「おっしゃる」「申す」の正しい使い方
ビジネスの会話において、他者や自分の発言を伝える際、「言う」という言葉をどのように敬語に変換していますか?
「部長がおっしゃった」「私が申しました」といったように、主語が「誰であるか」によって、適切な敬語表現は全く異なります。「おっしゃる」と「申す」は、「言う」を丁寧にした言葉ですが、この二つを混同して使うと、相手への敬意が逆転してしまい、非常に失礼にあたります。
本記事では、「おっしゃる」と「申す」が持つそれぞれの意味と、敬語の最も基本的なルールである「主語」に基づいた明確な使い分けを徹底解説します。さらに、誤用しやすいNG例や、「申し上げる」などの応用表現についてもご紹介します。この記事を読めば、あなたは自信を持って、誰の発言かを正確に伝えることができるようになるでしょう。
1. 「おっしゃる」の正しい使い方と「尊敬語」の役割
「おっしゃる」は、「言う」の尊敬語です。尊敬語は、相手の動作や状態を高めて表現することで、相手に敬意を示す敬語です。
1-1. 「おっしゃる」が適している主語と例文
「おっしゃる」は、話の主語が**「相手」や「第三者の目上の方」**である場合にのみ使用します。自分の発言には絶対に使用してはいけません。
- 適している主語:上司、目上の方、取引先、顧客など。
- (例文1:上司の発言)「部長がおっしゃった通り、この件は再検討が必要です。」
- (例文2:顧客の発言)「お客様がおっしゃるには、納期の変更は難しいとのことでした。」
- (例文3:確認)「何かおっしゃりたいことはございますか。」
「おっしゃる」自体が「言う」を高める尊敬語なので、「おっしゃられました」とさらに「られる」を付け加えるのは過剰な二重敬語(誤用とされることが多い)なので注意が必要です。シンプルに「おっしゃいました」を使いましょう。
1-2. 社内での上司の発言を社外に伝える場合
社外の取引先などに対して、自社の上司(例:社長、部長)の発言を伝える場合、その上司は社内では目上ですが、社外の人に対しては「身内」として扱います。この場合、謙譲語を使うのが原則です。
- NG例:「社長がおっしゃいました。」(取引先に対して)
- OK例:「社長が申しておりました。」(取引先に対して)
ただし、**相手の質問に対して上司の発言をそのまま引用する場合**や、**上司の指示を相手に伝える場合**など、状況によっては「おっしゃる」を使うケースもありますが、原則として身内の動作には謙譲語(申す)を使うと覚えておきましょう。
2. 「申す」「申し上げる」の正しい使い方と「謙譲語」の役割
「申す(もうす)」は、「言う」の謙譲語です。「申し上げる(もうしあげる)」は、さらに丁重な謙譲語です。謙譲語は、自分の動作をへりくだって表現することで、間接的に相手に敬意を示す敬語です。
2-1. 「申す」「申し上げる」が適している主語と例文
「申す」「申し上げる」は、話の主語が**「自分」**や**「自社の人間」**である場合にのみ使用します。相手の発言には絶対に使用してはいけません。
- 適している主語:自分、自社の人間、自分の意見や名前。
- (例文1:自分の発言)「その点につきましては、私が申しました通りで間違いございません。」
- (例文2:名前を伝える)「わたくしは〇〇と申します。」
2-2. 「申し上げる」の使い分け
「申す」よりもさらに相手への敬意を高めたい場合は、「申し上げる」を使用します。「申し上げる」は、「申す」に謙譲の補助動詞「あげる」を加えたもので、より丁重な謙譲語として位置づけられます。
- (例文3:丁重な意見)「私どもの見解を申し上げます。」
- (例文4:依頼)「重ねてお願い申し上げます。」
「申し上げる」は、メールやプレゼンテーションなど、かしこまった文書や公式な場で使われます。「申す」は、電話や日常的な会話で簡潔に使いたい場合に適しています。
3. 【実践】「おっしゃる」と「申す」の使い分けチェック
「誰が言ったことか」という主語を意識することで、必ず正しい敬語を選べるようになります。以下のQ&Aで確認しましょう。
3-1. 敬語の「主語」判定Q&A
伝えたい内容 | 主語 | 適切な敬語 | 理由 |
---|---|---|---|
部長の発言を社内の同僚に伝える | 部長(目上) | おっしゃいました | 社内の目上に尊敬語を使用 |
部長の発言を取引先に伝える | 部長(身内) | 申しました | 社外相手には身内の動作を謙譲語で表現 |
自分の意見を上司に伝える | 自分 | 申しました / 申し上げました | 自分の動作に謙譲語を使用 |
お客様の指示を社内の同僚に伝える | お客様(目上) | おっしゃっていました | 相手の動作に尊敬語を使用 |
取引先の依頼で自社の田中が発言する | 田中(自社の人間) | 申します / 申し上げます | 自社の動作に謙譲語を使用 |
3-2. 敬語が逆転するNGパターン
主語と敬語の種類が逆転してしまうと、以下のような大誤用になります。
- NG例1:「部長がそのようにお申しました。」(相手の動作に謙譲語を使用)
- OK例1:「部長がそのようにおっしゃいました。」
- NG例2:「私の意見をおっしゃりたいと思います。」(自分の動作に尊敬語を使用)
- OK例2:「私の意見を申し上げたいと思います。」
特に、**身内の動作に尊敬語を使ってしまう**パターンは、社内では許容されても社外では失礼にあたるため、厳しくチェックしましょう。
4. 質問マナー向上!より丁寧な言い換え表現
「言う」の敬語には、「おっしゃる」「申す」のほかにも、状況に応じて使える丁寧な表現があります。
4-1. 相手への依頼・質問を和らげる表現
「おっしゃってください」では命令形に近いため、依頼の丁寧さを高めるクッション表現を添えましょう。
- 「〜について、ご意見をお聞かせいただけますでしょうか。」
- 「差し支えなければ、詳細をお話しいただけると幸いです。」
4-2. 伝言を依頼する際の注意点
相手に伝言を頼む際は、「おっしゃる」を間接的に使うことになります。謙譲語を交えて依頼の丁寧さを高めましょう。
- NG例:「〇〇様におっしゃってください。」
- OK例:「〇〇様に**お伝えいただけますでしょうか**。」
または、伝言を受ける人(相手)の動作を謙譲語で表現し、「**お申し伝えいただけますか**」とすると、より丁寧になります。
まとめ
本記事では、「おっしゃる」と「申す」を軸に、「言う」という行為の敬語表現を徹底解説しました。
「言う」の敬語は、誰の発言であるか(主語)によって、以下のように厳密に使い分けられます。
- 主語が相手(目上)の場合:尊敬語の「おっしゃる」
- 主語が自分(または社外相手への自社)の場合:謙譲語の「申す」「申し上げる」
このルールを徹底すれば、敬語の誤用を防ぐことができます。日頃から「誰の発言か」を意識し、これらの敬語を使いこなして、信頼されるビジネスコミュニケーションを実現してください。
この記事を読んでいただきありがとうございました。