和歌山市の中心にそびえる和歌山城は、徳川御三家の一つである紀州徳川家の居城として栄えた名城です。虎伏山(とらふすやま)に築かれたその姿は、周囲の景色と見事に調和し、訪れる人々を魅了し続けています。豊臣秀吉によって築城が始まり、後に徳川頼宣によって大規模な改修が行われた和歌山城は、戦災で一度は焼失したものの、昭和の再建を経て、往時の威厳ある姿を取り戻しました。
日本三大連立式平山城の一つに数えられるその構造と、天守からの眺望は必見です。この記事では、和歌山城の深い歴史から見どころ、美しい撮影スポット、そして周辺の魅力的な観光地やご当地グルメまで、和歌山城を心ゆくまで楽しむための情報をお届けします。ぜひ和歌山城で、歴史と絶景を満喫する旅を体験してみてください。
和歌山城の歴史:天下人の夢と紀州の繁栄
豊臣秀吉による築城の始まり
和歌山城の歴史は、天正13年(1585年)に遡ります。天下統一を進める豊臣秀吉が紀州を平定した後、その弟である豊臣秀長に命じて、紀州統治の拠点として和歌山城を築かせました。築城の普請奉行を務めたのは、築城の名手として名高い藤堂高虎です。
高虎が手がけた初期の近世城郭としても知られ、この頃に城の基礎が築かれました。秀長は大和郡山城を居城としたため、桑山重晴が和歌山城の城代として、城の整備を進めたと言い伝えられています。
浅野氏と徳川氏による大規模な改修
豊臣家の時代が終わり、慶長5年(1600年)の関ヶ原の戦いの後、浅野幸長が37万6千石の領主として和歌山城に入城しました。浅野氏は城の大規模な改築を行い、連立式天守閣を建設し、現在の本丸、二の丸、西の丸に屋敷を整備しました。また、城の正面にあたる大手門を現在の位置に変更し、城下町を整備するなど、和歌山城の基本的な縄張りがこの頃に確立されました。
その後、元和5年(1619年)には、徳川家康の十男である徳川頼宣(とくがわよりのぶ)が城主となり、紀州徳川家が始まりました。紀州徳川家は、水戸・尾張と並ぶ徳川御三家の一つとして、250年以上にわたり和歌山城を居城としました。頼宣もまた、城のさらなる拡張と整備を進め、和歌山城は堅固な防御と美しい姿を兼ね備えた名城として、紀州の政治・経済・文化の中心として栄えました。
明治以降の歩みと再建
明治維新による廃城令で、全国の多くの城が取り壊される中、和歌山城も例外ではありませんでした。大部分の建物は解体されましたが、岡口門(おかぐちもん)など、一部の建造物は現存しています。その後、第二次世界大戦の戦火により、天守閣などの主要な建物は焼失してしまいました。しかし、市民の熱い願いと努力により、昭和33年(1958年)に現在の天守閣が再建されました。
現在の和歌山城は、当時の図面や資料に基づき忠実に復元されており、往時の姿を偲ぶことができます。このように、和歌山城は幾多の試練を乗り越え、市民に愛され、現代にその雄姿を伝えているのです。
和歌山城の見どころ:連立式天守と巧みな石垣の秘密
和歌山城は、白亜の美しい天守閣と、その周囲に広がる巧みな防御施設が見どころです。城内を巡ることで、戦国時代から江戸時代にかけての築城技術と、城を守るための工夫を肌で感じられます。
優美な連立式天守群
和歌山城の象徴とも言えるのが、大天守と小天守が渡櫓で連結された「連立式天守(れんりつしきてんしゅ)」です。姫路城や松山城とともに日本三大連立式平山城の一つに数えられ、その姿は遠くからでも一際目を引きます。天守閣の内部は、歴史資料や武具などが展示されており、紀州徳川家の歴史や、城の構造について詳しく学べます。
最上階の展望台からは、和歌山市街はもちろん、紀ノ川や遠く紀伊水道まで見渡せる360度の大パノラマが広がっています。当時の城主もこの景色を眺めながら、領地の安寧を願ったことでしょう。天守の白壁と青い空、そして眼下に広がる街並みのコントラストは、まさに絶景です。
