宮城県多賀城市に位置する多賀城(たがじょう)は、奈良時代から平安時代にかけて、東北地方の政治・文化・軍事の中心地として栄えた古代の城柵です。日本三大史跡の一つに数えられ、かつては陸奥国府(むつこくふ)と鎮守府(ちんじゅふ)が置かれ、「北の都」として機能していました。現在は「特別史跡多賀城跡」として整備され、広大な敷地内に政庁跡や築地塀(ついじべい)、門跡、そして多賀城碑などが良好に残ります。
初めて古代史に触れる方も、歴史愛好家の方も、誰もがその壮大な規模と、悠久の歴史の重みに引き込まれることでしょう。この記事では、多賀城の奥深い歴史から、見どころ、さらには周辺の観光情報まで、余すことなくご紹介します。多賀城を巡り、古代律令国家の息吹と、万葉の歌に詠まれた情景を感じる旅へ出かけましょう。
この城跡の持つ静かな魅力と、そこに秘められた物語を知れば、きっと心に残るひとときが生まれます。さあ、多賀城跡の魅力を一緒に探してみませんか。
多賀城の歴史:誰がいつ築き、どんな役割を果たしたか
多賀城は、神亀元年(724年)に、大和朝廷(奈良時代)が東北地方の蝦夷(えみし)を支配するための軍事拠点として築かれました。築城者としては、初代の鎮守府将軍である大野東人(おおのあずまひと)が有名です。城は、松島丘陵の南東部分にあたる塩釜丘陵上に位置し、平時は陸奥国を治める国府(役所)として機能しました。また、東北の広大な地域を統括する鎮守府も置かれ、名実ともに「北の都」として政治・経済・文化の中心を担いました。
多賀城は、度重なる蝦夷との戦いや、自然災害によって幾度か焼失・再建を繰り返しました。特に、宝亀11年(780年)に発生した伊治呰麻呂(いじのあざまろ)の乱では、多賀城が焼失するという甚大な被害を受けました。しかし、その都度再建され、その重要性がうかがえます。
延暦21年(802年)には、征夷大将軍の坂上田村麻呂がさらに北の胆沢城(いさわじょう、現在の岩手県奥州市)を築き、鎮守府はそちらに移されました。その後、多賀城は国府としての機能を継続しましたが、室町時代から南北朝時代にかけて次第にその役割を終えていきました。
多賀城は、都人(みやこびと)の憧れの地でもあり、万葉歌人である大伴家持(おおとものやかもち)も多賀城に赴任し、多くの歌を詠みました。また、城内には、創建や修造の歴史が記された多賀城碑(たがじょうひ、通称:壺の碑)が残されており、国の重要文化財に指定されています。松尾芭蕉も『おくのほそ道』でこの地を訪れ、「壺の碑」を詠んでいます。この歴史の舞台で、古代律令国家の営みと、文人たちの足跡に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
見どころ紹介:復元された南門と築地塀、政庁跡、多賀城碑
多賀城跡は、広大な敷地の中に、古代の城柵の遺構が良好に残されています。特に注目すべきは、復元された南門と、その両側に延びる築地塀(ついじべい)です。南門は、かつての多賀城の正門にあたり、その威容は訪れる人々を古代の世界へと誘います。築地塀は、版築(はんちく)という土を固めて造る手法で築かれた塀で、当時の建築技術を今に伝えています。南門と築地塀が復元されたことで、当時の多賀城の姿をより具体的にイメージできます。
城の中心部には、政庁跡(せいちょうあと)が広がっています。政庁は、陸奥国府として政治や儀式が執り行われた場所であり、広々とした空間に基壇や礎石の跡が残されています。政庁の周囲には、回廊や門の跡も確認されており、当時の役所の配置を想像できます。特に、春には政庁跡の桜が満開となり、隠れたお花見スポットとしても知られています。桜の季節には、歴史遺構と自然の美しさが見事な調和を見せます。
そして、多賀城跡を語る上で欠かせないのが、多賀城碑(たがじょうひ、通称:壺の碑)です。南門から少し離れた場所に位置するこの石碑は、天平宝字6年(762年)に多賀城が修造された際に建てられたもので、多賀城の歴史を伝える貴重な史料です。松尾芭蕉も感銘を受けたとされるこの碑は、まさに「奥の細道」ゆかりの地として、その歴史的価値を今に伝えています。多賀城跡全体に説明板が設置されており、見学しながら古代の歴史を深く学べます。
映える撮影スポット:復元された南門、政庁跡の桜、多賀城碑
多賀城跡は、歴史的な価値だけでなく、その広大な敷地と、そこに息づく自然が織りなす景観が、写真愛好家にとって魅力的な撮影スポットです。特に、復元された南門と築地塀は、その雄大な姿が写真に重厚感を与えます。広角レンズで門と塀の全景を収めるのがおすすめです。
