青森県南部、岩手県との県境に近い三戸郡三戸町。ここに、戦国時代から江戸時代初期にかけて、広大な領地を支配した南部氏の本拠地、三戸城跡が静かに佇んでいます。現在、城の建物は残っていませんが、国の史跡として整備された広大な公園には、往時を偲ばせる土塁や堀、曲輪の跡が良好な状態で保存されており、その歴史的な価値は高く評価されています。
歴史に詳しくない方も、豊かな自然に囲まれた中で、北の武士たちの足跡に思いを馳せるひとときを過ごせるでしょう。この記事が、あなたの三戸城跡観光の素晴らしい手引きとなることを願います。
三戸城の歴史:南部氏の興隆と北奥の要衝
三戸城は、室町時代末期に、南部氏第24代当主・南部晴政(なんぶはるまさ)によって築かれたとされています。それ以前、南部氏は聖寿寺館(本三戸城)を拠点としていましたが、焼失したため、新たな本拠地として三戸城が築かれました。南部氏は、鎌倉時代から続く名門で、現在の青森県から岩手県にかけて広大な領地を支配していました。三戸城は、南部氏の拠点として、政治、経済、軍事の中心を担い、北奥羽の要衝として機能しました。
特に、第26代当主となった南部信直(なんぶのぶなお)の時代には、豊臣秀吉による奥州仕置を経て、南部氏の領地が安堵され、三戸城は南部氏の正式な本城としての地位を確立します。しかし、九戸政実の乱(九戸一揆)の鎮圧後、信直は九戸城(現在の二戸市福岡城)に移り、その後、盛岡城の築城を開始します。
1615年(元和元年)に盛岡城が完成し、南部氏の本拠が移されると、三戸城は城代が置かれるようになり、やがてその役目を終えて廃城となりました。三戸城は、激動の戦国時代から近世への転換期において、南部氏の歴史を象徴する重要な舞台であり、この地を訪れることは、南部氏の足跡をたどる旅の第一歩となるのです。
見どころ紹介:模擬天守と石垣、そして広大な曲輪
三戸城跡は、現在「国史跡三戸城跡城山公園」として整備されており、見どころが豊富です。城の建物自体は残っていませんが、本丸跡に建てられた「三戸城温故館」は、模擬天守のような趣のある建物で、内部は資料館となっています。ここでは、南部氏に関する貴重な資料や武具、古文書などが展示されており、三戸城の歴史を深く学ぶことができます。最上階からは、三戸町の街並みはもちろん、遠くの山々まで見渡せる雄大な景色が広がります。
また、城跡には、当時の石垣や土塁、堀切などの遺構が良好な状態で残されています。これらは、戦国時代の城郭の構造や、敵の侵入を防ぐための工夫を今に伝えています。特に、1989年(平成元年)に復元された「綱御門(つなぎごもん)」は、その規模と精巧さで知られ、当時の城の威容を偲ばせます。広大な敷地内には、本丸、二の丸、三の丸といった複数の曲輪跡が広がり、これらをゆっくりと散策することで、往時の城の規模を実感できます。
公園内には、八戸藩初代藩主・南部直房の銅像や、心学の庭石なども配置され、市民の憩いの場としても親しまれています。ここは、想像力を働かせながら歴史の深淵に触れることができる場所です。
映える撮影スポット:四季折々の息をのむ絶景
三戸城跡は、四季折々の美しい表情を見せることで知られており、特に春の桜の季節は圧巻です。
春(4月下旬~5月上旬):約1,600本の桜が咲き誇り、公園全体が淡いピンク色に染まります。「さんのへ春まつり」の期間中は、桜並木のライトアップが行われ、昼間とは異なる幻想的な夜桜の美しさを堪能できます。模擬天守である温故館と桜の組み合わせは、歴史的な趣と自然の美しさが調和し、弘前城に匹敵するほどの素晴らしい撮影スポットとなります。
夏(7月~8月):緑豊かな木々に囲まれ、清々しい景色が広がります。
秋(10月下旬~11月上旬):木々が鮮やかに紅葉し、公園全体を赤やオレンジに彩ります。歴史的建造物と紅葉のコントラストは、写真映えする景観です。
冬(12月~3月):雪景色が広がり、静寂な雰囲気が歴史の重みを一層引き立てます。温故館は冬季休館となりますが、雪化粧をまとった城跡は、墨絵のような美しさを見せます。
どの季節に訪れても、三戸城跡は訪れる人々を感動させる美しさがあります。おすすめの撮影時間帯は、早朝の澄んだ空気の中や、夕暮れ時の柔らかい光に包まれる時間帯です。ここは、息をのむような美しい景色を背景に、歴史のロマンを感じる写真を残せる場所なのです。
現地体験:資料館で深める南部氏の知識
三戸城跡を訪れたなら、城跡内に位置する「三戸城温故館」は必見です。この施設は、模擬天守のような外観を持ち、内部は三戸町の歴史や文化、南部氏に関する展示資料館となっています。南部氏の系譜や、三戸城の歴史、そして当時の人々の暮らしに関する貴重な資料が多数展示されており、じっくりと見学することで、より深く歴史を理解できます。また、発掘調査で出土した遺物なども展示されており、当時の繁栄を偲ぶことができます。
