「部長様」「課長様」は失礼?役職名の正しい敬称ルールと例文集

間違いやすい敬語シリーズ

ビジネスメールや電話応対において、お客様や取引先の担当者、あるいは社内の上司を呼ぶ際、「部長様」「課長様」といった形で、役職名と敬称の「様」を重ねて使っている方も多いのではないでしょうか。

相手に失礼があってはいけないと、丁寧さを重ねた結果の表現ですが、実はこの「役職名+様」という呼び方は、日本語の敬語のルールから見ると、原則として不適切、あるいは過剰な敬語(二重敬語に近い)とされています。本来、役職名自体が相手への敬意を示す「敬称」の役割を持っているため、「役職名+様」と呼ぶことは、敬称を二重に使っていることになってしまうからです。

相手への配慮から使っているのに、それがルールから外れた表現であるために、「この人は正しいマナーを知らない」と受け取られてしまうとしたら、非常に残念です。

この記事では、なぜ「部長様」が不適切とされるのか、その理由を優しく解説します。そして、役職名を使う際に最も正しいとされる呼び方から、メールの宛名や口頭での呼びかけ方まで、具体的な例文を交えながら、すぐに使えるスマートな敬称ルールをご紹介いたします。この機会に、迷いがちな役職名と敬称の正しい使い方をマスターしましょう。

「役職名+様」が不適切とされる理由

「部長様」「課長様」という呼び方が、なぜ不適切とされるのか、その背景にある日本語の敬語ルールを確認しましょう。

理由1:役職名自体が「敬称」の役割を持っている

日本語において、「部長」「社長」「課長」といった役職名は、単にその人の地位や役割を示すだけでなく、相手への敬意を含む「敬称」としての機能も同時に持っています。

例えば、「田中部長」と呼ぶ場合、これは「田中さん」という人に対して「部長」という敬意を払った呼び方をしている、ということになります。これは、相手が目上の人であることを意識して使われるためです。

理由2:「敬称」を二重に使うことになる

ここに、さらに「様」という敬称を重ねて「部長様」としてしまうと、「田中(さん)」+「部長(敬称)」+「様(敬称)」という形で、一つの対象に対して敬意を二重、あるいは過剰に示していることになります。

これは、以前の記事で紹介した「おっしゃられる」(「おっしゃる」+「られる」)のような二重敬語と同じように、丁寧さを重ねすぎて、かえって不自然でくどい印象を与えるため、原則として避けるべきとされています。

理由3:最も正しい呼び方は「役職名だけ」か「氏名+役職名」

役職名を使う際の最もシンプルな敬称ルールは、以下の通りです。

  • 氏名を省略して役職だけで呼ぶ場合:「部長」「課長」(これ自体が敬意を示す)
  • 氏名を含めて呼ぶ場合:「田中部長」「佐藤課長」

したがって、「役職名+様」という形は、この基本ルールから外れた、過剰な表現なのです。

役職名を使う際の正しい敬称ルールと例文

「様」をつけずに役職名を使うことが基本ですが、メールの宛名や文書など、フォーマルな場面ではどのように表記するのが最も適切なのでしょうか。場面別に正しいルールと例文を確認しましょう。

ルール1:氏名と役職を併記する場合(最も丁寧な基本形)

相手の氏名が分かっている場合、役職名と敬称の「様」は、以下の順序で使います。これが、ビジネス文書やメールの宛名において、最も丁寧で正しいとされている書き方です。

氏名+役職名

正しいメール宛名の例文
  • 株式会社〇〇田中 太郎部長
  • 株式会社〇〇営業部

    田中 太郎部長殿(※「殿」は社外や目上には使わないのが原則のため、「田中 太郎部長」で止めるか、後述の方法を使います)

ただし、メールでは「田中 太郎様」として、本文の呼びかけを「田中部長」とするなど、役職名を本文に織り交ぜることも多いです。次に、そのルールを見てみましょう。

ルール2:氏名+様を使う場合(役職名を文中に移動)