春には、政庁跡周辺の桜が満開となり、ピンク色に彩られた政庁跡は息をのむような美しさです。特に、政庁中央部の正殿前にある2本の桜の古木は風情があり、多くの人々を魅了します。この時期は多くの観光客で賑わうため、早朝や夕暮れ時を狙うと、より落ち着いて撮影できます。夏には、青々とした芝生と木々の緑が城跡全体を包み込み、清々しい風景が広がります。
秋には、紅葉が城跡を彩り、赤や黄色、オレンジ色のグラデーションが壮大な歴史遺構と見事な調和を見せます。この時期の夕暮れ時には、西日に照らされた築地塀や政庁跡が黄金色に輝き、冬には、雪に覆われた白銀の城跡が幻想的な美しさを見せます。静寂の中で雪化粧をまとった築地塀や遺構は、墨絵のような趣があり、独特の雰囲気を醸し出します。どの季節に訪れても、多賀城跡はあなたを魅了します。
現地体験:博物館、イベント、万葉の世界に触れる
多賀城跡では、歴史を深く学ぶための様々な体験ができます。隣接する東北歴史博物館は、東北地方の歴史と文化を総合的に展示する国立の博物館です。多賀城に関する展示も充実しており、発掘調査で出土した遺物や、城のジオラマ、映像資料を通じて、多賀城の歴史や、古代東北の人々の暮らしについて深く学ぶことができます。こども歴史館もあり、子供から大人まで楽しめる施設です。
また、多賀城市立図書館には「万葉デジタルミュージアム」があり、多賀城に赴任した大伴家持と万葉集の歌に触れることができます。デジタルコンテンツを通じて、当時の文化や人々の暮らしをより身近に感じられるでしょう。年間を通じて、多賀城跡あやめ園では「多賀城跡あやめまつり」が開催され、800種300万本ものアヤメ、ハナショウブ、カキツバタが咲き誇ります。城跡の風景と合わせて、日本の伝統的な花を楽しめます。
多賀城跡公園内には、散策路が整備されており、自分のペースでじっくりと見学できます。多賀城碑の前に立ち、松尾芭蕉が感じたであろう感慨に浸る時間も、ここでしか味わえない貴重な体験となるでしょう。古代の歴史の重みと、そこに息づく現代の魅力を肌で感じられる場所です。
交通手段:電車・乗合自動車・車での行き方、最寄り駅など
多賀城跡へのアクセスは、非常に便利です。
電車を利用する場合: JR東北本線の国府多賀城駅が最寄り駅となります。仙台駅からJR東北本線に乗り換え、約15分で国府多賀城駅に到着します。国府多賀城駅から多賀城跡までは徒歩で約15分程度です。また、JR仙石線の多賀城駅も利用できますが、多賀城駅からは徒歩約30分と少し距離があります。多賀城駅からバスを利用することも可能です。
乗合自動車を利用する場合: 多賀城市内循環バスが運行しており、「東北歴史博物館前」バス停などが城跡に近く、バス停から徒歩数分で到着します。東北歴史博物館の隣には、多賀城政庁跡の入口があります。バスの運行本数は比較的多いですが、事前に時刻表を確認することをおすすめします。
車を利用する場合: 仙台東部道路「仙台港北インターチェンジ」から約15分、三陸自動車道「多賀城インターチェンジ」から約10分で多賀城跡に到着します。東北歴史博物館には無料の駐車場が広く整備されており、安心して駐車できます。
どの交通手段を選ぶにしても、多賀城跡は主要な交通網にアクセスしやすい場所に位置しています。特に、東北歴史博物館と合わせて見学する場合、同博物館の駐車場を利用するのが便利です。
周辺の観光名所:徒歩・公共交通で行ける名所
多賀城跡を訪れたなら、周辺の魅力的な観光名所もぜひ巡ってみてください。多賀城市やその周辺地域には、古代から近世にかけての歴史や文化、そして豊かな自然が点在しています。
- 東北歴史博物館: 多賀城跡に隣接しており、徒歩すぐです。多賀城の歴史を深く学べるだけでなく、東北地方全体の歴史と文化を幅広く展示しています。雨の日でも楽しめる屋内施設です。
- 多賀城碑(壺の碑): 多賀城跡内にあり、徒歩約10分。国の重要文化財であり、松尾芭蕉も訪れた『おくのほそ道』ゆかりの地です。
- 多賀城跡あやめ園: 多賀城跡の一角に位置し、多賀城駅から徒歩約10分。約800種300万本のアヤメが咲き誇る、東北有数のあやめ園です。見頃は6月下旬から7月中旬です。
- 鹽竈神社(しおがまじんじゃ): 多賀城市に隣接する塩竈市にあり、JR仙石線本塩釜駅から徒歩約15分。陸奥国一宮(いちのみや)であり、伊達家からも崇敬された歴史ある神社です。松島湾を一望できる高台に位置し、美しい景色も楽しめます。
