【例文付き】「ご検討ください」と「存じます」の使い分け方と注意点まとめ

間違いやすい敬語シリーズ

敬語が導く円滑なコミュニケーション

ビジネスメールや文書作成において、相手に何らかのアクション(行動)を依頼したり、自分の考えや意向を控えめに伝えたりする場面は頻繁にあります。このとき、相手への配慮や敬意が適切に伝わるかどうかで、その後の業務の円滑さが大きく左右されます。特に、依頼の場面で使われる「ご検討ください」と、自分の考えを伝える際に使われる「存じます」は、使用頻度が高く、使い分けに細やかな注意が必要な敬語表現です。

「ご検討ください」は、相手に判断を委ねる依頼の言葉であり、「存じます」は、自分の思考や感情をへりくだって伝える謙譲の言葉です。これらは、敬語の種類も敬意の方向性も全く異なります。この二つを混同したり、不適切な場面で使用したりすると、命令的な印象を与えたり、かえって失礼にあたったりする可能性があります。

本記事では、「ご検討ください」と「存じます」の基本的な構造から、それぞれの正しい使い方、具体的な例文を通じた使い分け方、さらに類語や二重敬語といった使用上の注意点に至るまで、この二つの重要な敬語表現を深く掘り下げて解説いたします。

「ご検討ください」の基本的な構造と依頼のニュアンス

まず、相手に「考える」という動作を依頼する「ご検討ください」が、日本語の敬語の中でどのように位置づけられているのかを見ていきましょう。

「ご検討ください」を構成する要素

「ご検討ください」は、以下の三つの要素から成り立っています。

  • 1. 接頭語の「ご」と動詞「検討」「検討」は「よく調べて考えること」という意味を持ち、それに丁寧語の「ご」を付けることで、相手の動作を丁寧に扱っています。
  • 2. 動詞「くださる」(尊敬語)「くれる」の尊敬語である「くださる」を命令・依頼の形にしたものです。相手に動作を促す際に、相手の行為を高めて敬意を示します。
  • 3. 丁寧語の「ます」や「〜ませ」「くださいませ」や「いただけますでしょうか」といった形で使うことで、より丁寧な依頼の形になります。
ニュアンス:相手への判断の委任

「ご検討ください」は、相手の行為を高めつつ、こちらから「検討してほしい」という依頼をストレートに伝える表現です。ただし、この「ください」が命令形であるため、目上の方に対してはそのまま使うとやや強い印象を与えがちであることに注意が必要です。

「存じます」の基本的な構造と謙譲のニュアンス

次に、自分の考えを控えめに伝える「存じます」が、どのような構造を持ち、どのような敬意を伝えているのかを見ていきましょう。

「存じます」を構成する要素

「存じます」は、以下の二つの要素から成り立っています。

  • 1. 動詞「知る」「思う」の謙譲語「存じる」「存じる」は、「知る」や「思う」「考える」といった動詞の謙譲語です。自分の思考や認識をへりくだって表現することで、相手に対する敬意を示します。
  • 2. 丁寧語の「ます」謙譲語である「存じる」に丁寧語の「ます」を付けることで、表現全体を丁寧な口調にしています。
ニュアンス:自分の考えの謙譲

「存じます」は、「私がへりくだってそう知っている・そう思っている」という意味合いを持ちます。自分の考えを押し付けるのではなく、控えめに伝えることで、相手の意見や立場を尊重する姿勢を示すことができます。

「ご検討ください」の正しい使い方と文脈

「ご検討ください」は、相手に資料や提案を提出し、それに対する返答や判断を求める際に使われますが、その丁寧さの度合いに注意が必要です。

依頼の表現を和らげる応用形

「ご検討ください」は「検討しろ」という命令形に基づいているため、目上の方や重要な取引先に対しては、そのままではなく、依頼のニュアンスを和らげた形にするのが適切です。

使用例:目上の方への依頼
  • 標準形:「添付資料をご検討ください。」(やや命令的)
  • 推奨形:「添付資料をご検討いただければ幸いです。」(「幸いです」で依頼を和らげる)
  • より丁寧:「添付資料をご検討いただけますでしょうか。」(「〜いただけますか」で許可を求める)

具体的な検討を促す場合

単に「検討」を促すだけでなく、期限や具体的な内容を付記することで、相手にとって分かりやすい依頼になります。

使用例:具体的な検討の依頼
  • 「つきましては、来週中を目途に、ご検討いただけると助かります。」
  • 「特に、価格の部分について、ご検討いただけますでしょうか。」

「存じます」の正しい使い方と文脈

「存じます」は、自分の考えや見解、あるいは感情を控えめに伝える際に使われます。

自分の意見や考えを伝える場面

会議やメールで、自分の所見を述べる際に「〜と思います」の代わりに使います。

使用例:意見表明
  • 「現状、この対応が最善であると存じます。」(最善だと思う)
  • 「ご提案いただいた内容で問題ないと存じます。」(問題ないと思う)
  • 「この度は、ご尽力いただきましたこと、深く感謝存じます。」(感謝している)

状況や事実を認識していることを伝える場面

「知っている」という事実を謙譲語で伝えることで、相手に配慮を示すことができます。

使用例:情報認識の伝達
  • 「その件につきましては、すでに承知存じております。」(知っている)
  • 「ご多忙の折とは存じますが、何卒よろしくお願い申し上げます。」(忙しいとは知っているが、配慮を示すクッション表現として)

類語との使い分けと「存じます」の注意点

「ご検討ください」と「存じます」は、類似の敬語表現と混同しやすい側面もあります。特に「存じます」については、「思う」の類語や二重敬語の誤用に注意が必要です。

「存じます」と「思われます」の使い分け

「思われます」は「思う」に尊敬の助動詞「れる」を付けた「尊敬語」です。自分の動作である「思う」に尊敬語を使うのは不適切であり、これは一般的に誤用とされます。

  • 誤用:「わたくしは、A案が優れていると思われます。」(自分の意見に尊敬語を使用)
  • 正しい謙譲語:「わたくしは、A案が優れていると存じます。」
例外的な使用

「〜思われます」は、主語が「状況」や「客観的な事実」である場合に限り、「〜と考えられる」という意味で許容される場合があります。(例:「景気は回復に向かっていると思われます。」)しかし、自分の意見を述べる際は「存じます」を使うのが最も無難で丁寧です。

「ご検討ください」の類語:より丁寧な依頼

「ご検討ください」をさらに丁寧にするには、以下のような表現を使います。

  • ご一考ください」(「一考」は少し考えること)
  • ご査収ください」(「査収」は文書をよく確認して受け取ること。資料提出時によく使う)
二重敬語の回避

「ご検討なさいましたか」のように、「ご検討」と「なさる」を重ねる二重敬語は避け、「ご検討になりましたか」あるいは「ご検討くださいましたか」を使うのが適切です。

まとめ:依頼と謙譲を使い分ける極意

「ご検討ください」と「存じます」は、ビジネスコミュニケーションの根幹をなす、依頼と自己表現の敬語です。この二つの使い分けの極意は、一言で言えば「**敬意の方向性**」にあります。

  • 相手の動作を促す(依頼):「ご検討ください」系(尊敬語+依頼形)を、丁寧な形に和らげて使う。
  • 自分の思考・感情を伝える:「存じます」(謙譲語)を使い、自分の立場をへりくだらせる。

自分の行動には謙譲語を、相手の行動には尊敬語を丁寧に使い分けることで、言葉はより美しく整い、あなたの品格と信頼感を自然に高めることができます。

この記事を読んでいただきありがとうございました。

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