ビジネスシーンにおいて、相手から物や金銭、あるいは依頼を受け取る際、「もらう」の謙譲語である「いただく」と「頂戴する」は必須の表現です。
しかし、この二つの言葉は、似ているようで敬意の度合いや使われる場面が異なります。特に金銭や正式な文書を受け取る場面でこの使い分けを誤ると、意図せず相手に失礼な印象や、未熟な印象を与えてしまう可能性があります。
この記事では、「いただく」と「頂戴する」の明確な違いを「敬意の度合い」と「受け取る対象」の2軸で徹底解説します。よくある誤用例(NGパターン)から、依頼をスマートにする応用テクニックまで網羅し、あなたのビジネスコミュニケーションを一段階引き上げます。
「いただく」の正しい使い方:動作全般に使える汎用的な謙譲語
「いただく」は、「もらう」の謙譲語です。非常に汎用性が高く、物や行為を受け取る際に幅広く使用される表現です。
「いただく」が適しているシーンと例文(本動詞)
「いただく」が「もらう」という本動詞として使われる場合、金銭や物を受け取る際にも使えますが、「頂戴する」に比べてやや柔らかい印象を与えます。
適しているシーン:社内や比較的親しい取引先からの受領、一般的な物を受け取る際。
(例文1:物)「お客様からお土産をいただきました。」
(例文2:意見)「貴重なご意見をいただきました。」
(例文3:サービス)「お食事をいただきました。」
また、相手の行為によって利益を受ける場合にも広く使われます。「ご指導をいただく」「ご尽力をいただく」など、相手の行為を謙譲語で表現することで、感謝の意を示します。
補助動詞としての「〜していただく」
「いただく」が最も多用されるのは、動詞の連用形に付く補助動詞としての使い方です。
(例文4:依頼)「資料をご確認していただくことは可能でしょうか。」
(例文5:感謝)「迅速にご対応いただき、ありがとうございます。」
「〜してもらう」という行為を謙譲語で表現し、相手の行為に対する感謝や依頼の丁寧さを高める、ビジネスメール必須の表現です。
「頂戴する」の正しい使い方:金銭・正式な文書向けの丁重な謙譲語
「頂戴(ちょうだい)」は、「いただく」と同様に「もらう」の謙譲語ですが、「いただく」よりも遥かに丁重で硬い表現です。「頭上にいただく」という意味が語源であり、非常に深い敬意を込めた言葉です。
「頂戴する」が適しているシーンと例文
「頂戴する」は、金銭、注文、正式な依頼、名誉など、重みのあるものを受け取る際に使われます。接客や受付といったフォーマルな場面でも好まれます。
適している対象:金銭、注文、契約書、名刺、祝辞など。
(例文1:金銭)「お代を頂戴いたします。」(接客時)
(例文2:正式な物)「ご発注書を頂戴いたしました。」
(例文3:名刺)「お名刺を頂戴します。」
(例文4F:意見/返答)「ご意見は本日中に頂戴できるでしょうか。」
「いただく」と「頂戴する」は、敬意の度合いで使い分けることができ、丁重な依頼や受領の報告には「頂戴する」を使うのが適切です。
【実践】「いただく」と「頂戴する」の使い分けチェック
この二つの言葉の使い分けは、「言葉の硬さ」と「受け取る対象」の二つの基準で判断できます。
使い分けの明確な基準
表現 | 敬意の度合い | 適している対象 | 適しているシーン |
---|---|---|---|
いただく | 一般的(やや柔らかい) | サービス、情報、一般的な物、補助動詞 | 日常的なメール、会話、相手の行為への感謝 |
頂戴する | 丁重(硬い) | 金銭、注文、名刺、正式文書 | 接客、受付、契約に関するメール、非常に目上の方への報告 |
NGパターン:「頂戴する」の誤用
「頂戴する」は「もらう」の謙譲語であるため、「もらう」に該当しないものに使うのは誤用です。特に多い間違いは、以下の二つです。
NG例1:「恐縮ですが、お名前を頂戴できますか。」(名前は「もらう」ものではない)
OK例1:「恐縮ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか。」(名前は「聞く」もの)
NG例2:「ご覧頂戴しました。」(「ご覧になる」+「頂戴する」は文法的に不自然)
OK例2:「ご覧いただきました。」(補助動詞の「いただく」を使う)
また、「頂戴する」と「いただく」を重ねた二重敬語も誤用です。「ありがたく頂戴させていただきます」ではなく、「ありがたく頂戴いたします」とシンプルに使いましょう。
依頼を成功させる「〜していただく」の応用マナー
補助動詞としての「いただく」は、依頼や協力を求める際に欠かせません。より丁寧な依頼をするための応用マナーを紹介します。
「〜していただく」を最上級にする
「〜していただく」の前に、相手への配慮を示すクッション言葉を添えることで、依頼の丁寧さが格段に向上します。
「お手数をおかけいたしますが、ご返信いただけますでしょうか。」
「ご多忙の折、恐縮ではございますが、ご協力いただけると幸いです。」
「〜していただけますか」よりも、「〜いただけると幸いです」の方が、相手の判断に委ねるニュアンスが強まり、丁寧です。
「頂戴する」を依頼に使う場合
依頼の丁寧さを最大限に高めたい場合は、「頂戴する」を依頼形に使うこともあります。
(例文:正式な返答)「つきましては、〇〇様のご返答を頂戴できますでしょうか。」
ただし、「ご返答」のように、返ってくるものがある程度重みのある対象である場合に限って使われます。一般的な確認依頼などには「ご確認いただく」で十分です。
まとめ
本記事では、「いただく」と「頂戴する」を軸に、「もらう」という行為の謙譲語表現を解説しました。
「もらう」の敬語の使い分けは、以下のルールで判断しましょう。
- 汎用性が高く、柔らかい表現:「いただく」(補助動詞としても広く使用)
- 丁重で硬く、金銭・名刺などに特化:「頂戴する」
このルールを徹底し、相手への敬意を適切に伝えることで、あなたのビジネスパーソンとしての信頼性は格段に向上するでしょう。ぜひ、この記事を参考に敬語を使いこなしてください。
この記事を読んでいただきありがとうございました。