岩手県二戸郡一戸町に位置する一戸城（いちのへじょう）は、北上川に注ぐ馬淵川の段丘崖を利用して築かれた、中世から戦国時代にかけてこの地の重要拠点でした。鎌倉時代にこの地を治めた一戸氏の居城として栄え、後に南部氏の重要な支城となりました。
現在は「一戸城跡公園」として整備され、広大な敷地内に土塁や堀、そして曲輪の跡が良好に残ります。この記事では、一戸城の奥深い歴史から、見どころ、さらには周辺の観光情報まで、余すことなくご紹介します。
この城跡の持つ静かな魅力と、そこに秘められた物語を知れば、きっと心に残るひとときが生まれます。さあ、一戸城跡の魅力を一緒に探してみませんか。
一戸城の歴史：誰がいつ築き、どんな役割を果たしたか
一戸城の起源は古く、鎌倉時代に南部氏の一族である一戸氏がこの地に土着し、築城したと伝わります。一戸氏は、津軽、盛岡、八戸、九戸と並ぶ南部氏の五戸（ごのへ）の一つとして、この地の支配を担いました。城は、北上川水系である馬淵川に面した段丘崖上に築かれ、天然の要害として優れた防御力を誇っていました。平坦な地形でありながらも、河川と段丘崖を巧みに利用した構造は、当時の築城技術の高さを物語っています。
南北朝時代には、南朝方と北朝方の勢力が入り乱れる中、一戸城もその戦乱に巻き込まれました。その後も、戦国時代にかけて、南部氏の重要な支城として、津軽や鹿角方面からの敵の侵入を防ぐ役割を担いました。
特に、九戸政実の乱（天正19年、1591年）の際には、豊臣秀吉の大軍が九戸城を攻めるにあたり、一戸城もその拠点の一つとして利用されたと考えられています。この時期、城は一時的に改修され、防御力を強化したと推測されます。しかし、江戸時代に入り、盛岡城が南部氏の居城として定まると、一戸城はその役目を終え、廃城となりました。
現在、城跡の多くは宅地化や畑地となっていますが、一部に当時の土塁や空堀の跡が良好に残されています。この歴史の舞台で、激動の時代を生きた武将たちの営みに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
見どころ紹介：土塁、空堀、曲輪などの特徴と魅力
一戸城には、天守や石垣は現存しません。しかし、広大な敷地に良好に残る土塁と明確な空堀の跡は、当時の城の堅固さと規模を今に伝えています。特に注目すべきは、馬淵川の段丘崖を巧みに利用した地形です。跡は、現在もその高低差が残り、かつて城が築かれていた場所が実感できます。本丸や二の丸、三の丸といった複数の曲輪（くるわ）が確認されており、それぞれの曲輪を深い空堀と高い土塁が囲んでいたことが、残された遺構から見て取れます。
城跡の周囲を巡る遊歩道を歩くと、その規模の大きさに驚かされます。特に、主郭（本丸）を取り囲む土塁は、その高さと厚みから、かつてここに堅固な防御ラインが存在したことが容易に想像できます。空堀も深く、敵の侵入を阻む上で重要な役割を担っていたことでしょう。堀の底から土塁を見上げると、その迫力に圧倒されます。また、城内には複数の井戸跡が残されており、水の確保が重要であったことが伺えます。
本丸跡は、現在、一戸城跡公園として整備され、広々とした平坦な空間が広がっています。ここに立つと、馬淵川を見下ろすことができ、その戦略的な重要性を肌で感じられます。広大な視野が広がるため、当時の城の機能を想像できるでしょう。城内には説明板も設置されており、当時の役割や構造について学びながら散策ができます。歴史の重みと、そこに息づく一戸の自然の美しさを肌で感じられる場所です。
映える撮影スポット：土塁、空堀、そして周辺の自然を活かして
一戸城跡は、歴史的な価値だけでなく、その静かな景観も写真愛好家にとって魅力的な撮影スポットです。特に、残された土塁や空堀が織りなす地形の美しさは、素晴らしい被写体となります。深い空堀の陰影や、土塁の緩やかな起伏は、見る者に強い印象を与えます。馬淵川の段丘崖からの眺めは、開放感あふれる一枚を撮影できます。川の流れと、その向こうに広がるのどかな風景は、城の歴史と自然の調和を表現するのに最適です。
