信頼回復のプロが教える!クレーム対応で「申し訳ございません」に添える”魔法の一言”(顧客満足度UPの敬語テクニック)

間違いやすい敬語シリーズ

「お客様からのお叱りの電話」。そう聞いただけで、少し胃がキリッとしたり、受話器を取る手が重くなったりすることはありませんか?

クレーム対応は、誰にとっても心理的な負担が大きい業務です。相手の怒りを鎮めようと、とっさに「申し訳ございません」を繰り返してしまう。けれど、謝れば謝るほど、相手の怒りがヒートアップしてしまった……そんな苦い経験を持つ方も少なくないでしょう。

実は、クレーム対応において「申し訳ございません」という言葉だけでは、不十分なことが多いのです。お客様が求めているのは、単なる謝罪の言葉ではなく、「自分の気持ちを分かってくれた」という共感と納得感だからです。

この記事では、いつもの「申し訳ございません」に添えるだけで、お客様のイライラをふっと和らげ、ピンチを信頼回復のチャンスに変えることができる「魔法の一言」をご紹介します。明日からの対応ですぐに使える、心の通った敬語テクニックを一緒に見ていきましょう。

なぜ「申し訳ございません」だけでは伝わらないのか?

まず、なぜ一生懸命謝っているのに、お客様の怒りが収まらないことがあるのでしょうか。その原因は、謝罪の言葉が「作業」や「マニュアル」のように聞こえてしまっていることにあります。

「とりあえず謝っている」と感じさせてしまう罠

トラブルが起きた際、私たちはお客様を不快にさせないよう、反射的に「申し訳ございません」と言ってしまいがちです。しかし、お客様からすると、何に対して謝っているのかが不明確なまま連呼される謝罪は、「とりあえず謝ってその場を収めようとしている」という逃げの姿勢に見えてしまいます。

「そうじゃなくて、私の話を聞いて!」

「何が悪いか分かってるの?」

こうした言葉が返ってくる時は、あなたの謝罪に「心(共感)」や「具体性」が不足しているサインかもしれません。

目指すべきは「謝罪」ではなく「共感」

優れたクレーム対応のゴールは、ひたすら低姿勢になることではありません。「この人は私の気持ちを理解してくれた」とお客様に感じていただき、信頼を取り戻すことです。

そのために必要なのが、「申し訳ございません」の前後に添えるプラスアルファの言葉、すなわち「魔法の一言」なのです。

【ステップ別】心に届く「魔法の一言」バリエーション

それでは、具体的な場面や文脈に合わせて使えるフレーズをご紹介します。これらを「申し訳ございません」に添えることで、機械的な謝罪が、体温のあるコミュニケーションへと変わります。

1. 相手の「残念な気持ち」に寄り添う一言

お客様が怒っている背景には、必ず「期待していたのに裏切られた」「楽しみにしていたのにがっかりした」という悲しみや落胆があります。その感情を汲み取る言葉を最初に添えましょう。

「せっかく〜していただきましたのに」

お客様が費やしてくれた時間や労力、期待感に対する感謝と申し訳なさを同時に伝える最強のフレーズです。

  • 使用例:「せっかく足をお運びいただきましたのに、在庫を切らしておりまして、大変申し訳ございません。」
  • 使用例:「せっかく楽しみにお待ちいただいておりましたのに、商品に不備があり、誠に申し訳ございません。」

「せっかく」という言葉には、「あなたの期待を大切にしたかった」というニュアンスが含まれます。これがあるだけで、単なる在庫切れの報告が、相手を思う丁寧な詫び状へと変わります。