- 松島(まつしま): 日本三景の一つに数えられる景勝地です。JR仙石線多賀城駅から電車で約20分、松島海岸駅下車。遊覧船に乗って、美しい島々を巡るのがおすすめです。円通院や瑞巌寺など、歴史的な寺院も点在しています。
- 仙台城(青葉城): 仙台市の中心部に位置し、伊達政宗が築いた城の跡地です。多賀城からJR仙石線で仙台駅へ向かい、地下鉄やバスでアクセスします。多賀城とは異なる、近世城郭の雄大さを感じられます。
これらのスポットを巡ることで、多賀城の歴史探訪だけでなく、宮城の豊かな文化や自然、そしてグルメも満喫できます。
ご当地の味とおすすめ店:城の近くで楽しめる食事&喫茶店
多賀城周辺には、宮城ならではの美味しいご当地グルメを楽しめるお店が点在しています。城巡りの疲れを癒し、地元の味を堪能するのも旅の醍醐味です。
牛たん: 仙台を代表するグルメであり、厚切りの牛たんを炭火で香ばしく焼いたものは絶品です。多賀城市内にも牛たんを提供するお店があります。専門店はもちろん、定食屋さんなどで気軽に味わえることもあります。
ずんだ餅: 枝豆をすりつぶして作るずんだ餡を使った餅菓子で、宮城の伝統的な郷土料理です。甘さ控えめで、枝豆の香りが豊かです。多賀城市内の和菓子店や、道の駅などで購入できます。「ずんだ茶寮」のずんだシェイクも人気です。
笹かまぼこ: 魚のすり身を笹の葉の形にして焼き上げた、宮城の定番土産です。プリッとした食感と魚の旨みが特徴です。多賀城市内の土産物店や、蒲鉾専門店で購入できます。試食ができるお店も多いので、お好みの味を見つけてみてください。
海鮮料理(塩竈市): 多賀城に隣接する塩竈市は、港町として新鮮な海鮮が有名です。塩竈市場で新鮮な魚介類を購入したり、寿司店や海鮮丼を提供するお店で、獲れたての海の幸を味わうことができます。特に、マグロは塩竈の特産品として知られています。
おすすめの喫茶店・カフェ: 多賀城市内には、落ち着いた雰囲気で休憩できる喫茶店やカフェも存在します。城巡りの後に、温かいコーヒーや地元のスイーツを味わいながら、旅の思い出を振り返るのも良いものです。観光案内所で、最新のおすすめ店情報を尋ねるのも良い方法です。
これらの美食体験を通して、多賀城の旅をさらに豊かなものにしてください。
周辺名所への行き方:徒歩何分/交通手段などの簡潔な案内
多賀城跡を拠点として、周辺の観光名所へのアクセスを簡潔に紹介します。
- 東北歴史博物館:
多賀城跡に隣接。徒歩すぐ。 - 多賀城碑(壺の碑):
多賀城跡内にあり、徒歩約10分。 - 多賀城跡あやめ園:
多賀城駅から徒歩約10分。国府多賀城駅から徒歩約5分。 - 鹽竈神社:
JR仙石線本塩釜駅から徒歩約15分。多賀城駅からJR仙石線で約5分(本塩釜駅下車)。 - 松島:
JR仙石線多賀城駅から松島海岸駅まで約20分。 - 仙台城(青葉城):
JR仙石線多賀城駅から仙台駅まで約20分。仙台駅から地下鉄やバスでアクセス。
これらの情報はあくまで目安であり、時間帯や交通状況によって変動する場合があります。時間に余裕を持って計画を立てることをおすすめします。特に公共交通機関を利用する際は、乗り換えや運行本数に注意してください。
まとめ:初心者にもおすすめの理由、旅の秘訣
多賀城跡は、歴史に詳しくない方でも十分に楽しめる、魅力あふれる史跡です。天守などの建物は現存しませんが、復元された南門や築地塀、広大な政庁跡、そして多賀城碑は、訪れる人々を古代の世界へと誘います。整備された公園内を歩けば、古代律令国家の営みと、それが東北にもたらした文化の息吹を肌で感じられます。特に、日本三大史跡の一つとしての歴史的価値と、万葉集ゆかりの地としての文化的側面は、訪れる価値があります。
初めて城を訪れる方でも、東北歴史博物館の展示や、多賀城跡あやめ園の美しい景観を通じて、楽しく歴史を学ぶことができます。また、周辺には鹽竈神社や松島といった景勝地、そして牛たんやずんだ餅といった宮城ならではのグルメが豊富にあり、歴史と文化、そして美食を一度に楽しめます。旅の秘訣は、時間にゆとりを持って、城跡の隅々までじっくりと散策することです。その上で、地元のおいしい料理を味わい、多賀城の魅力を存分に堪能することに尽きます。
歴史のロマンと美しい風景、そして美食に満ちた多賀城への旅は、きっと忘れられない思い出となるに違いありません。この機会にぜひ、多賀城の地へ足を運んでみてください。きっと、あなたにとって特別な場所となるでしょう。
この記事を読んでいただきありがとうございました。