間違えやすい敬語「こちらが資料になります」を正しく使う方法【言い換え一覧付き】

間違いやすい敬語シリーズ

ビジネスシーンで資料や物品を相手に差し出すとき、「こちらが資料になります」「これが企画書になります」といった表現を、ごく自然に使っている方は多いのではないでしょうか。この「〜になります」という言い回しは、現代のビジネス敬語として広く浸透していますが、実は文法的には不適切であり、日本語の専門家や敬語を重んじる場面からは「誤用」と指摘されることが多い表現の一つです。

丁寧な言葉遣いを心がけているつもりでも、誤った表現を使ってしまうと、相手に「言葉を知らない」という印象を与えたり、場合によっては軽々しい態度だと受け取られたりする可能性があります。特に、重要な会議や格式の高い取引先とのやり取りでは、こうした細かい言葉の選び方が、ご自身の信頼度を左右することにもなりかねません。

本記事では、なぜ「〜になります」という表現が適切ではないのか、その文法的な理由をわかりやすく解説します。その上で、資料や物品を提示する場面で相手に敬意を示しつつ、より正確で洗練された表現を用いるための「正しい言い換え」のパターンを、具体的な例文を交えてご紹介します。

なぜ「〜になります」は間違いとされるのか?

私たちが何気なく使っている「〜になります」という表現が、なぜビジネスの場で避けるべき「誤用」とされるのか、その根本的な理由を理解することが、正しい敬語を身につけるための出発点です。

「〜になる」が持つ本来の意味

日本語の動詞「なる」は、「AがBに変化する」という「変化・変身」の意味を表す動詞です。

  • 例:「卵がゆで卵になる。」
  • 例:「春になり、桜が咲いた。」
  • 例:「子供が大人になる。」

これらのように、状態や性質が移行したり、時間が経過したりするプロセスを示すのが、「なる」の基本的な役割です。

「こちらが資料になります」の文法的矛盾

私たちが資料を提示する際に使う「こちらが資料になります」という文には、この「変化・変身」のニュアンスが含まれていません。

  • 資料を差し出す行為は、「今、目の前にあるものが資料である」という「事実の提示」であり、目の前で別のものから資料に変化したわけではありません。
  • 文法的に正しく「事実の提示」を示す場合は、「AはBである」という意味の「AはBです」という形式を用いるべきです。

したがって、「こちらが資料になります」という表現は、「こちらは資料に変化します」という意味に聞こえてしまい、文法的に矛盾した、不自然な言い回しとなってしまうのです。

丁寧語としての不十分さ

「〜になります」という言葉が広まった背景には、「です」よりも「なります」のほうが語尾が長く、より丁寧に聞こえるという意識があると考えられます。しかし、これは単なる語感の問題であり、敬語の本質である「相手への敬意」や「自分の謙譲」といった要素を含んでいません。単に文法的に不正確なだけでなく、相手への敬意を示す上でも不十分な表現なのです。

資料・物品を提示する際の正しい敬語表現

「〜になります」の代わりに、何を言うのが適切で、相手への敬意が伝わるのでしょうか。状況に応じて、「事実の提示」だけでなく、「謙譲」や「相手への配慮」といった敬語の要素を加えて表現を洗練させましょう。

基本の表現:事実の提示を丁寧に

「事実の提示」を最もシンプルかつ正確に伝える基本形は、「〜でございます」です。「です」の丁寧さをさらに高めた言葉であり、形式的な場面でも安心して使用できます。

「〜でございます」を使うパターン
  • 「こちらが資料でございます。」
  • 「本日の議題は、こちらの件でございます。」
  • 「この書類が申請書でございます。」

この表現は、文法的に正しく、丁寧さも兼ね備えているため、迷った際に立ち返るべき基本形といえます。

最も丁寧な表現:謙譲語とセットで使う

相手に資料などを渡す行為は、自分の動作であるため、「する」の謙譲語である「いたす」や「差し上げる」といった言葉を組み合わせて表現すると、最も丁重で洗練された印象になります。

「〜を(お/ご)〜いたします」を使うパターン

相手に手渡す動作を謙譲語「いたす」で表現することで、自分の行動をへりくだり、相手への敬意を明確に示します。

  • 「こちらに、本日の資料をご用意いたしました。」
  • 「後ほど、企画書をお送りいたします。」
「〜をお渡しいたします」を使うパターン

相手に手渡す動作そのものを丁寧に表現する際に適しています。

  • 「こちらの資料をお渡しいたします。」
  • 「名刺を頂戴いたします。」(相手から名刺を受け取る場合)

