。語彙(ごい)の豊富さは、そのまま「知性」や「柔軟性」の印象に直結します。

レベル1:主体性を示す「宣言型」への変換

それでは、具体的な言い換えテクニックを見ていきましょう。まずは、自分が行う動作について、許可を求めるのではなく「これからします」と丁寧に宣言するパターンです。

「させていただきます」と「いたします」の使い分け

自分の行動を伝える際、基本となるのは「~いたします」です。

  • Before:「資料についてご説明してもよろしいでしょうか。」
  • After:「資料についてご説明いたします。」

これだけで、ぐっと頼りがいのある印象になります。「説明していい?」と聞くのではなく、「私が責任を持って説明します」という姿勢が伝わるからです。

また、相手の許可や恩恵が必要な場面では「~させていただきます」を使いますが、多用は禁物です。

  • OK:「(相手の了解を得て)それでは、画面を共有させていただきます。」
  • Better:「画面を共有いたします。」

シンプルに「いたします」と言い切る方が、現代のビジネスシーンではスマートで潔い印象を与えます。

「入ります」「移ります」でリードする

会議の進行などでは、参加者にいちいち許可を取るよりも、進行役として場を導く言葉を選びましょう。

  • Before:「本題に入ってもよろしいでしょうか。」
  • After:「それでは、本題に入りたく存じます。」
  • After:「次の議題に移らせていただきます。」

「~したく存じます(したいと思う)」という表現は、こちらの希望を伝えつつも丁寧さを失わない、非常に便利な「大人の言い回し」です。

レベル2:相手の意向を伺う「相談型」への変換

次に、相手の都合や意見を聞きたい場合の言い換えです。「よろしいでしょうか」と許可を求めるのではなく、「どうですか?」と意向を尋ねる形にします。

「いかがでしょうか」の活用

これはビジネス敬語の基本中の基本にして、最強のフレーズです。

  • Before:「この日程でよろしいでしょうか。」
  • After:「この日程でいかがでしょうか。」

「よろしいでしょうか」は「Yes/No」を迫りますが、「いかがでしょうか」は「どう思いますか?」というオープンな問いかけです。もし相手に不都合があっても、「その日は難しいから別の日で」と答えやすく、会話が建設的になります。

「差し支えなければ」でクッションを置く

相手の個人情報や、少し答えにくいことを聞く時は、クッション言葉を使って配慮を示します。

  • Before:「お電話番号をお伺いしてもよろしいでしょうか。」
  • After:「差し支えなければ、お電話番号をお教えいただけますか。」
  • After:「もし可能でしたら、ご連絡先をいただけますでしょうか。」

「よろしいでしょうか」と聞くよりも、「差し支えなければ(問題なければ)」という条件をつけることで、相手に「答えない(Noと言う)」権利を優しく渡すことができます。この配慮が、結果として「教えてもいいよ」というYesを引き出します。

レベル3:ポジティブに促す「提案型」への変換

ここからは、さらに上級者向けのテクニックです。相手にとってメリットがあることを提案する際、許可を求めるのではなく、「こうした方が良いですよね?」とポジティブに促す表現です。

「幸いです」で期待を伝える

相手に何かをしてほしい時、「~してもらってもよろしいでしょうか」と言うと、強制力が働いてしまうことがあります。そこで、「あなたがしてくれたら私は嬉しい」という感情を伝えます。

  • Before:「資料をご確認いただいてもよろしいでしょうか。」
  • After:「資料をご一読いただけますと幸いです。」
  • After:「ご確認いただけますと幸いに存じます。」

「幸いです」と言われると、相手は「あなたの役に立ちたい」という心理が働き、気持ちよく行動に移すことができます。

「お勧めします」「ご案内します」で価値を提供する

営業や接客の場面では、遠慮がちな「よろしいでしょうか」はチャンスを逃します。

  • Before:「新プランのご紹介をしてもよろしいでしょうか。」
  • After:「御社に最適な新プランをご案内したく存じます。」
  • After:「こちらのプランも大変お勧めでございます。」