多種多様な石垣の美
和歌山城のもう一つの大きな見どころは、随所に残る美しい石垣です。豊臣時代、浅野時代、そして徳川時代と、それぞれの時代に築かれた石垣は、異なった特徴を持っています。
例えば、紀州特産の青石(緑泥片岩)を多く用いた豊臣時代の野面積み、石を加工して隙間なく積んだ浅野時代の打ち込みはぎ、そして江戸時代に精密に積み上げられた切り込みはぎなど、様々な築城技術の変遷を間近で観察できます。
石垣に刻まれた刻印や、転用石(墓石などを再利用した石)を探しながら城内を散策するのも、面白い体験です。これらの石垣からは、当時の人々の技術力と、城を堅固に守ろうとした執念を感じられます。
城内の多聞櫓と御橋廊下
天守閣以外にも、城内には見どころが豊富にあります。多聞櫓は、防御と倉庫の役割を兼ね備えた長屋状の建物で、その堅牢な造りからは、当時の防御体制の厳しさを感じられます。
また、二の丸と西の丸を結ぶ「御橋廊下」は、藩主とその家族だけが通行できた屋根付きの廊下橋です。傾斜があるため、階段ではなくスロープになっており、滑り止めのために板が互い違いに張られているのが特徴です。実際に渡ってみると、当時の人々の生活を垣間見ることができるでしょう。城内には、他にも様々な門の跡や、曲輪の配置を伝える標識がありますので、じっくりと巡ることで、和歌山城の奥深い魅力を発見できます。
天守閣のベストショット
和歌山城の象徴である天守閣を美しく収めるには、いくつかの人気スポットがあります。まず、和歌山城公園の広々とした芝生広場からは、天守閣の全景をゆったりと捉えられます。特に午前中の早い時間帯は、天守閣が順光となり、白壁がより一層輝いて見えます。
また、天守閣の周囲を巡る遊歩道からも、様々な角度で撮影を楽しめます。御橋廊下付近から望む天守閣は、歴史的な建造物との組み合わせが絵になります。西之丸庭園(紅葉渓庭園)からの眺めも素晴らしく、特に秋の紅葉の時期には、色鮮やかな木々と天守閣のコントラストが息をのむような美しさとなります。
夜のライトアップと桜の季節
和歌山城は、夜間のライトアップも行われており、昼間とは異なる幻想的な姿を見せてくれます。日没から23時まで、白く浮かび上がる天守閣は、闇夜に浮かぶ白亜の巨城といった趣があり、非常にフォトジェニックです。特に桜の季節、3月下旬から4月上旬にかけては、約600本の桜が城内を彩り、夜桜のライトアップも行われます。この時期の訪問は、幻想的な一枚を収める絶好の機会となります。
和歌山市街を見下ろすパノラマ
天守閣最上階の展望台からの眺望も、ぜひ写真に収めたい絶景です。和歌山市街を一望でき、遠くには紀ノ川がゆったりと流れ、その先には紀伊水道が広がっています。特に夕暮れ時は、空が茜色に染まり、街の明かりが灯り始める時間帯は、ロマンチックな雰囲気に包まれます。刻々と変化する空の色と、城下町の景色を写真に収め、旅の思い出として持ち帰ってください。
和歌山城での現地体験:歴史散策と地域の催し物
和歌山城では、ただ歴史的建造物を見て回るだけでなく、様々な体験を通して、その歴史や地域の文化に深く触れることができます。五感を使って、城の魅力を存分に味わってみましょう。
天守閣内部での歴史学習
和歌山城観光の核となるのは、やはり天守閣内部の見学です。急な階段を上りながら各階に設けられた展示を見学することで、和歌山城の築城から廃城、そして再建に至るまでの歴史を詳しく知ることができます。紀州徳川家ゆかりの品々や、武具、そして城の構造模型などが展示されており、当時の人々の暮らしや、戦国の世の様子を想像できます。
御橋廊下と動物園散策