春には、城跡公園内に植えられた桜が満開となり、ピンク色に彩られた城跡は息をのむような美しさです。特に、桜と土塁や空堀のコントラストは、見る者に強い印象を与えます。この時期は多くの観光客で賑わうため、早朝や夕暮れ時を狙うと、より落ち着いて撮影できます。夏には、青々とした木々の緑が城跡全体を包み込み、清々しい風景が広がります。木々の間から差し込む木漏れ日が、土塁や堀に美しい陰影を落とします。
秋には、周辺の木々が鮮やかな紅葉に染まり、赤や黄色、オレンジ色のグラデーションが壮大な歴史遺構と見事な調和を見せます。この時期の夕暮れ時には、西日に照らされた城跡が黄金色に輝き、感動的な一枚を撮影できるでしょう。冬には、雪に覆われた白銀の城跡が幻想的な美しさを見せます。静寂の中で雪化粧をまとった土塁や堀の線は、モノクロームのような静かで力強い印象を与えます。どの季節に訪れても、一戸城跡はあなたを魅了します。
現地体験：催し物、展示など観光体験
一戸城跡では、大規模な常設の体験プログラムは少ないですが、一戸町では年間を通じて様々な催し物や展示が開催され、歴史や文化に触れる機会を提供しています。特に、一戸町立奥中山歴史民俗資料館や、一戸町コミュニティセンターでは、一戸の歴史や文化、そして一戸城に関する展示が豊富にあり、城の歴史や当時の人々の暮らしについて深く学べます。
一戸町立奥中山歴史民俗資料館では、一戸町内で発掘された考古資料や、江戸時代以降の民俗資料などが展示されており、一戸城が築かれた時代背景や、地域の人々の営みをより深く理解できます。時期によっては、一戸城に関する企画展や、歴史講座が開催されることもあります。これらのイベント情報は、一戸町観光協会のウェブサイトや、現地の観光案内所で確認することをおすすめします。
城跡を巡る際には、散策路が整備されているため、自分のペースでじっくりと見学できます。残された土塁や堀の跡を実際に歩き、その規模や配置を体感することは、何物にも代えがたい貴重な体験となること請け合いです。
交通手段：電車・乗合自動車・車での行き方、最寄り駅など
一戸城跡へのアクセスは、いくつかの方法があります。
電車を利用する場合： JR東北新幹線またはIGRいわて銀河鉄道の一戸駅が最寄り駅となります。盛岡駅からJR東北新幹線で約30分、IGRいわて銀河鉄道で約1時間で一戸駅に到着します。一戸駅から一戸城跡までは徒歩で約15分から20分程度と、比較的アクセスしやすい場所にあります。
乗合自動車を利用する場合： 一戸町内循環バスが運行しており、「一戸城跡公園前」バス停などが城跡に近く、バス停から徒歩数分で到着します。バスの運行本数は限られている場合があるため、事前に時刻表を確認することをおすすめします。特に休日や時間帯によっては、便数が少ないことも考慮に入れてください。
車を利用する場合： 東北自動車道「一戸インターチェンジ」から国道4号線を経由して約5分から10分で一戸城跡に到着します。一戸城跡公園には無料の駐車場が整備されており、安心して駐車できます。道中には、北岩手ののどかな田園風景が広がり、ドライブも満喫できます。
どの交通手段を選ぶにしても、事前にしっかりと計画を立てておくことが、スムーズな旅の秘訣です。特に公共交通機関を利用する場合は、時刻表の確認は必須です。
周辺の観光名所：徒歩・公共交通で行ける名所
一戸城跡を訪れたなら、周辺の魅力的な観光名所もぜひ巡ってみてください。一戸町やその周辺地域には、城跡以外にも見どころが豊富に存在します。
御所野縄文公園： ユネスコ世界文化遺産「北海道・北東北の縄文遺跡群」の一部である「御所野遺跡」を整備した公園です。一戸城跡から車で約15分です。縄文時代の集落跡が良好に保存されており、竪穴住居や掘立柱建物などが復元されています。縄文人の暮らしを体感できる施設であり、歴史好きにはたまらないスポットです。
道の駅おりつめ オドデ館： 一戸町に隣接する九戸村にある道の駅で、地元の特産品や新鮮な野菜、果物が豊富に揃っています。一戸城から車で約20分です。食事処では、地元の食材を使った料理が楽しめます。特に、季節限定の郷土料理や、地元のスイーツも人気です。立ち寄って、地元の味を堪能するのも良いでしょう。
二戸市金田一温泉郷： 一戸町に隣接する二戸市にある温泉地で、東北でも有数の歴史ある温泉です。一戸城から車で約30分です。温泉旅館が点在し、それぞれ異なる泉質や雰囲気を持っています。城巡りの後に、温泉で旅の疲れを癒すのは最高の贅沢でしょう。
