ビジネスメールや文書において、相手に敬意を示すことは不可欠なマナーです。その際、自分の行動をへりくだって伝える謙譲語として、「ご連絡申し上げます」というフレーズが使われます。これは文法的に完璧な、非常に丁寧な敬語表現です。
しかし、この「申し上げる」という言葉が持つ、最大限のへりくだりの姿勢が、受け取る相手や状況によっては「硬すぎる」「よそよそしい」「かえって心理的な距離を感じる」といった印象を与えてしまうことも少なくありません。特に、すでに関係性が構築されている相手や、スピード感が求められる現代のビジネスシーンでは、もう少し「自然体」で「やわらかい」表現が好まれる傾向にあります。</p
本記事では、この「ご連絡申し上げます」がなぜ硬く感じられるのかを構造的に分析します。さらに、敬意はそのままに、あなたの意図をより自然でやわらかく伝えるための、10個の言い換えフレーズを具体的な例文とともにご紹介します。
「ご連絡申し上げます」が硬く聞こえる構造分析
まず、「ご連絡申し上げます」という表現が、なぜこれほどまでに格式高く、時に「硬い」と感じられるのか、その構造を分解してみましょう。
「申し上げる」が持つ敬意のレベル
このフレーズは、「ご連絡(丁寧語)」+「申し上げる(謙譲語)」+「ます(丁寧語)」で構成されています。
問題の中核は「申し上げる」という謙譲語です。これは「言う」の謙譲語であると同時に、「(自分の行為)〜してさしあげる」という意味の謙譲語「いたす(致す)」よりも、さらに敬意の度合いが高い、最上級の謙譲語の一つです。
「申し上げる」は、相手を最大限に立て、自分を低める、非常に格式の高い言葉です。そのため、謝罪や、非常に地位の高い方への最初の連絡など、「ここぞ」という場面で使うと効果的ですが、日常的な業務連絡で多用すると、その「重さ」が「硬さ」として相手に伝わってしまいます。
「自然体」の敬語とは
ビジネスで求められる「自然体」の敬語とは、敬意を欠くことではなく、過剰なへりくだりを避け、相手との心理的な距離を適切に保つ言葉を選ぶことです。「申し上げる」よりも一段階やわらかい謙譲語である「いたす(いたします)」や「差し上げる(さしあげます)」、あるいは「〜します」という丁寧語を文脈に応じて使い分けることが、その鍵となります。
「自然体」に伝える「やわらかい言い換え」フレーズ10選
ここからは、「ご連絡申し上げます」の代わりに使える、具体的でやわらかいフレーズを、使用する意図別に10個ご紹介します。
カテゴリ1:基本の「連絡」をやわらかくする(万能フレーズ)
「申し上げる」を、より一般的で柔らかい謙譲語「いたす」や「差し上げる」に置き換える、最も基本的なテクニックです。
1. ご連絡いたします
「申し上げる」を「いたす(するの謙譲語)」に変えた、最もスタンダードで使いやすい表現です。敬意を保ちつつ、硬さが取れ、あらゆる場面で使えます。迷ったらこれを選べば間違いありません。
例文:「日程が確定しましたら、改めてご連絡いたします。」
2. ご連絡差し上げます
「差し上げる」も「する」の謙譲語ですが、「いたす」よりも、やや相手への「(あなたのために)してあげる」という、柔らかく、個人的な響きを持つことがあります。口語でも使いやすい表現です。
例文:「資料が整い次第、ご連絡差し上げます。」
カテゴリ2:連絡の「目的」を明確にする(行動フレーズ)
「連絡」という曖昧な言葉を、具体的な「行動」に置き換えることで、意図が明確になり、文面がスマートになります。
3. お知らせいたします
「連絡」を「通知(知らせる)」に置き換えた表現です。決定事項や情報をシンプルに伝える際に使うと、「ご連絡」よりもすっきりと聞こえます。
例文:「会議室が変更になりましたので、お知らせいたします。」
4. ご報告いたします