二の丸と西の丸を結ぶ「御橋廊下」は、実際に渡ってみることで、そのユニークな構造と、当時の藩主の生活を体感できます。床が傾斜しているため、通常の階段とは異なる感覚を味わえるはずです。また、和歌山城公園内には、全国的にも珍しいお城に併設された「和歌山公園動物園」があります。小さな動物園ですが、子供連れでも楽しめる人気のスポットです。動物たちの可愛い姿に癒されながら、城跡散策の合間の休憩にも利用できます。
季節ごとのイベントと「おもてなし忍者」
和歌山城公園では、年間を通じて様々なイベントが開催されます。特に春の桜まつりや、秋の紅葉イベント、夜間ライトアップなどは、多くの観光客で賑わいます。時期によっては、和歌山城の歴史や魅力を案内してくれる「和歌山市語り部クラブ」による歴史散歩ツアーや、「おもてなし忍者」が登場し、来場者をもてなしてくれることもあるそうです。
和歌山城への交通手段:スムーズなアクセス方法
和歌山城へのアクセスは、公共交通機関でも車でも非常に便利です。ご自身の旅のスタイルや、他の観光地への移動計画に合わせて、最適な方法を選んでください。
電車でのアクセス
和歌山城の最寄り駅は、南海電気鉄道「和歌山市駅」またはJR「和歌山駅」です。南海和歌山市駅からは、徒歩で約10分から15分ほどで和歌山城に到着します。JR和歌山駅からは、少し距離がありますが、徒歩で約20分から25分、または路線バスを利用するのが便利です。
JR和歌山駅から和歌山バス「和歌山城前」バス停で下車すると、城の目の前に到着しますので、こちらが最も効率的な方法と言えます。大阪方面からは、南海難波駅から特急に乗車すると、約1時間で和歌山市駅に到着します。JR大阪駅から特急に乗車すると、約1時間から1時間半で和歌山駅に到着します。
車でのアクセスと駐車場情報
お車でお越しの場合、和歌山城周辺には複数の有料駐車場が整備されていますので、そちらをご利用ください。城のすぐ近くには、和歌山城公園駐車場(有料)などがあります。阪和自動車道「和歌山インターチェンジ」から一般道へ降り、約15分から20分ほどで到着します。
大阪方面からも、京都方面からもアクセスしやすい立地です。休日や観光シーズンには駐車場が混み合うこともありますので、時間に余裕を持って訪れることをおすすめします。事前に駐車場の場所や料金、空き状況を確認しておくと、スムーズに観光を開始できます。
和歌山城周辺の観光名所:歴史と自然を満喫する
和歌山城の周辺には、他にも魅力的な観光名所がたくさんあります。和歌山城と合わせて訪れて、和歌山市の奥深い魅力をさらに感じてみてください。
西之丸庭園(紅葉渓庭園):趣のある日本庭園
和歌山城公園内にある「西之丸庭園」は、国指定名勝にも選ばれている江戸時代初期の大名庭園です。別名「紅葉渓庭園」とも呼ばれ、特に秋の紅葉の時期は、色鮮やかな木々が庭園を美しく彩ります。池や滝、趣のある茶室などが配置され、城を背景にした景観も素晴らしく、心落ち着くひとときを過ごせることでしょう。庭園内には、お茶室「紅葉渓」もあり、抹茶と和菓子を味わいながら休憩することも可能です。
和歌山県立近代美術館・博物館:アートと歴史の探求
和歌山城の近くには、「和歌山県立近代美術館」と「和歌山県立博物館」が隣接しています。近代美術館では、日本の近代美術を中心に、様々な企画展が開催されています。一方、博物館では、和歌山県の歴史や民俗、自然に関する資料が展示されており、より深く和歌山の文化を知る良い機会となります。城跡観光と合わせて、芸術や歴史への理解を深めることができるでしょう。
和歌浦(わかのうら):万葉の歌に詠まれた景勝地
