群馬県安中市には、中山道の宿場町として栄え、江戸時代には安中藩の藩庁が置かれた城がありました。それが安中城です。また、その前身とされる板鼻城も、古くからこの地の要衝として機能しました。現在は城の建物は残っていませんが、城跡や周辺に残る史跡からは、かつての賑わいや歴史の深さを感じられます。
交通の便も良く、気軽に歴史散策を楽しめる安中城と板鼻城跡は、歴史愛好家だけでなく、宿場町の風情に触れたい方にもおすすめです。この記事が、安中城と板鼻城の歴史、見どころ、周辺の魅力について深く掘り下げ、あなたの旅の素晴らしい手引きとなることを願っています。
安中城の歴史:中山道を護る要衝の城
安中城の歴史は、戦国時代にまで遡ります。中山道沿いの要衝である板鼻に、永禄年間(1558年~1570年)に安中氏によって板鼻城が築かれました。板鼻城は、武田信玄の西上野侵攻に際して、重要な拠点として利用されました。
その後、江戸時代に入ると、徳川家康の関東入国に伴い、井伊直政が箕輪城に入封します。しかし、箕輪城が不便であったため、慶長3年(1598年)に、現在の安中市に新城の築城が開始されました。これが安中城の始まりです。この地は、中山道の要衝であり、江戸と信濃・越後を結ぶ交通路を抑える上で極めて重要な位置にありました。
江戸時代には、水野氏、堀田氏、板倉氏といった譜代大名が城主を務め、安中藩の藩庁が置かれました。特に、安中藩主を務めた板倉勝明は、幕末の蘭学を推進した人物として知られ、安中藩は文化的な面でも発展しました。城下町は中山道の宿場町として栄え、多くの旅人や物資が行き交い、大変な賑わいを見せました。
明治維新により安中城は廃城となり、多くの建物は取り壊されましたが、その歴史的な重要性は今も変わらず、安中市の発展を見守り続けています。城の歴史を紐解くと、中山道の要衝としての役割や、城下町の人々の暮らしが伝わります。
板鼻城の歴史:安中城の前身と中世の足跡
板鼻城は、安中城の前にこの地の中心として機能した城です。築城年代は定かではありませんが、室町時代には既に存在したと考えられています。戦国時代には、安中氏の居城として、あるいは武田氏の西上野侵攻における拠点として重要な役割を果たしました。
板鼻宿の東端、碓氷川と九十九川に挟まれた河岸段丘上に築かれ、天然の要害を利用した典型的な中世の平山城でした。中山道の宿場町としても栄えた板鼻の地を守るために、城は厳重な防御を誇りました。しかし、江戸時代に入り安中城が築かれると、その役割を終え、徐々に廃城となっていきました。現在、城の遺構はほとんど残っていませんが、地名や地形にその名残を見つけられます。板鼻城の歴史をたどると、戦国時代の激動と、この地が中山道の要衝として古くから重要視されてきたことが伝わります。
安中城と板鼻城の見どころ紹介:歴史を伝える遺構と城下町の風情
現在、安中城には当時の建物は残っていませんが、高崎線を挟んで広がる城跡には、当時の面影を偲ばせる遺構や、城下町の面影を残す場所が点在しています。板鼻城は遺構が少ないですが、その歴史を感じられる場所です。
安中城の土塁と堀跡
安中城跡は、現在は安中市役所や安中文化センター、安中総合学園高校などの敷地となっています。敷地内には、かつての土塁や堀跡の一部が良好な状態で残されています。特に、高崎線沿いに残る土塁は、当時の城の規模を伝える貴重な遺構です。これらを巡ると、城の堅固な防御を想像できます。
安中宿の街並み
安中城下町は、中山道の宿場町「安中宿」として栄えました。現在も、旧中山道沿いには、当時の面影を残す建物や老舗が点在しています。歴史ある街並みを散策すると、江戸時代の旅人になったような気分になります。
