【二重敬語注意】「私のほうで」はNG!「〜のほう」を避けるスマートな話し方

間違いやすい敬語シリーズ

ビジネスの場面で、「私のほうで対応いたします」「資料のほう、お持ちしました」「お客様のほうのご都合は」といった「〜のほう」という表現を、日常的に使ったり、耳にしたりすることはありませんか。

相手に柔らかく伝えたい、あるいは丁寧に話したいという配慮から、つい使ってしまいがちなこの表現。ですが、実は日本語の使い方として考えると、少し曖昧(あいまい)な印象を与えてしまったり、回りくどく聞こえてしまったりすることがあるのです。場合によっては、聞く人によっては「正しい日本語を知らないのでは?」と、少し残念な印象を持たれてしまう可能性もゼロではありません。

言葉は、その人の印象や信頼感を形作る大切な要素です。せっかくの配慮が、意図せずマイナスに受け取られてしまうのは、とてももったいないことです。

この記事では、なぜ「〜のほう」という表現がビジネスシーンであまり好ましくないとされるのか、その理由を優しく紐解いていきます。そして、この表現を上手に避けて、もっとスマートで、明確に伝わる、洗練された話し方について、具体的な言い換えの例を交えながらご紹介いたします。

「〜のほう」という言葉が持つ本来の役割

まずはじめに、「〜のほう」という言葉が、本来どのような役割を持っているのかを一緒に確認してみましょう。この言葉には、大きく分けて二つの大切な役割があります。

役割1:方向や方角を指し示す

一つ目は、物理的な「方向」や「方角」を示す役割です。これは私たちも日常的によく使う、分かりやすい使い方ですね。

  • 例:「駅のほうへ歩いていきます。」
  • 例:「恐れ入ります、お手元の資料の、右上のほうをご覧ください。」

このように、どちらの方向なのか、どのあたりなのかを示す際に使われます。

役割2:二つ以上のものを比べて選ぶ

二つ目の役割は、何かと何かを「比較」したり、複数の選択肢の中から一つを「選んだり」するときに使われます。

  • 例:「コーヒーと紅茶でしたら、私は紅茶のほうが好きです。」
  • 例:「A案とB案を比べますと、B案のほうがコストを抑えられます。」

ビジネスシーンで使われる「私のほうで」という表現も、厳密に解釈すれば「(他の誰かではなく)私のほう(の担当)が」という比較の意味合いが含まれている、と考えることもできます。しかし、多くの場合、そうした比較の意図は薄れ、単なる「言葉の癖」として使われてしまっているのが現状です。

ビジネスシーンで「〜のほう」が好ましくないとされる理由

では、本来の役割から外れた「〜のほう」という表現が、なぜビジネスシーンで好ましくないとされてしまうのでしょうか。それには、いくつかの理由があります。

理由1:言葉が曖昧になり、意図が伝わりにくくなるから

「〜のほう」という言葉には、物事をはっきりと断定せず、「ぼかす」というニュアンスが含まれています。この「ぼかし」が、時には優しさや柔らかさとして機能することもありますが、正確さが求められるビジネスシーンでは、逆にデメリットとなってしまうのです。

例えば、「資料のほう、お持ちしました」と言われると、聞く人によっては「資料そのもの?それとも、資料に関連する何か別のもの?」と、一瞬考えてしまうかもしれません。

「資料をお持ちしました」と断定すれば、誤解の余地はありません。ビジネスでは、このような明確さが非常に大切にされます。

理由2:回りくどく、冗長な(むだの多い)印象を与えるから

「〜のほう」という言葉は、多くの場合、なくても意味が通じてしまいます。

  • 「私のほうで対応します」 → 「私が対応いたします」
  • 「資料のほう、作成します」 → 「資料を作成いたします」

このように、シンプルに言い換えられる言葉に「〜のほう」を付け加えることは、言葉を必要以上に長くする「冗長表現」にあたります。余計な言葉がつくことで、会話全体が少しだらしない印象になったり、スマートさに欠けて聞こえたりすることがあるのです。

理由3:「バイト敬語」や幼い言葉遣いと受け取られるから

この「〜のほう」という表現は、特に飲食店の接客などで「ご注文のほう、お決まりですか」「コーヒーのほう、お下げします」といった形で広まった経緯があり、俗に「バイト敬語」や「マニュアル敬語」と呼ばれることもあります。

こうした背景から、特に言葉遣いに厳しい方や、フォーマルな場を重んじる方に対して使うと、「ビジネスマナーとして少し幼い」「くだけた言葉遣いだ」と受け取られてしまうリスクがあるのです。

「私のほうで」はなぜ「二重敬語」のように注意されるのか

記事のタイトルにもあるように、「私のほうで」という表現は、「二重敬語」と同じように注意を促されることがあります。厳密な文法でいうと、「私のほうで」自体が二重敬語(例:「おっしゃられる」=「おっしゃる(尊敬語)」+「られる(尊敬語)」)というわけではありません。