和歌山城から少し足を延ばせば、風光明媚な景勝地として知られる「和歌浦」があります。万葉集にも詠まれ、古くから多くの人々に愛されてきた美しい海岸線が広がっています。不老橋や玉津島神社、紀州東照宮など、見どころも豊富です。特に紀州東照宮は、徳川家康を祀る社殿で、煌びやかな権現造りの社殿は「関西の日光」とも称されるほどです。和歌浦の美しい景色を眺めながら、歴史と自然の調和を感じてみてはいかがでしょうか。
ご当地の味とおすすめ店:和歌山城の近くで楽しめる食事
和歌山城周辺には、和歌山ならではの美味しい料理を楽しめるお店がたくさんあります。観光の合間に、ぜひ地元の味を堪能してください。
和歌山ラーメン:独特の豚骨醤油味
和歌山県を代表するご当地グルメと言えば、やはり「和歌山ラーメン」です。豚骨醤油ベースの濃厚でありながらもまろやかなスープと、ストレート麺が特徴です。お店によって味や麺の硬さも様々で、それぞれの店のこだわりを感じられます。城下町や和歌山駅周辺には、老舗から新しいお店まで、多くのラーメン店が点在しています。ぜひお気に入りのお店を見つけて、本場の味を体験してみてください。
めはり寿司と太刀魚料理:海の幸を堪能
和歌山県は、豊かな海の幸にも恵まれています。郷土料理として親しまれているのが「めはり寿司」です。高菜の漬物でご飯を包んだ素朴な味わいで、手軽に食べられるのが魅力です。おにぎり感覚で、持ち運びにも便利なので、城内散策のお供にも良いかもしれません。
また、太刀魚も和歌山の特産品の一つです。新鮮な太刀魚を使ったお刺身や、塩焼き、天ぷらなど、様々な料理を味わえるお店があります。特に、旬の時期に味わう太刀魚は、格別の美味しさです。瀬戸内海の恵みを存分に堪能してください。
その他、城下町の喫茶店やカフェ
和歌山城の周辺には、昔ながらの喫茶店や、おしゃれなカフェも点在しています。城下町を散策しながら、休憩がてら立ち寄るのも良いでしょう。地元の人々に愛される素朴なコーヒーや、こだわりのスイーツなどを味わいながら、旅の疲れを癒し、ゆったりとした時間を過ごせます。
周辺名所への行き方:移動もスムーズに
和歌山城周辺の観光名所への移動は、徒歩や公共交通機関を利用することで非常にスムーズに行えます。城下町をゆっくりと散策しながら、様々な場所を訪れることができます。
西之丸庭園(紅葉渓庭園)へのアクセス
西之丸庭園は和歌山城公園内にあり、天守閣から歩いてすぐの場所に位置しています。城内を散策するルートに組み込むのがおすすめです。
和歌山県立近代美術館・博物館へのアクセス
和歌山県立近代美術館と和歌山県立博物館は、和歌山城から徒歩で約5分から10分ほどの距離にあります。城の東側に位置しており、城観光の後に立ち寄るのに便利です。
和歌浦へのアクセス
和歌浦へは、和歌山城からバスでアクセスできます。JR和歌山駅または南海和歌山市駅から「和歌浦口」方面行きのバスに乗車し、約20分から30分で到着します。バス停から各名所までは、徒歩で散策することになります。
まとめ:初心者にもおすすめの和歌山城、旅の秘訣
和歌山城は、豊臣秀吉の命により築城され、紀州徳川家の居城として栄えた歴史あるお城です。白亜の連立式天守閣は、その優美な姿と堅固な防御を兼ね備え、見る者を圧倒します。天守からの眺望、多種多様な石垣の美しさ、そして歴史的な建造物が織りなす空間は、歴史好きの方だけでなく、初めてお城を訪れる方にもきっと感動を与えることでしょう。
周辺には美しい日本庭園や美術館、そして万葉の歌に詠まれた和歌浦など、見どころが満載です。和歌山ラーメンなどのご当地グルメも充実しており、一日中楽しめる場所です。時間を気にせず、ゆっくりと城内や城下町を散策するのが、和歌山城を満喫する旅の秘訣と言えます。ぜひ、和歌山城で歴史の息吹を感じ、心に残る旅を体験してみてください。
この記事を読んでいただきありがとうございました。