「ご不快な思いをさせてしまい」

事実はどうあれ、結果としてお客様が「嫌な気持ち」になったこと自体に対してお詫びをする表現です。

  • 使用例:「私の言葉足らずで、ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません。」

これは、こちらの正当性を主張したい場面でも使えます。「ルールはこうです」と反論する前に、まずは相手の感情を受け止めるクッションとして機能します。

2. 「あなたの言い分はもっともだ」と肯定する一言

ヒートアップしているお客様は、自分の正当性を認めてほしいという欲求を持っています。否定せずに受け止めることで、怒りのトーンを下げることができます。

「おっしゃる通りでございます」

相手の指摘が正しい場合、素直にそれを認める潔さが信頼につながります。

  • 使用例:「ご指摘はごもっともです。おっしゃる通り、私どもの確認不足でございました。申し訳ございません。」
「ごもっともなお怒りです」

特にこちらのミスが明白な場合、相手の怒りを全面的に肯定します。

  • 使用例:「そのような対応をされたら、腹が立つのは当然のことと存じます。ごもっともなお怒りに対し、深くお詫び申し上げます。」

「私があなたの立場でも、同じように怒ります」という姿勢を見せることで、敵対関係から「同じ方向を見る関係」へとシフトすることができます。

3. 手間をかけたことへの「労い」の一言

クレームを入れるという行為自体、お客様にとっては非常にエネルギーを使う、面倒なことです。わざわざ連絡をくれたことへの感謝や労いを添えるのも効果的です。

「お忙しい中、お時間を割いていただき」

電話やメールでのやり取りの冒頭や最後に添えます。

  • 使用例:「お忙しい中、貴重なお時間を割いてご連絡いただき、ありがとうございます。また、ご迷惑をおかけして申し訳ございません。」
「ご足労をおかけして」

店舗などで、再度来店してもらうような場合に必須の言葉です。

  • 使用例:「本来であればこちらからお伺いすべきところ、ご足労をおかけしてしまい、大変申し訳ございません。」

状況を一変させる「部分謝罪」のテクニック

クレーム対応で一番難しいのが、「こちらには非がない(と思われる)場合」や「理不尽な要求をされた場合」です。謝るとこちらのミスを認めたことになってしまう……と迷う場面こそ、言葉選びが重要になります。

ここでも「申し訳ございません」の使い方を工夫します。それは「事象」について謝るのではなく、「心情」や「状況」について謝るというテクニックです。

「お役に立てず」という魔法

お客様の要望に応えられない(ルール上できない)場合、断ることは心苦しいものです。単に「できません」と言うのではなく、「力になりたいけれどなれない」という無念さを伝えます。

  • NG例:「それは規則ですので、できません。申し訳ございません。」
  • OK例:「ご希望に添えず心苦しいのですが、あいにく私どもの力不足で、ご要望にお応えすることができません。お役に立てず、誠に申し訳ございません。」

「力不足で」や「お役に立てず」と自分を下げることで、相手の顔を立てつつ、要求はやんわりとお断りすることができます。

「ご心配をおかけして」

事実関係がまだはっきりしていない段階では、ミスを認めるわけにはいきません。しかし、お客様が不安になっていること自体は事実です。

  • 使用例:「現在、事実関係を確認中でございますが、多大なるご心配をおかけしておりますこと、まずは深くお詫び申し上げます。」

これなら、責任の所在をあいまいにしたまま、お客様の心情に対してのみ謝罪(部分謝罪)を成立させることができます。

さらに好印象を残すためのNG行動と注意点

せっかく良い言葉を選んでも、態度や繋ぎ言葉を間違えると台無しになってしまいます。最後に、注意すべきポイントを押さえておきましょう。

「ですが」「だって」は絶対に禁句

「申し訳ございません。ですが、それはお客様が……」

このように、謝罪の直後に「ですが」「だって」「しかし」といった逆接の接続詞を使うのは厳禁です。これらは「D言葉」とも呼ばれ、相手の神経を逆なでし、「口先だけで謝っている」と思わせてしまいます。

言い訳や事情説明をしたい場合は、必ず一度相手の言葉をすべて受け止め、肯定した後に、「実は〜という事情がございまして」と、事実のみを静かに伝えるようにしましょう。

言葉の「重み」を声色に乗せる

対面や電話では、言葉の内容以上に「声のトーン」や「間」が情報を伝えます。流暢にスラスラと「せっかく足をお運びいただきましたのに〜」と言うと、マニュアルを読み上げているように聞こえてしまいます。

本当に申し訳ないと思う時は、言葉は少し詰まるものです。「せっかく……足をお運びいただきましたのに……」と、一語一語を噛み締めるように、少しトーンを落として話すことで、誠意はより深く伝わります。

まとめ:言葉ひとつで、ピンチはファン化のきっかけになる

クレーム対応は、決して「お客様との戦い」でも「ただの我慢大会」でもありません。何らかの不満や不安を抱えているお客様に対し、プロとして安心感を提供し、再び信頼してもらうための大切なプロセスです。

「申し訳ございません」

この言葉単体では、ただの謝罪記号に過ぎません。しかしそこに、

  • 「せっかく〜していただいたのに」
  • 「ご不快な思いをさせてしまい」
  • 「お役に立てず」

といった、相手を思いやる「魔法の一言」を添えることで、その言葉には「心」が宿ります。お客様は、「自分の気持ちを分かってくれたあなた」に対して、以前よりも強い信頼を寄せてくれるようになるでしょう。

まずは次回の対応で、たった一言で構いません。お客様の気持ちに寄り添う言葉をプラスしてみてください。その一言が、張り詰めた空気を和らげ、お互いにとって納得のいく解決への架け橋となるはずです。
この記事を読んでいただきありがとうございました。

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