連絡の目的が「報告」である場合、そのまま「ご報告」を使います。何をしたいのかが明確になり、非常にプロフェッショナルな印象を与えます。
例文:「先日のA社訪問の結果をご報告いたします。」
5. ご案内いたします
連絡の目的が「招待」や「誘導」である場合に使います。「ご連絡」よりも、相手を歓迎する温かいニュアンスが生まれます。
例文:「当日のスケジュールについて、ご案内いたします。」
6. お送りいたします
連絡の手段が「メール添付」や「郵送」である場合、「送付」という行動をそのまま伝えます。非常に具体的で分かりやすい表現です。
例文:「お見積書をお送りいたしますので、ご査収ください。」
7. ご共有いたします
「連絡」よりも現代的で、フラットなニュアンスを持つ言葉です。相手に「報告」するほどではなく、「情報として知っておいてほしい(FYI)」という場面で非常に便利です。
例文:「本日の議事録をご共有いたします。」
カテゴリ3:目的を先に述べ、行動を促す(依頼フレーズ)
連絡の「目的」を先に提示することで、相手に「なぜ連絡したのか」を即座に理解してもらい、次の行動を促す高度なテクニックです。
8. ご確認いたしたく、ご連絡差し上げました
「(あなたに)確認してほしい(ことがあり)、連絡しました」という構成です。依頼の意図が非常に明確で、相手もすぐに「何を確認すればよいか」という視点でメールを読んでくれます。
例文:「原稿の最終版についてご確認いたしたく、ご連絡差し上げました。」
9. ご相談いたしたく、メールをお送りしました
「ご連絡」を「メールをお送りしました」という、より具体的な行動に置き換える表現です。「ご相談」という目的を先に示すことで、相手の心構えを促します。
例文:「来期の体制について、〇〇様にご相談いたしたく、メールをお送りしました。」
10. 取り急ぎ、お知らせいたします
「取り急ぎ」という言葉は、「(詳細は後ほど改めて)まずはこの情報だけ先に」というニュアンスを持ちます。これにより、メール全体の堅苦しさが緩和され、スピード感と配慮が伝わります。
例文:「〇〇の件、無事に完了いたしましたので、取り急ぎ、お知らせいたします。」
注意点:「ご連絡申し上げます」が最適な場面もある
「ご連絡申し上げます」が硬いからといって、使ってはいけないわけではありません。この言葉が持つ「最大限の敬意」が、むしろ不可欠な場面も存在します。
- 重大な謝罪の連絡:「この度の不手際に関し、深くお詫び申し上げます。経緯をご報告するためご連絡申し上げます。」
(軽い「いたします」では、反省の意が伝わりません。)
- 非常に地位の高い方への最初の連絡:初めて連絡する取引先の社長や、公的機関の要人など、最大限の敬意を払うべき相手への第一報。
- 公式な(儀礼的な)挨拶状:就任挨拶や、式典の案内など、個人の感情よりも形式的な敬意が優先される文書。
TPOを見極め、日常業務では「いたします」や「差し上げます」、あるいは「ご報告いたします」といった具体的な動詞を使い、ここぞというフォーマルな場面で「申し上げます」を使うのが、洗練された大人の使い分けです。
まとめ:「いたします」を使いこなし、自然な敬意を
「ご連絡申し上げます」というフレーズは、非常に丁寧な反面、その「硬さ」が相手との心理的な距離を生んでしまうことがあります。
ビジネスメールで「自然体」の敬意を伝える秘訣は、謙譲語のレベルを適切に調整することです。「申し上げる」を「いたします」や「差し上げます」に変えるだけで、文面の印象は格段にやわらかくなります。
さらに、「連絡」という曖昧な言葉を、「報告」「案内」「共有」といった具体的な行動に置き換えることで、あなたのメールは、よりスマートで、意図が伝わりやすいものへと進化します。これらのフレーズを使いこなし、相手に心地よいと感じてもらえるコミュニケーションを心がけましょう。
この記事を読んでいただきありがとうございました。