「役職名」と「様」は重ねられないので、「様」を使いたい場合は、役職名の方を氏名の横から外し、氏名の下や行を改めて記載し、氏名には「様」をつけます。これが、現在最も一般的で、スマートとされる書き方です。

役職名+氏名+様

正しいメール宛名の例文(最も一般的)
  • 株式会社〇〇部長 田中 太郎様
  • 株式会社〇〇営業部 課長

    佐藤 花子様

この書き方であれば、役職名と「様」が直接重ならないため、ルール上も正しく、丁寧さが伝わります。ビジネスメールでは、この形式を第一に使うのがお勧めです。

ルール3:口頭や文中で役職名で呼びかける場合

会話やメールの本文中で、相手に呼びかけたり、相手を指したりする場合は、「様」はつけず、「氏名+役職名」で呼びかけます。

口頭での正しい呼びかけ例文
  • 「田中部長、ご説明をお願いいたします。」
  • 「佐藤課長は、本日は終日外出されています。」
  • 「(氏名を知らない相手に)お電話代わりました。ご用件は、どちらの部長様でしょうか。」(※例外として、相手に敬意を示すために「様」を使うことが、現代の慣用で許容される場合もありますが、基本は「どちらの部長でいらっしゃいますか」など、動詞で丁寧さを表します。)

役職名で特に注意すべきNGな使い方

役職名を使う際には、「部長様」以外にも、誤用しやすいルールがいくつかあります。特に注意すべきNGな使い方を確認しましょう。

NG1:社外の人に対して「殿(どの)」を使う

「〇〇部長殿」という表現は、社内や目下の人に対して使うものであり、社外の取引先やお客様に対して使うのは大変失礼にあたります。「殿」は、「様」よりも一段敬意が低い表現であるため、社外や目上の方には絶対に使ってはいけません。

代わりに使用するべきなのは、「様」または、前述の「役職名+氏名+様」という形式です。

NG2:社内の人間を社外の人に対して役職名で呼ぶ

取引先など社外の人と話す際、自社の人間を呼ぶときには、謙譲語を使うルールがあります。これは「うち(自社)のことはへりくだって呼ぶ」というルールです。

役職名や敬称はすべて省略し、呼び捨て、あるいは「〜さん」で統一します。

社外でのNG例
  • 「田中部長は、本日外出しております。」(NG:自社の人間に敬称を使っている)
  • 「営業部の田中様が、すぐにお電話を代わります。」(NG:自社の人間に「様」を使っている)
社外での正しい表現例
  • 「田中は、本日外出しております。」
  • 「担当の田中が、すぐにお電話を代わります。」

NG3:「役職名+役職名」の重ね使い

役職を二つ持っている人に対して、敬意を込めて両方を併記したくなるかもしれません。しかし、役職名も一つに絞るか、併記する場合はルールに従います。

  • NG例:「田中部長課長」(NG:単純に並べるのは不自然)
正しい表現例
  • 「田中部長兼課長」
  • 「部長の田中」

メールの宛名では、その方が持つ最も高い役職を一つだけ記載するか、「役職名 氏名 様」という形式に沿って併記するのが無難です。

まとめ:正しい敬称ルールで、スマートな配慮を

「部長様」「課長様」という表現は、相手への丁寧さを重ねた結果生まれた、現代の慣用表現かもしれません。しかし、役職名自体が敬称であるという日本語のルールから外れた、過剰な表現なのです。

相手への配慮を完璧に伝えるためには、「様」と「役職名」を重ねて使わないという基本ルールを覚えておくことが大切です。

  • 最もスマートで丁寧な宛名:「役職名 氏名 様」
  • 口頭での呼びかけ:「氏名+役職名」

このルールを押さえて、明確で洗練された言葉遣いを実践することで、あなたのコミュニケーションはより正確になり、相手からの信頼も一層深まるでしょう。

この記事を読んでいただきありがとうございました。

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