安中遠足の碑
安中藩士たちが、心身鍛錬のために行った約58kmの遠足(徒歩競争)を記念する碑です。日本のマラソンの発祥とも言われるこの出来事は、安中藩の歴史を象徴するものです。城下町を巡ると、この碑も見つけられます。
旧安中藩武家長屋
安中城下町には、かつての武家屋敷の長屋が移築・保存されています。当時の武士の暮らしぶりを垣間見られます。
板鼻宿本陣跡
板鼻城跡の近く、板鼻宿の中心部には、かつての本陣跡を示す石碑が建てられています。ここは、大名や公家が宿泊した重要な場所であり、当時の宿場町の賑わいを偲べます。
板鼻堰
板鼻宿のすぐそばを流れる碓氷川には、江戸時代に造られた板鼻堰があります。これは、周辺の水田を潤すための重要な用水路であり、当時の土木技術の高さを伝えます。
映える撮影スポット:歴史と自然が織りなす風景
安中城跡と板鼻城跡周辺は、その歴史的な深さだけでなく、美しい景観も魅力です。特に写真撮影を楽しむ方には、いくつかの「映える」場所があります。
安中城の土塁と桜並木
春には、安中城の土塁沿いに桜が咲き誇り、美しい桜並木が形成されます。歴史ある土塁と桜の組み合わせは、情緒豊かな写真を撮影できます。
安中宿のレトロな街並み
旧中山道沿いには、かつての宿場町の面影を残す建物が多く残ります。レトロな雰囲気の街並みは、どこを切り取っても絵になります。
板鼻堰と碓氷川の清流
板鼻堰から流れる碓氷川の清流は、自然豊かな風景を作り出します。特に、水面に映る周囲の木々や空は、穏やかで美しい写真となります。
おすすめの時間帯と季節
- 春(4月上旬~中旬):桜の開花時期は、城跡が最も華やかになる時期です。
- 早朝または夕暮れ時:人出が少なく、光が柔らかいため、落ち着いて撮影できます。特に宿場町の街並みは、朝焼けや夕焼けに染まると、一層趣深い写真となります。
- 秋:紅葉の季節には、周囲の木々が色づき、美しいコントラストが生まれます。
どの季節に訪れても、安中城跡と板鼻城跡はあなたを魅了する美しい景色を提供します。
現地体験:安中の歴史と文化に触れる旅の楽しみ
安中城と板鼻城跡周辺では、歴史や文化をより深く体験できる様々な施設や催しがあります。
旧碓氷峠鉄道文化むら
かつて碓氷峠を越えた鉄道の歴史を学べる施設です。貴重な機関車や車両が展示されており、鉄道ファンにはたまらない場所です。ミニSLの乗車体験もできます。
安中市ふるさと学習館
安中市の歴史や民俗に関する資料が展示されています。安中城や安中藩の歴史についても詳しく学べます。
峠の湯
旧碓氷峠鉄道文化むらに隣接する温泉施設です。鉄道遺産を巡った後に、温泉でゆっくりと疲れを癒せます。
群馬県立歴史博物館
高崎市にありますが、群馬県の歴史と文化に関する幅広い資料が展示されています。安中藩や中山道に関する展示も行われており、より深く地域の歴史を学べます。
交通手段:安中城・板鼻城へのアクセスと周辺の移動
安中城跡へのアクセスは、公共交通機関でも車でも可能です。
電車とバスまたは徒歩を利用する場合
最寄り駅はJR信越本線の安中駅です。安中駅から安中城跡(安中市役所周辺)までは、徒歩で約15分です。または、バスを利用することもできます。板鼻城跡へは、安中駅からバスで約10分、「板鼻」バス停で下車します。
車を利用する場合
関越自動車道高崎インターチェンジから国道18号線などを経由し、約30分で安中市街地へ到着します。安中市役所周辺には駐車場があります。板鼻城跡には専用駐車場はありませんが、周辺の公共施設駐車場を利用できます。
周辺の観光名所:歴史と自然が息づく安中の魅力
