ビジネスシーンにおいて、電話対応は会社の「顔」として、相手に与える印象を決定づける非常に重要な業務です。メールとは異なり、声色や言葉遣いがリアルタイムで伝わるため、たった一つの敬語ミスが、あなたの評価、ひいては会社の信頼を大きく損ねてしまう可能性があります。
特に、私たちが良かれと思って使っている丁寧語が、実は相手に失礼な印象を与えているケースは少なくありません。その代表例が、電話をかけた際の一言目である「今、よろしいですか?」です。
本記事では、このフレーズがなぜNGなのかを構造的に解説するとともに、電話対応で無意識に使ってしまいがちな「敬語ミスTOP10」を厳選し、評価を格段に上げる「正しい言い換え」術を、具体的な例文とともにご紹介します。
敬語ミス1:【NG】「今、よろしいですか?」
電話をかけた際、相手の状況を気遣う一言目として使われがちですが、これはビジネスマナーとして絶対的に避けるべき表現です。
なぜNGなのか:評価・許可のニュアンス
「よろしいですか」という言葉は、本来、「良い(Good)」の丁寧語であり、相手に「許可」を求めたり、こちらが「評価・判断」を下したりする際に使う言葉です(例:「こちらでよろしかったでしょうか」)。
電話をかけてきた側が、相手(お客様や取引先)に対して「(電話に出て)良いか?」と許可を求めるのは、相手の時間を奪うことへの配慮が欠けており、非常に高圧的で失礼な印象を与えます。「今、大丈夫?」と聞くのを、ただ丁寧語にしただけの言葉遣いです。
正しい言い換え
相手の貴重な時間を「いただく」という謙虚な姿勢(謙譲語)で尋ねるのが正しいマナーです。必ず、具体的な時間を提示する配慮も加えましょう。
- 「お忙しいところ恐れ入ります。〇〇の件でご連絡いたしましたが、今、3分ほどお時間を頂戴できますでしょうか。」
- 「(もし相手が忙しそうなら)改めておかけ直しいたしましょうか。」
敬語ミス2・3:電話を「かける時」と「受ける時」
電話の第一声である「名乗り」と「相手の確認」には、その人のビジネスマナーが凝縮されています。
敬語ミス2:【NG】「〇〇ですけれども」
自分の名前を名乗る際、「〇〇株式会社の田中でございますけれども」と語尾を濁すのは、自信がなく、要領を得ない印象を与えます。
- 正しい言い換え: 「私、〇〇株式会社の田中と申します。」
「〜と申します」と、謙譲語を使ってはっきりと名乗り切りましょう。
敬語ミス3:【NG】「どちら様ですか?」
相手が名乗らなかったり、声が聞き取れなかったりした際に、こう聞き返すのは「誰だ?」と尋問しているようで、非常に失礼です。
- 正しい言い換え: 「恐れ入りますが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。」
- (声が遠い場合)「申し訳ございません、少々お電話が遠いようですので、もう一度お名前をお聞かせいただけますでしょうか。」
敬語ミス4〜6:応答・相槌・取り次ぎのミス
会話中の応答や、相手を待たせる際の一言にも、多くの落とし穴があります。
敬語ミス4:【NG】「はい、わかりました」
上司や取引先からの指示・依頼に対し、「わかりました」と返事をするのは、同僚や友人に対する言葉遣いです。敬意が全く含まれていません。
- 正しい言い換え: 「承知いたしました。」または「かしこまりました。」
「承知」や「かしこまる」は、「謹んでお受けする」という謙譲の意を含む、正しい敬語です。
敬語ミス5:【NG】「なるほどですね」「たしかに」
相手の話に相槌を打つ際、「なるほど」や「たしかに」は、相手の意見を「評価」するニュアンスを含むため、目上の人に対しては失礼にあたります。
- 正しい言い換え: 「さようでございますか。」
- (同意する場合)「おっしゃる通りでございます。」
敬語ミス6:【NG】「少々お待ちください」
「ください」は丁寧な命令形であり、間違いではありませんが、相手を「待たせる」という負担を強いる際には、より配慮が必要です。この一言だけでは、冷たく、強制的な印象を与えます。
- 正しい言い換え: 「恐れ入りますが、少々お待ちいただけますでしょうか。」(疑問形・依頼形)
- 「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」(「ませ」を付けると格段に柔らかくなります)
敬語ミス7・8:「内(うち)」と「外(そと)」の致命的な混同
日本語の敬語において、自社(内)の人間と、取引先(外)の人間を混同することは、最も恥ずかしい敬語ミスとされています。
敬語ミス7:【NG】(社外へ)「田中部長は、ただいま席を外しております」
「外」の人間(取引先)に対し、「内」の人間(自社の上司)を呼ぶ際に、「部長」という敬称をつけてはいけません。身内を高める行為は、相手への敬意を欠くことになります。
- 正しい言い換え: 「申し訳ございません。(部長の)田中は、ただいま席を外しております。」
社外に対しては、自社の人間は社長であっても「呼び捨て」が原則です。役職を伝える場合は「部長の田中は」のように、敬称ではなく「役割」として伝えます。
敬語ミス8:【NG】「〇〇様(取引先)は、おられますか?」
「おる」は、「いる」の謙譲語です。相手(外)の存在を、こちらがへりくだらせるのは、重大な誤用です。
- 正しい言い換え: 「〇〇株式会社の〇〇様は、いらっしゃいますでしょうか。」
相手の存在や行動には、尊敬語である「いらっしゃる」を使います。
敬語ミス9・10:電話の「切り際」のミス
会話の最後が、その電話全体の印象を決定づけます。
敬語ミス9:【NG】「お疲れ様です」(社外へ)
「お疲れ様」は、社内(内)の人間同士で、労働をねぎらう言葉です。社外(外)のお客様や取引先に対して使うのは、絶対的なNGマナーです。
- 正しい言い換え: 「お忙しいところ、誠にありがとうございました。」
相手が時間を割いてくれたことへの「感謝」を伝えるのが正解です。
敬語ミス10:【NG】「失礼します」(ガチャ)
電話をかけた側から、あるいは目下(自分)から先に電話を切ることは、非常に失礼にあたります。「失礼します」という言葉と同時に電話を切る(ガチャ切り)のは、最悪の印象を与えます。
- 正しい言い換え: 「本日はありがとうございました。失礼いたします。」
(相手が電話を切るのを、2〜3秒待ってから、そっと切る)
電話を切る音は、相手に聞こえないように配慮するのがマナーです。
まとめ:電話敬語は「配慮」と「謙譲」が鍵
電話対応で評価が下がる敬語ミスは、その多くが「相手への配f慮の欠如」と、「尊敬語・謙譲語の混同」から生じています。
特に、「今、よろしいですか?」という一言は、相手の時間を「奪う」という意識が欠けた、自分本位な言葉遣いの典型です。「恐れ入りますが、お時間を頂戴できますでしょうか」という、相手の都合を伺い、自分の行為をへりくだる「謙譲」の姿勢こそが、あなたの評価を守り、信頼を築くための鍵となります。
本記事でご紹介した「正しい言い換え」を実践し、相手に「心地よい」と感じてもらえる電話対応を心がけましょう。
この記事を読んでいただきありがとうございました。