では、なぜそのように指摘されてしまうのでしょうか。

過剰な丁寧さが生む「くどさ」

その理由は、「私のほうで」という表現が、他の過剰に丁寧な表現と組み合わさって使われることが非常に多いからです。

代表的な例が、「私のほうでご説明させていただきます」という一文です。

1. 「私」を「私のほう」と、まず曖昧にぼかします。

2. 「説明する」を「ご説明する(謙譲語)」にします。

3. さらに「する」を「させていただく(謙譲語)」という、相手の許可を求める形にします。

このように、一つの動作を伝えるために、何重にも丁寧さを重ねてしまっています。この「過剰な丁寧さ」や「回りくどさ」が、二重敬語が持つ「くどい印象」と非常に似ているため、「敬語として不適切だ」と指摘されることが多いのです。

この場合、シンプルに「私が(わたくしが)ご説明いたします」と表現するだけで、敬意は十分に伝わり、かつ非常にスマートな印象になります。

【シーン別】「〜のほう」を使わないスマートな言い換え集

それでは、具体的にどのような場面で、どう言い換えればよいのでしょうか。日常でつい使ってしまいがちなシーン別に、スマートな言い換えをご紹介します。

シーン1:「私のほうで」と言いそうな時(自分を主語にする)

最も多く使われる場面ですが、「〜のほう」を思い切って取り除き、助詞の「が」や「は」を使うだけで、非常にスッキリします。

  • NG例:「私のほうで、確認いたします。」
  • OK例:「私が(わたくしが)、確認いたします。」
  • NG例:「私のほうから、改めてご連絡します。」
  • OK例:「わたくしから、改めてご連絡いたします。」
  • NG例:「明日の会議は、私のほうで準備を進めます。」
  • OK例:「明日の会議は、私が(わたくしが)準備を進めます。」

シーン2:「資料のほう」と言いそうな時(モノを対象にする)

資料や見積書など、モノに対しても「〜のほう」を使いがちです。これもシンプルに助詞の「を」や「は」に置き換えましょう。

  • NG例:「資料のほう、お持ちしました。」
  • OK例:「資料をお持ちいたしました。」
  • NG例:「お見積りのほう、メールでお送りします。」
  • OK例:「お見積書をメールでお送りいたします。」
  • NG例:「こちらの商品のほうは、在庫がございます。」
  • OK例:「こちらの商品は、在庫がございます。」

シーン3:「お客様のほうで」と言いそうな時(相手を主語にする)

相手に対して「〜のほう」を使うのは、場合によっては方向を指し示すような、やや失礼な印象を与えかねないため、特に注意が必要です。「お客様」や「〇〇様」を主語にするのが基本です。

  • NG例:「お客様のほうで、ご確認いただけますでしょうか。」
  • OK例:「お客様に、ご確認いただけますでしょうか。」
  • OK例:「〇〇様(お名前)にご確認いただけますと幸いです。」
  • NG例:「お客様のほうのご都合はいかがでしょうか。」
  • OK例:「お客様のご都合はいかがでしょうか。」
  • OK例:「〇〇様のご都合をお伺いできますでしょうか。」

「〜のほう」をあえて使っても良い例外的な場面

もちろん、「〜のほう」という言葉を一切使ってはいけない、というわけではありません。本来の役割に沿った使い方であれば、全く問題ありません。

1. 比較・選択肢を明確に示す場合

二つ以上のものを比べて選んでもらう際には、むしろ使ったほうが分かりやすくなります。

  • 例:「A案とB案がございますが、B案のほうが、よりご希望に沿えるかと存じます。」
  • 例:「(電話対応などで)営業担当と経理担当がおりますが、どちらのほうにご用件でしょうか。」

2. 方向や場所を指し示す場合

物理的な位置関係を説明する際にも、もちろん使って問題ありません。

  • 例:「会議室は、あちらのエレベーターのほうにございます。」
  • 例:「資料の、右下のほうに記載がございます。」

このように、本来の役割である「比較」や「方向」を示す意図が明確な場合は、適切に使いましょう。

まとめ:言葉を磨き、信頼される話し方へ

「〜のほう」という表現は、相手を思いやる気持ちから、あるいは無意識の癖として使われることが多い言葉です。しかし、ビジネスシーンにおいては、その曖昧さや回りくどさが、かえって分かりにくさや稚拙な印象につながってしまうことがあります。

特に「私のほうで」や「資料のほう」といった、比較する対象がない場面での使用は、思い切って「私が」「資料を」とシンプルに言い換えてみてください。たったそれだけで、あなたの言葉はずっと明確になり、スマートで知的な印象に変わるはずです。

不要な言葉をそぎ落とし、的確な言葉を選ぶことは、相手への何よりの配慮であり、ご自身の信頼感を高めることにもつながります。この記事が、皆さまの日々のコミュニケーションを、より豊かで洗練されたものにするための一助となれば幸いです。

この記事を読んでいただきありがとうございました。

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