戦国という激しい時代の流れの中にあって、次々と現れる天下人たちに仕えながらも、自身の才覚と巧みな処世術によって、激動の時代を生き抜き、一国の大名にまでなった武将がいました。越前の朝倉氏（あさくらし）、織田信長（おだ のぶなが）、豊臣秀吉（とよとみ ひでよし）、そして徳川家康（とくがわ いえやす）という、まさに時代を動かした三人の天下人たちに仕え、飛騨国（ひだのくに）、現在の岐阜県北部の国主となった、金森長近（かなもり ながちか）です。彼の生涯は、戦場での武功、飛騨での治世、そして茶の湯に代表される文化的な側面が織りなす、多面的で興味深い物語です。飛騨高山という美しい城下町を築いた長近。この記事では、金森長近という人物の魅力と、彼が歩んだ波乱の道のり、そして飛騨の地にかけた夢に迫ります。
越前の朝倉から織田へ、乱世の渡り鳥として
金森長近は、永正11年（1514年）に生まれたと言われています。最初、彼は越前国（現在の福井県）の戦国大名、朝倉氏に仕えました。朝倉氏は、越前を支配し、文化的な側面でも知られた家柄でした。長近は、朝倉氏のもとで武将としての経験を積みました。
しかし、越前朝倉氏は、織田信長との戦いに敗れ、天正元年（1573年）に滅亡します。仕えていた主家が滅亡するという事実は、長近にとって大きな転換点となりました。彼は、朝倉氏に最後まで付き従う道を選ばず、織田信長に仕えることを決断します。乱世にあって、生き残るために主を変えるという選択は、決して珍しいことではありませんでしたが、そこには、自身の能力を活かせる場所を求める武将たちの現実がありました。
織田家臣となった長近は、信長の天下統一事業に加わり、各地の戦場で武功を重ねました。彼は、武勇に優れており、戦場において冷静沈着な判断力をもって部隊を指揮しました。信長は、長近の能力を評価し、次第に重要な役割を任せていくことになります。それは、長近が持つ、時代の流れを見極める力と、新しい主のもとで自身の力を示そうとする意志があったからこそ成し遂げられたことでしょう。
飛騨平定、天下人の信頼を得て
織田信長は、飛騨国にもその影響力を広げようとしていました。飛騨国は、山深く、交通の便が悪いため、統一的な支配が難しい土地でしたが、 strategic には重要な意味を持っていました。信長は、金森長近に飛騨国平定という重要な任務を任じます。
長近は、飛騨の国人衆との戦い、あるいは交渉を通して、飛騨国を自身の支配下に置いていきました。飛騨の複雑な地理を利用した戦いぶり、そして国人衆との関係構築など、長近は飛騨平定においてその武勇と知略を遺憾なく発揮しました。飛騨国を平定した功績は、織田信長から高く評価され、長近は飛騨国主となります。飛騨という、これまであまり中央の力が及んでいなかった土地を治めること。それは、長近にとって新たな挑戦であり、大きな責任でした。
高山城と城下町、飛騨に新しい時代を築く
飛騨国主となった金森長近は、飛騨高山（現在の岐阜県高山市）を自身の拠点と定め、高山城の築城を開始しました。高山城は、周囲の山々を利用した堅固な山城であり、長近の戦略的な意図が込められています。
長近は、高山城の築城と並行して、城下町の整備にも力を注ぎました。城下町には商人を集め、産業を振興し、経済を活性化させました。また、飛騨の厳しい自然環境の中で暮らす領民たちの生活を安定させるために、様々な政策を実行しました。飛騨の地に新しい時代を築こうとする長近の熱意は、領民にも伝わり、彼は領民から慕われたと言われています。武将としての厳しさと、領主としての温かさを併せ持っていた長近は、飛騨の地で自身の理想とする国づくりを進めました。飛騨高山という美しい城下町は、今も金森長近の功績を伝えています。
二人の天下人に仕え、乱世を巧みに渡る
織田信長の死後、天下は豊臣秀吉によって統一されていきます。金森長近は、豊臣秀吉に仕えることになります。秀吉もまた、長近の武勇と治世の手腕を評価し、飛騨国主としての地位を安堵しました。長近は、秀吉のもとで、飛騨国主として自身の役割を果たしました。小田原征伐や朝鮮出兵における長近の動向については詳しいことは不明ですが、彼は豊臣政権の一員として、秀吉の天下統一事業に貢献しました。
豊臣秀吉の死後、天下の情勢が不穏になっていく中で、金森長近は徳川家康に仕えることを決断します。関ヶ原の戦いにおいては、徳川家康率いる東軍に味方し、その勝利に貢献しました。朝倉氏、織田氏、豊臣氏、そして徳川氏。三人の天下人たちに仕えながらも、自身の地位を維持し、大名として家を存続させた長近。それは、彼が持つ、乱世を巧みに生き抜く知恵と、時代の流れを見極める力があったからこそ成し遂げられたことでした。
武と文、乱世に咲いた数寄の心
金森長近の魅力は、武将としての顔だけではありませんでした。彼は、茶の湯にも深い造詣を持つ文化人でもありました。千利休（せんのりきゅう）との関わりもあったと言われています。乱世の喧騒の中で、長近は茶の湯に心の安らぎを見出しました。静かな茶室で、自身の心と向き合う。それは、戦場や政治の世界で疲弊した心を癒す時間でした。
彼は、武と文、両方の世界を愛し、それを自身の生き方の一部としていました。茶の湯は、長近にとって単なる趣味ではなく、人との繋がりを深め、情報収集をするための手段でもありました。武将としての厳しさと、茶人としての繊細さ。長近は、この二つの側面を併せ持つ、魅力的な人物でした。
長寿を保ち、泰平の世へ
金森長近は、激動の時代を生き抜き、慶長19年（1614年）に90歳を超える長寿を保って亡くなりました。彼は、自身の息子に家督を譲り、隠居した後も、泰平の世を見つめながら穏やかな晩年を送ったと考えられています。
乱世を生き抜いた経験を、泰平の世にどのように活かしたでしょうか。かつての戦友たちが時代の波間に消えていく中で、長近は自身の力で家を存続させ、後世に伝えたことに大きな達成感を感じていたことでしょう。
三人の天下人を渡り歩いた知恵
金森長近の生涯は、三人の天下人に仕え、激動の時代を巧みに生き抜いた知恵の物語です。彼は、武勇、治世の手腕、そして茶人としての才能を兼ね備え、自身の多才な能力を活かして乱世を渡り歩きました。
彼の人生は、私たちに多くのことを語りかけます。時代の変化を恐れず、柔軟に対応すること。自身の能力を様々な分野で活かすこと。そして、困難な状況にあっても、自身の心を強く持ち、生き抜くこと。金森長近は、決して天下を統一した英雄ではありませんでしたが、自身の力で乱世を生き抜き、飛騨の地に新しい時代を築いた、確かに偉大な人物でした。
金森長近。三人の天下人に仕え、飛騨の地に夢を築き、武と文、両方の世界を生きた武将。彼の生涯は、時代を超えて今も静かに、しかし力強く、私たちに響いています。飛騨高山の古い町並みを歩くとき、金森長近という人物が、この地にかけた思いと、乱世を巧みに生き抜いたその魂を感じることができるような気がします。
この記事を読んでいただきありがとうございました。
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