プロでも間違える!「させていただきます」の多すぎる誤用パターンと「スマートな言い換え」フレーズ集

間違いやすい敬語シリーズ

ビジネスメールやプレゼンテーション、接客の現場で、「資料を送付させていただきます」「これより発表させていただきます」というフレーズを、私たちは一日に何度も見聞きします。この「させていただきます」という表現は、非常に丁寧で謙虚な印象を与えるため、相手への敬意を示す「万能な敬語」として、多用されがちです。

しかし、この言葉は、プロのビジネスパーソンでさえも使い方を間違えやすい、非常にデリケートな表現です。その多用は「させていただき病」と揶揄されることもあり、使い方を誤ると、文法的に不自然になるだけでなく、かえって相手にまどろこしさや、意図しない不快感を与えてしまう可能性すらあります。

本記事では、この「させていただきます」がなぜ誤用されやすいのか、その正しい使用条件を文化庁の見解も交えて深く掘り下げます。さらに、ビジネスシーンで頻発する「誤用パターン」を分析し、あなたの日本語をよりスマートで洗練されたものにする「言い換え」フレーズ集を具体的にご紹介します。

「させていただきます」の正しい構造と「誤用の温床」

「させていただきます」という表現は、そもそもどのような構造で、どのような条件下で使うのが正しいのでしょうか。この言葉の成り立ちが、誤用の温床となっています。

「させていただきます」を構成する要素

このフレーズは、以下の二つの要素から成り立っています。

  • 「させて」: 使役の助動詞「さす」の連用形。相手に「〜させる」というニュアンスを含みます。
  • 「いただく」: 「もらう」の謙譲語。「(目上の人から)恩恵として〜してもらう」という意味を持ちます。

つまり、「させていただきます」の本来の意味は、「(相手の許可や配慮という恩恵を)私が謹んで受けた上で、〜(という行為を)します」という、非常に回りくどい感謝と許可の確認を含んだ表現なのです。

文化庁が示す「正しい使用」の二大条件

この言葉の誤用があまりに広まったため、文化庁の「敬語の指針」では、「させていただきます」が適切とされる、以下の二つの条件が示されています。

  1. 相手の「許可」が必要な場合:相手の許可を得て、ある行為を行う時。(例:相手の会社を訪問する、相手の所有物を使うなど)
  2. その行為によって「恩恵」を受けるという気持ちがある場合:その行為をすることが、自分にとってありがたい、恩恵であると感じる時。(例:スピーチをさせてもらう、休ませてもらうなど)

ビジネスシーンにおける誤用のほとんどは、この二つの条件(特に「許可」)が満たされていないにもかかわらず、単に「丁寧そうだから」という理由で使ってしまっている点にあります。

よくある「させていただきます」の誤用パターン

それでは、具体的にどのような使い方が誤用とされやすいのか、三つのパターンに分けて分析します。

パターン1:許可が不要な「自分の業務」に使ってしまう

最も多い誤用が、相手の許可を必要としない、自分自身の業務や行動に対して使ってしまうケースです。これは、上記の条件1「許可」を満たしていません。

NG例1:「資料を送付させていただきます。」

NG例2:「ご報告させていただきます。」

資料の送付や報告は、相手の許可を得て行うものではなく、話し手(自分)の業務として当然行うべき行動です。この場合、「許可」を求めるような「させていただきます」を使うと、かえって「自分の業務を、相手の許可を得て恩着せがましく行う」ような、奇妙なニュアンスを生んでしまいます。

パターン2:恩恵の主体が曖昧な場合

許可は不要でも、「恩恵」があれば使える、という解釈もありますが、その恩恵が相手にとって不明瞭な場合も、まどろこしい表現となります。

NG例:「(会議の冒頭で)本日の司会を務めさせていただきます、田中でございます。」

司会を務めることは、本人の役割です。聴衆(相手)に許可を得るものでも、聴衆から恩恵を受けるものでもありません。この場合も、冗長な表現と受け取られます。

パターン3:「させていただき」の過剰な連続

「させていただき病」とも呼ばれる、過剰な使用です。丁寧さを意識するあまり、一文に何度も登場し、くどく、幼稚な印象を与えてしまいます。

NG例:「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。私が担当させていただきます田中です。資料を配布させていただきますので、ご覧いただければ幸いです。」

【スマートな言い換え】フレーズ集

では、これらの誤用を避け、よりスマートでプロフェッショナルな印象を与えるには、どう言い換えればよいのでしょうか。誤用パターンの多くは、よりシンプルな謙譲語で解決します。

言い換え1:自分の行動を謙虚に宣言する「〜いたします」

「させていただきます」の誤用の9割は、この「いたします」で解決します。「いたす」は「する」の謙譲語であり、相手の許可を必要としない、自分の行動を謙虚に伝える際の最適な表現です。

  • NG:「資料を送付させていただきます。」
  • OK:「資料を送付いたします。」
  • NG:「ご報告させていただきます。」
  • OK:「ご報告いたします。」(または「ご報告申し上げます」)
  • NG:「司会を務めさせていただきます。」
  • OK:「司会を務めます、田中でございます。」(「務めます」で十分丁寧です)

言い換え2:より丁重に伝える「〜申し上げます」

「いたします」よりも、さらに改まった敬意を示したい場合は、「申し上げる(言うの謙譲語、または「する」の謙譲語としても使用)」を使います。

  • NG:「お詫びさせていただきます。」
  • OK:「お詫び申し上げます。」
  • NG:「御礼させていただきます。」
  • OK:「御礼申し上げます。」

言い換え3:本当に許可を求める「〜してもよろしいでしょうか」

「させていただきます」が持つ「許可」のニュアンスを、本当に使いたい(相手の意向を伺いたい)のであれば、こちらが本筋です。

  • NG:「(会議中)次の議題に移らせていただきます。」(一方的な宣言)
  • OK:「(会議中)次の議題に移ってもよろしいでしょうか。」(相手への確認)

言い換え4:「させていただきます」が「正しい」場面

もちろん、「させていただきます」が最適(正しい)な場面もあります。それは、前述の「許可」と「恩恵」の条件を満たした場合です。

OK例1:「(相手の許可を得て)それでは、お言葉に甘えさせていただきます。」(恩恵)

OK例2:「(上司の許可を得て)明日は体調不良のため、休ませていただきます。」(許可+恩恵)

OK例3:「(相手の希望に反することを断る際)誠に恐縮ですが、今回は辞退させていただきます。」(相手の提案(恩恵)を、こちらの都合で断る)

まとめ:「いたします」を使いこなし、敬語上手に

「させていただきます」という表現は、それ自体が間違いなのではなく、相手の許可や恩恵なしに、自分の行動を宣言する際に使うことが誤用である、と理解することが重要です。

ビジネスシーンで頻発する「報告」「連絡」「送付」といった自分の業務は、相手の許可を得るものではありません。このような場面では、「させていただきます」という回りくどい表現を避け、「いたします」というシンプルで正しい謙譲語を使いこなすこと。

それこそが、プロでも間違える落とし穴を避け、相手に敬意と知性を感じさせる、最もスマートなコミュニケーション術と言えるでしょう。

この記事を読んでいただきありがとうございました。

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