口頭での提示をスムーズにする表現

会議などで、すぐに資料に注目してほしいときなど、よりスムーズに誘導し、配慮を示すための表現です。

「〜でございます」に誘導を加えるパターン

「〜をご覧ください」や「〜をご参照ください」といった言葉を添えることで、相手の行動を促します。

  • 「こちらが資料でございます。どうぞご覧ください。」
  • 「お手元の資料をご参照ください。」
「ご用意しました」で心遣いを示すパターン

「ご用意いたしました」という言い方は、「資料を準備するという手間をかけました」という心遣いを相手に伝えることができ、より温かい印象を与えます。

  • 「こちら、会議のレジュメをご用意いたしました。」

【言い換え一覧】状況別・「〜になります」の正しい置き換え

誤用されやすい「〜になります」の表現を、実際のビジネスシーンでどのように言い換えればよいか、具体的な例を一覧でご紹介します。丁寧さの度合いや、相手との関係性に応じて使い分けてください。

1. 資料や物品を提示する時

目の前の資料や物品が何であるかを伝える場面です。

不適切な表現 正しい言い換え(丁寧語:基本) 正しい言い換え(謙譲語:丁重)
こちらが資料になります。 こちらが資料でございます。 こちらに資料をご用意いたしました。
この件が議題になります。 この件が本日の議題でございます。 この件についてご説明いたします。
これが領収書になります。 これが領収書でございます。 領収書をお渡しいたします。
次の担当者が〇〇になります。 次の担当者は〇〇でございます。 次の担当は〇〇が務めさせていただきます。(※許可/恩恵の条件を満たすため使用可)

2. 電話で自分の名前を名乗る時

自分の名前を伝える際にも「〜になります」は不適切です。

不適切な表現 正しい言い換え(基本) 正しい言い換え(丁重)
〇〇会社の△△になります。 〇〇会社の△△でございます。 〇〇会社の△△と申します。

3. 時間や場所を伝える時

決定した情報(時間、場所など)を通知する場面です。

不適切な表現 正しい言い換え(基本) 正しい言い換え(丁重)
会議は10時からになります。 会議は10時からでございます。 会議は10時より開始いたします。
場所は3階の会議室になります。 場所は3階の会議室でございます。 場所は3階の会議室にご案内いたします。

4. 金額を伝える時

合計金額や支払いに関する情報を伝える場面です。

不適切な表現 正しい言い換え(基本) 正しい言い換え(丁重)
合計金額は5万円になります。 合計金額は5万円でございます。 合計5万円を頂戴いたします。

「〜になります」を避けるための実践的ポイント

頭では理解していても、長年の習慣でつい「〜になります」と言ってしまいがちです。これを意識的に修正し、正確な敬語を身につけるための実践的なヒントをご紹介します。

ポイント1:「でございます」への置き換えを徹底する

「〜になります」を使ってしまいそうになったら、瞬時に「〜でございます」に置き換えるトレーニングを徹底しましょう。「でございます」は「です」の丁重語であり、形式的な場面でも失礼に当たることがありません。まずはこれを基本として定着させることが、誤用を減らす最も近道です。

ポイント2:提示・紹介・説明の動作を加える

資料などを渡す場面では、「こちらが〜です」という事実の提示に加えて、以下の動作を謙譲語で添えることを習慣づけましょう。

  • 資料を「渡す」→「お渡しいたします」
  • 資料を「用意する」→「ご用意いたしました」
  • 資料を「提示する」→「提示させていただきます」(※相手の了承を得て提示する場合)

動作を加えることで、単なる事実の提示を超えた、相手への配慮を示すことができます。

ポイント3:社内での言葉遣いにも意識を向ける

敬語の誤用は、身内や慣れた環境での使用が習慣となってしまうことから起こります。社内での会話や、同僚とのメールのやり取りにおいても、意識的に「〜になります」を避け、「〜です」「〜いたします」といった正しい表現を使うように心がけましょう。日常的な習慣が変われば、社外での正式な場面でも自然と正しい言葉が出てくるようになります。

まとめ:正確な言葉選びが信頼を築く

「こちらが資料になります」という表現は、多くの人が丁寧なつもりで使っている言葉ですが、その根拠となる文法的な意味合いを欠いており、敬語としては不適切です。

敬語の乱れが指摘される現代だからこそ、私たちは言葉の「正確さ」と「相手への敬意」を両立させる必要があります。資料を提示する際には、単に「〜になります」で済ませるのではなく、

  • 「〜でございます」(事実の丁重な提示)
  • 「〜をご用意いたしました」(謙譲語を用いた心遣いの提示)

といった、文法的に正しく、かつ相手への敬意が明確に伝わる表現を選ぶように心がけましょう。

細部にまで配慮した正確な言葉遣いは、ご自身の知性や専門性を高め、ビジネスにおける信頼感をより一層強固なものにしてくれるはずです。この機会に、日々の言葉遣いを見直し、洗練されたプロフェッショナルなコミュニケーショ

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