温故館の開館時間は午前9時から午後4時までで、毎週月曜と12月から3月までは休館となるため、訪問前に開館情報を確認することをおすすめします。温故館の受付では、「続日本100名城」のスタンプも押印できますので、城めぐり愛好家の方もぜひ立ち寄ってみてください。
資料館で学んだことをもとに城跡を巡ると、ただの公園に見えた場所が、かつて重要な歴史の舞台であったことを強く実感できるでしょう。五感を使って歴史を感じることで、三戸城跡での思い出はさらに豊かなものになります。
交通手段:三戸城へのアクセスガイド
三戸城跡へのアクセスは、主に車か公共交通機関を利用する方法があります。
車でのアクセス: 八戸市内から国道4号線を経由し、約30分ほどで到着します。青森市内からは約1時間30分程度です。八戸自動車道「八戸IC」または「南郷IC」から約30分、東北自動車道「一戸IC」からも約40分です。三戸城跡である城山公園の周辺には無料駐車場が完備されており、車での訪問が非常に便利です。
公共交通機関でのアクセス: 青い森鉄道「三戸駅」が最寄り駅です。三戸駅から三戸城跡へは、南部バスの「三戸営業所行き」に乗車し、「役場前」バス停で下車してください。バス停から三戸城跡までは徒歩で約20分程度です。三戸駅からバスの所要時間は約10分です。バスの本数が少ない場合があるので、事前に時刻表を確認することをおすすめします。ご自身の旅のスタイルや滞在時間に合わせて、最適な交通手段を選択してください。
周辺の観光名所:三戸城とともに巡る
三戸城跡周辺には、三戸町の歴史や文化、自然に触れることができる魅力的な観光名所が点在しています。
道の駅さんのへ:三戸城跡から車で数分ほどの場所に位置し、地元の特産品であるりんごや南部せんべい、にんにくなど、三戸町の逸品を豊富に取り揃えています。レストランも併設されており、食事や休憩にも最適です。
南部利康霊屋(なんぶとしかねおたまや):三戸城跡からも比較的近い場所に位置し、南部氏の歴史を伝える重要な史跡です。漆塗りに極彩色、鍍金金具を施した豪華な霊屋で、県の重宝に指定されています。
長栄寺:南部氏ゆかりの寺で、檜山御前の墓とされる五輪塔や、正応二年(1289年)建立の「正応の碑」があります。
諏訪内観光ぶどう園:季節限定でぶどう狩りが楽しめる観光ぶどう園です(9月上旬~10月中旬頃)。
これらの場所は、三戸城跡と合わせて巡ることで、三戸町の歴史と自然をより深く理解する手助けとなるでしょう。点在する史跡を巡り、北の地に息づく物語を感じてみてください。
ご当地の味とおすすめ店:城の近くで楽しめる食事&喫茶店
三戸町を訪れたなら、ぜひ地元の味覚も楽しんでください。三戸町は、豊かな自然と歴史に育まれた食材の宝庫です。
南部せんべい:青森県南部の代表的な郷土菓子で、三戸町でも様々なお店で製造・販売されています。香ばしい素朴な味わいで、お土産にも最適です。
せんべい汁:八戸市が発祥ですが、南部地方全体で親しまれている郷土料理です。南部せんべいを汁物に入れて食べる独特の食感と、鶏や魚介の出汁が効いた温かい味わいは、ぜひ一度試してほしい逸品です。
りんご製品:三戸町はりんごの産地でもあるため、新鮮なりんごや、りんごジュース、アップルパイなどの加工品も楽しめます。道の駅さんのへで手に入れることができます。
その他、地元で採れた新鮮な野菜を使った料理や、素朴な郷土料理を提供する飲食店が点在しています。
おすすめのお店としては、道の駅さんのへ内のレストランや、「レストラン みうら」などが地元の味覚を提供しています。また、「きんか堂」などの和菓子店では、名物のきんか餅や南部せんべいを購入できます。観光客向けのお店は多くないかもしれませんが、地元の人々に愛される素朴な雰囲気の店で、温かい食事や飲み物を楽しむことができます。
まとめ:三戸城、歴史と自然が織りなす北奥の名城跡
三戸城跡は、南部氏が本拠とした歴史ある城跡であり、その広大な敷地と残された遺構から、往時の繁栄と武士たちの息遣いを肌で感じられる場所です。春の桜、秋の紅葉など、四季折々に異なる美しい表情を見せる城山公園は、訪れる人の心を強く惹きつけます。
旅の秘訣としては、城跡は屋外の散策となるため、季節に合わせた服装や歩きやすい靴を用意することです。また、公共交通機関を利用する場合は、事前に時刻表をしっかり確認し、時間に余裕を持った計画を立てることが挙げられます。ぜひ一度、この北の大地の歴史の舞台に足を運び、忘れられない思い出を作ってください。
この記事を読んでいただきありがとうございました。