「紹介していいですか?」と聞かれると「今はいいや」となりがちですが、「案内したい」「お勧めだ」と言い切られると、「聞いてみようかな」と興味が湧きます。

【シーン別】スマートな言い換え実践集

それでは、日常業務でよく遭遇するシーン別に、明日から使えるフレーズをまとめてみましょう。

1. 相手の名前や内容を確認する時

電話対応などで頻出のシーンです。

  • Standard:「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。」
  • Smart:「恐れ入りますが、お名前をお聞かせ願えますでしょうか。」
  • Smart:「失礼ですが、どちら様でいらっしゃいますでしょうか。」

「伺ってもいいですか」と許可を取るより、「聞かせてほしい」と依頼する形(願えますでしょうか)にすることで、より丁寧で品のある印象になります。

2. 席を外す時、電話を保留にする時

相手を待たせる場面での言葉選びです。

  • Standard:「少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか。」
  • Smart:「少々お待ちいただけますでしょうか。」
  • Smart:「一度確認いたしますので、そのままでお待ちくださいませ。」

「~していただけますでしょうか」は、相手の意志を尊重する依頼形です。さらに自信がある場合は「お待ちくださいませ」と言い切ることで、テキパキとした対応を印象付けられます。

3. 書類やメールを送る時

  • Standard:「見積書をお送りしてもよろしいでしょうか。」
  • Smart:「見積書を作成いたしましたので、お送りいたします。」
  • Smart:「参考資料を添付いたしました。ご査収のほど、よろしくお願いいたします。」

ここは「いたします」の独壇場です。送ることは決定事項として伝え、その後のアクション(確認よろしく)を丁寧に添えるのがビジネスの定石です。

「よろしいでしょうか」を使うべき場面とは?

ここまで言い換えを推奨してきましたが、もちろん「~してもよろしいでしょうか」が最適な場面も存在します。それは、「相手のテリトリーに踏み込む時」です。

例えば、商談でお客様のデスクにある資料を手に取る時や、プライベートな質問をする時、あるいは相手のパソコンを操作する時。

「こちら、拝見してもよろしいでしょうか?」

「パソコンをお借りしてもよろしいでしょうか?」

このように、相手の所有物や領域に触れる際は、最大限の配慮として「許可を求める」このフレーズが最も誠実に響きます。大切なのは、何でもかんでも使うのではなく、「ここぞ」という場面で使うことです。

注意!似て非なるNG敬語「よろしかったでしょうか」

最後に、よくある間違いについても触れておきます。「よろしいでしょうか」の派生として使われがちな「よろしかったでしょうか」です。

「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」

「お名前は田中様でよろしかったでしょうか?」

これらは、現在のことなのに過去形を使っているため、ビジネスシーンでは不適切(いわゆるバイト敬語)とされます。「さっき聞いたことの確認」という意味で使う方もいますが、違和感を持つ人は多いため避けるのが無難です。

  • Correct:「ご注文は以上でよろしいでしょうか(または、以上でなさいますか)。」
  • Correct:「お名前は田中様でいらっしゃいますね。」

スマートな敬語を目指すなら、現在は現在形で、堂々と話すことを心がけましょう。

まとめ:言葉を変えれば、姿勢が変わる

「~してもよろしいでしょうか」を卒業し、多彩な表現を使い分けること。

それは単に語彙を増やすだけでなく、仕事に対する「姿勢」を変えることでもあります。「許可を待つ人」から、「相手をリードする人」「共に考える人」へ。

「ご説明いたします」

「いかがでしょうか」

「幸いに存じます」

これらの言葉を意識して使うようになると、不思議と背筋が伸び、自分の発言に責任と自信が持てるようになります。そして相手も、そんなあなたを「頼れるプロフェッショナル」として見てくれるようになるはずです。

まずは今日の一通のメール、一本の電話から。いつもの定型句を、少しだけ意志のある言葉に書き換えてみませんか?
この記事を読んでいただきありがとうございました。

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