九戸城跡（くのへじょうあと）： 戦国時代末期の重要な舞台となった城跡で、東北最古とされる石垣が残ります。一戸城から車で約30分です。豊臣秀吉による天下統一の最後の戦場となった地であり、歴史好きには必見のスポットです。
これらのスポットを巡ることで、一戸城の歴史探訪だけでなく、一戸町の豊かな自然や文化、グルメも満喫できます。
ご当地の味とおすすめ店：城の近くで楽しめる食事＆喫茶店
一戸城周辺には、一戸ならではの美味しいご当地グルメを楽しめるお店が点在しています。城巡りの疲れを癒し、地元の味を堪能するのも旅の醍醐味です。
南部せんべい： 一戸町も南部せんべいの産地として知られています。小麦粉を主原料とし、パリッとした食感と香ばしい風味が特徴です。甘いものから、ゴマやピーナッツなど、様々な種類があります。地元の道の駅や土産物店で、焼きたての南部せんべいを味わえることもあります。お土産にも最適です。
短角牛（たんかくぎゅう）： 岩手県北部で飼育される「いわて短角和牛」は、赤身が多く、旨みが凝縮された牛肉として知られています。一戸町内にも、短角牛を使った料理を提供するレストランや、加工品を販売するお店があります。肉本来の味を存分に楽しめるでしょう。
雑穀料理： 一戸町は、古くから雑穀の栽培が盛んな地域です。ひえ、あわ、きびなど、様々な雑穀を使った郷土料理が伝わっています。道の駅や、地元の食堂では、雑穀ごはんや、雑穀を使ったスイーツなどが提供されることもあります。健康志向の方にもおすすめです。
道の駅おりつめ オドデ館のレストラン： 上記の観光名所でも紹介しましたが、道の駅おりつめ オドデ館のレストランでは、地元の食材を活かした料理が楽しめます。特に、九戸村の特産品を使ったメニューや、季節限定の郷土料理は人気です。
おすすめの喫茶店・カフェ： 一戸駅周辺や、町内には、落ち着いた雰囲気で休憩できる喫茶店やカフェも存在します。城巡りの後に、温かいコーヒーを飲みながら、旅の思い出を振り返るのも良いものです。地元の食材を使った軽食や、手作りの焼き菓子を提供しているお店もあります。観光案内所で、最新のおすすめ店情報を尋ねるのも良い方法です。
これらの美食体験を通して、一戸城の旅をさらに豊かなものにしてください。
周辺名所への行き方：徒歩何分／交通手段などの簡潔な案内
一戸城跡を拠点として、周辺の観光名所へのアクセスを簡潔に紹介します。
- 御所野縄文公園：
車で約15分。公共交通機関を利用する場合は、一戸駅からバスでアクセス可能です。 - 道の駅おりつめ オドデ館：
車で約20分。公共交通機関でのアクセスは不便なため、タクシーやレンタカーの利用が現実的です。 - 二戸市金田一温泉郷：
車で約30分。公共交通機関を利用する場合は、二戸駅からバスでアクセス可能です。 - 九戸城跡：
車で約30分。公共交通機関を利用する場合は、二戸駅からバスでアクセス可能です。
これらの情報はあくまで目安であり、時間帯や交通状況によって変動する場合があります。時間に余裕を持って計画を立てることをおすすめします。特に公共交通機関を利用する際は、乗り換えや運行本数に注意してください。
まとめ：初心者にもおすすめの理由、旅の秘訣
一戸城跡は、歴史に詳しくない方でも十分に楽しめる、魅力あふれる史跡です。天守などの建物は現存しませんが、広大な敷地に良好に残された土塁や堀、そして曲輪の跡から、かつての堅固な城としての役割をはっきりと感じ取れます。整備された公園内を歩けば、歴史の重みを肌で感じながら、静かな環境で心を落ち着かせられます。
初めて城を訪れる方でも、現地に設置された説明板や、周辺の資料館で城の歴史を学ぶことができ、無理なく楽しめます。また、周辺には御所野縄文公園や道の駅おりつめ、そして金田一温泉郷など、一戸ならではの観光スポットやグルメが豊富にあり、歴史と文化、そして美食を一度に楽しめます。旅の秘訣は、時間にゆとりを持って、城跡の隅々までじっくりと散策することです。その上で、地元のおいしい料理を味わい、一戸の魅力を存分に堪能することに尽きます。
歴史のロマンと美しい風景、そして美食に満ちた一戸城への旅は、きっと忘れられない思い出となるに違いありません。この機会にぜひ、一戸の地へ足を運んでみてください。
この記事を読んでいただきありがとうございました。