安中城跡と板鼻城跡の周辺には、他にも魅力的な観光スポットが点在しています。城跡を訪れた後は、ぜひこれらの場所にも足を延ばしてみてください。
碓氷峠めがね橋(旧国鉄碓氷線第三橋梁)
明治時代に建設されたレンガ造りの美しい鉄道橋です。国の重要文化財に指定されており、アプトの道と呼ばれる遊歩道として整備されています。橋の上を歩くと、そのスケールの大きさと歴史を感じられます。
碓氷関所跡
江戸時代、中山道の最大の難所とされた碓氷峠にあった関所跡です。当時の番所などが復元されており、関所の厳しさを感じられます。
アプトの道
旧信越本線の廃線跡を利用した遊歩道です。めがね橋をはじめ、多くの鉄道遺産を巡りながら、自然の中を散策できます。
秋間梅林
約3万5千本の梅が植えられた関東有数の梅林です。春には見事な梅の花が咲き誇り、甘い香りに包まれます。
磯部温泉
安中市内にある温泉地で、群馬県最古の温泉の一つと言われています。温泉記号発祥の地としても知られ、ゆっくりと温泉を楽しめます。
ご当地の味とおすすめ店:安中の美食を堪能する
安中市は、中山道の宿場町として栄え、様々な食文化が楽しめる地域です。安中城や板鼻城散策の後に、地元の美味しい味覚をぜひ堪能してください。
安中名物「あんこ餅」
安中宿の旅籠で提供されていたと伝えられるあんこ餅は、江戸時代から続く伝統の味です。素朴な味わいが魅力です。
焼きまんじゅう
群馬県のソウルフードとも言えるのが「焼きまんじゅう」です。素朴なまんじゅうを竹串に刺し、甘辛い味噌だれを塗って焼いたもので、ふわふわとした食感と香ばしさが特徴です。
横川の釜めし
安中市に隣接する横川駅の駅弁として全国的に有名なのが「峠の釜めし」です。益子焼の土釜に入った温かい釜めしは、旅の疲れを癒してくれます。
おすすめの食事処
- 安中宿周辺の老舗和菓子店:あんこ餅や焼きまんじゅうなど、地元の伝統的な味を提供しています。
- 国道18号線沿いの飲食店:地元食材を使った定食屋や、群馬ならではの麺類を提供する店があります。
- 道の駅:安中市周辺の道の駅では、地元の新鮮な野菜や特産品が豊富に揃い、食事処もあります。
周辺名所への行き方:効率的な観光ルートの提案
- 安中城跡(安中市役所)から旧碓氷峠鉄道文化むら:車で約15分。
- 旧碓氷峠鉄道文化むらから碓氷峠めがね橋:徒歩でアプトの道を約30分(遊歩道)。車の場合は、一旦国道18号線を迂回します。
- 旧碓氷峠鉄道文化むらから碓氷関所跡:徒歩でアプトの道を約15分。
- 安中城跡から磯部温泉:車で約10分。
これらの場所は、公共交通機関や車を組み合わせることで効率よく巡れます。特に碓氷峠周辺は、鉄道遺産を巡るアプトの道が整備されているため、徒歩での散策も非常に魅力的です。
まとめ:安中城と板鼻城で感じる中山道の歴史と豊かな自然
安中城と板鼻城は、中山道の要衝として、古くから群馬県の歴史において重要な役割を果たしてきました。現在はその建物こそ残っていませんが、城跡や宿場町の面影、そして豊かな自然が、当時の人々の暮らしや歴史の深さを今に伝えます。
周辺には、碓氷峠めがね橋や旧碓氷峠鉄道文化むらといった鉄道遺産、秋間梅林の美しい自然、そして磯部温泉といった魅力的なスポットが点在し、歴史散策と合わせて様々な楽しみ方ができます。
あんこ餅や焼きまんじゅう、横川の釜めしなど、安中ならではの美味しいグルメも旅の大きな楽しみです。歴史の舞台を散策し、中山道の風情を感じ、地元の味覚を堪能する安中城と板鼻城の旅は、きっとあなたの心に深く刻まれる素晴らしい思い出となるはずです。
この記事を読んでいただきありがとうございました。