「弊社」と「当社」の正しい使い方
ビジネスの現場で、自社のことを指す際に「弊社」と「当社」をどのように使い分けていますか?
どちらも自社を指す言葉ですが、相手との関係性や、会話か書き言葉(メールや文書)かによって、適切な表現が厳密に異なります。誤った使い方をすると、謙譲すべき相手に敬意を欠いたり、逆に社内で不自然な印象を与えたりする可能性があります。
本記事では、「弊社」と「当社」が持つ本来の意味と、ビジネスシーンに応じた明確な使い分けルールを徹底解説します。さらに、「わが社」「小社」といったその他の表現についてもご紹介します。この記事を読めば、あなたは自信を持って、場面にふさわしい自社呼称を使いこなし、プロフェッショナルな印象を与えることができるでしょう。
1. 「弊社」の正しい使い方と「謙譲語」の役割
「弊社(へいしゃ)」は、自社をへりくだって表現する謙譲語です。「弊」という漢字には「弊害(へいがい)」などにも使われるように、「弊(つたない、ぼろぼろの)」という意味合いがあり、自社をへりくだることで相手の会社を立てる役割があります。
1-1. 「弊社」が適しているシーンと例文
「弊社」は、自社をへりくだる謙譲語であるため、社外の顧客や取引先など、敬意を払うべき相手に対して使用するのが絶対的なルールです。
- 適しているシーン:社外とのコミュニケーション全般(メール、文書、会話)。
- (例文1:メール)「弊社にて資料を確認し、改めてご連絡いたします。」
- (例文2:会話)「弊社の製品にご関心をお寄せいただき、誠にありがとうございます。」
- (例文3:報告)「この度、弊社は新サービスを開始いたしました。」
「弊社」は、書き言葉(メール、文書)でも話し言葉でも使用できますが、**社外**に対して使うという点を徹底しましょう。
1-2. 「弊社」を多用する際の注意点
特にメールでは、文章全体に「弊社」が何度も登場すると、くどい印象を与えることがあります。その場合は、「弊社」の使用を限定し、文脈によっては主語を省略するなどの工夫をしましょう。
2. 「当社」の正しい使い方と「対等・丁寧語」の役割
「当社(とうしゃ)」は、自社を指す丁寧な表現ですが、謙譲語ではありません。対等な立場で自社を指す際に使われます。
2-1. 「当社」が適しているシーンと例文
「当社」は、謙譲語ではないため、外部に対して使用すると、相手を立てる意識に欠けていると受け取られる可能性があります。しかし、以下のような場合には適切に使用されます。
- 適しているシーン:
- 社内のコミュニケーション(会議、資料など)。
- 社外に対して、対等な立場で客観的な説明を行う場合(IR資料、広報文書、ニュースリリースなど)。
- (例文1:社内会議)「当社としては、この戦略で進めるべきだと考えます。」
- (例文2:ニュースリリース)「当社は、2025年4月より新体制に移行いたします。」
- (例文3:自社資料)「当社の事業内容につきましては、こちらをご覧ください。」
話し言葉では、社内での会議や同僚との会話で使われます。社外との会話では「弊社」を使うのが一般的です。
2-2. 「当社」を社外で使用する場合の許容範囲
社外とのやり取りであっても、契約書や会社概要など、自社の客観的な情報を記述する正式な文書では「当社」が使われます。これは、謙譲の意図よりも、客観性と正確性が優先されるためです。ただし、メールや会話といったやり取りの場面では「弊社」を使いましょう。
3. 【実践】「弊社」と「当社」の使い分けチェック
「社外向けか」「社内向けか」そして「謙譲の必要性があるか」という基準で使い分けるのが基本です。
3-1. 使い分けの絶対ルール
シーン | 相手 | 適切な呼称 | 役割・ニュアンス |
---|---|---|---|
社外メール・会話 | 顧客・取引先 | 弊社 | 謙譲語(相手を立てる) |
社内会議・資料 | 上司・同僚・部下 | 当社 / わが社 | 丁寧語/対等(自社内の共通認識) |
広報・文書(客観的) | 一般読者・株主 | 当社 | 客観的・公式な自社呼称 |
3-2. 誤用につながるNGパターン
- NG例1:「(社内会議で)弊社の来期の予算についてご説明します。」
- OK例1:「(社内会議で)当社の来期の予算についてご説明します。」(社内では謙譲する必要なし)
- NG例2:「(取引先へメールで)当社の担当者よりご連絡いたします。」
- OK例2:「(取引先へメールで)弊社の担当者よりご連絡いたします。」(社外には謙譲語を使用)
4. その他の自社呼称:「わが社」「小社」などの応用表現
「弊社」と「当社」以外にも、自社を指す言葉は存在します。それぞれのニュアンスを理解し、適切に使い分けましょう。
4-1. 「わが社」:親近感と一体感を表現
「わが社(我が社)」は、当社と同様に謙譲語ではないため、社外には使いません。主に社内会議やスピーチなどで、社員の団結や一体感を高めたいとき、あるいは親しみを込めて自社を表現したいときに使われます。
- (例文)「わが社が一丸となって、この課題に取り組んでいきましょう。」
4-2. 「小社」:書き言葉で使う謙譲語
「小社(しょうしゃ)」も「弊社」と同様に謙譲語であり、社外に対して使われます。ただし、「弊社」に比べてやや硬く古風な表現です。主に、手紙や公的な文書、出版社など一部の業界で書き言葉として使われます。話し言葉では「弊社」を使うのが一般的です。
- (例文)「小社の都合により、恐縮ながら納期を変更させていただきます。」
現代のビジネスメールや会話では「弊社」を使用すれば十分です。
まとめ
本記事では、「弊社」と「当社」を軸に、自社を指す謙譲語と丁寧語の使い分けを解説しました。
自社呼称は、相手への敬意を示すための重要なツールです。基本ルールはシンプルに、以下を徹底しましょう。
- 社外(謙譲):「弊社」
- 社内・客観的(丁寧):「当社」
特にメール作成の際には、必ず「弊社」を使うことを意識してください。この使い分けを習得することで、あなたのビジネス文書は洗練され、相手からの信頼をさらに高めることができるでしょう。
この記事を読んでいただきありがとうございました。